「冨岡ァ、飯ィ」
「いつも作らせて悪い」
「別に…鬼殺隊解散して片腕無ェテメェの面倒見るやつも居ないんじゃ仕方ねェだろォ」
元・柱の不死川実弥、冨岡義勇は同居している。
互いに不自由なく過ごせるように協力しあうと決めた結果の同居なので、家の中で仲睦まじく話すことはない。
柱の時と変わったのは喧嘩が少なくなったということだけだ。
「不死川、俺は今日炭治郎のところへ行ってくる。その間に本を買ってきてほしいんだが頼めるだろうか」
「本?別にいいけどォ、他に買い出しもあるしなァ」
「この小説の下巻を頼みたい」
「あー…それ、漢字分かんねェから店員に聞けねェ」
小さい頃から寺子屋にも通わず、弟達と一緒に働いていたため平仮名や簡単な漢字しか読めない不死川は申し訳なさそうにする。
「そうか」
不死川とは違い、幼少の頃から読書が趣味で漢字もある程度なら読める冨岡だが、鬼殺隊には文字が読めない者が数えきれない程居たので、動揺はしなかった。
(通りで俺の部屋に置いてある本を読みたがらないのか。趣味じゃないのかと思っていたが…)
「今度、一緒に本を読まないか」
「…だから俺、文字読めねェんだけどォ」
「俺が分からない文字を教える…ので、本を読む楽しさを知って欲しい」
自分の好きなものを好きになって欲しいというのは押し付けだろう。
冨岡は自分が失言をしたと思い不死川から目を逸らした。
「悪い、なんでもな…」
「なんで謝んだァ、文字教えてくれるんだろォ?」
思っていた反応とは違い、不死川は柔らかい笑みを見せる。
それはどことなく亡き姉に似ていて、年柄でもなく甘えてしまいたくなる笑みだ。
「お前、柱ん時は自分の気持ち話さなかったじゃねェかァ。今はちょっとずつ、竈門炭治郎だけじゃなく、俺にも話してくれるようになったしィ、いつもおはぎ買ってきてくれるしィ…お前の好きなものに俺も触れてみたい」
少し照れくさそうに言う不死川を見て冨岡は嬉しそうに笑う。
「なら明後日、一緒に下巻を買いに行こう」
「おう、忘れんなよォ」
「義勇さん!最近上機嫌ですね!」
「分かるか?」
「はい!嬉しそうな匂いがします!」
不死川に持っていけと言われた竹の子を持ち、竈門家にお邪魔している冨岡は炭治郎の嗅覚で機嫌を当てられた。
「不死川が同居してから前より優しくなったんだ。今度一緒に本を読む約束もした」
「凄い進歩ですよ!凄いです!」
「同居するのを不死川に提案された時もなかなかに驚いたが、あれ以来話す用事なくてな…たまたま好きな本の下巻が発売されると聞き、誘ってみたんだ」
「義勇さんから!不死川さんと仲良くやれているようで安心しました!」
冨岡の話を自分のことのように喜ぶ炭治郎に横で禰豆子、伊之助とわちゃわちゃしていた善逸は顔をしかめる。
(気づけよぉ!炭治郎!単なる仲良し報告じゃなくて惚気に決まってるだろぉぉ!)
あの鬼より怖いと噂されていた不死川が急に同居を提案し、冨岡と問題なく過ごせている時点でおかしい。
それに2人共、心の内を話せばそれなりに相性がいいので互いに惹かれ合うのも納得がいく。
「なんなんですか、俺が禰豆子ちゃんから結婚お預けされてるの知ってるのにわざわざこんな遠くに来てまで惚気に来て…キィィィィ!炭治郎も炭治郎だよ!カナヲちゃんとの約束があるとか言って最近はずっと午後になったら山降りて蝶屋敷行きやがって!何奴も此奴も!」
「我妻、逆恨みは良くない。うるさい」
聞きたくないという割に他人の色恋沙汰に敏感だなと思うも、これ以上うるさくされるのは御免なので、冨岡は心の内に留めた。
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