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【離してぇ……】
深夜、突然の金縛り。
目を閉じていたら真っ暗な中に真っ白な顔の輪郭がボヤけて人なのか猫なのか分からない何かの映像が視えた。
目が真っ黒で口をパクパクして何か言ってる。あの目の色は良くない類のものだ。
昼にサイクリングしながら少し遠出をしたことを思い出す。
川や自然の多い場所を長時間かけて通ったのでその時に何か拾ったか?と考えていたら、その顔が物凄いスピードでこちらにぶつかって来た。
「あ。やばい入られた」と思ったら、憑依した状態で内側からそいつが絶叫。あまりの絶叫でむしろ発音が聞き取れない。
わんわんと頭の中にそいつの叫びが響くが、金縛りにかかってるから体もあまり動けないし声も出しにくいんだろう。生身はろくに発声できていない。
「……て……して……」と何度も何度も掠れる声を出そうとしている。人に憑依したのは初めてなのだろうか?純粋に金縛りを解けばいいのにと思いながら見守る。変な行動を取るならすぐ追い出すつもりで。
やっとのことで(自分でかけたはずの)金縛りを解いたそいつが、私の表面を取りながら再度絶叫。
「……離してえええ!!!」
どういうことやねんと思い、生身が金縛りで動かないので仕方なく幽体離脱して自分の生身を見たら、隣で寝ていた夫が私の生身を抱き枕にしていた。
突如凄まじい声量で叫んだことに驚いて夫が飛び起き、半分パニックで更に羽交い締め。
「離してぇ……!!」と何度も叫ぶ私の生身。ただなんか、幽体離脱前にも思ったが声が違う。声質が私のじゃない。
夫もそれに気付いたらしくて「雪ちゃ……なんか違う……誰!?」と言っている。
喉の使い方が分かってないから変な声になってるのかは不明だけど、明らかに私の声ではなかった。
そいつは夫に手早く弾き出され、私も慌てて戻ったが、冷静に考えたら、あの「離して」は生身奪えたのに自分より強い存在に羽交い締めにされてたから怖くて叫んでたのか?そう思ったらめちゃくちゃジワる。
まあ「離して」と連呼していたし、人の霊魂だったのかなとは思うけど、本当になんだったんだろう?
弾き出された後も私の背中に貼り付くように薄い人影があるのを察知して、ツリーハウスから外守護を全員呼び、背中と人影の間に結界を作ってもらって安心して爆睡した。
起きたらそいつは跡形もなく消えていたので、外守護達に消されたか元の場所に逃げたのだろう。
それにしても、自分でかけた金縛りを解き忘れるとはアホの極みである。滅多に遭遇しないが、相当天然な霊だったのかもしれない。
【金縛り】
学生時代にいた守護は、ノイと憑依勢が5名(時々不在で3名ほどがローテーションで入れ替わる)、そしてS兄だった。
本家は太い霊道が通っており、毎日違う霊が行き交うような場所だったので、金縛りに遭う頻度もそれなりに高かった。
ある時また金縛りに遭い、何か悪い感じの気配を察知したと同時に、重たく気持ちの悪い何かが内側に侵食してくる感覚があった。強いものが憑依してくるとこんな感覚になる。
直接姿を視ていないので憶測だが、なんとなく男の霊だと思う。
防御したつもりだが貫通され、表面を取られた。表面を取られる時、相手の剥き出しの感情と私の生身は結構同調するので、私自身の霊魂の思念は別であるのだが、生身は表面を取ったものの感情によって喜怒哀楽などが左右されやすい。
なので、今は慣れているが憑依勢とも違うなんともミスマッチな感覚がちょっと気持ち悪い。
憑依勢が表面を取る時は大体の思想が最初から分かっているのと、彼らの人間味のある行動が馴染んでいるのであまり違和感はない。
そいつは瞬時に金縛りを解き、私の寝ていた生身を起こした。行動力のある奴は嫌だなぁと思って後ろからそいつの霊魂を引きずり出そうとしたが、ビクともしない。
しかし、起き上がった生身の目と鼻の先に(敵を吹っ飛ばすのが大好きな)S兄がおり、おそらくS兄の方が格上だったのだろう。そいつが恐怖に包まれたのが伝わってきた。
「中に入って表面を奪えた歓喜」と「目の前にいる奴への恐怖」と「逃げるに逃げられなくなった状況への焦り」、それから私の「この後どうなるんだろうという好奇心(S兄から憑依してきた敵が逃げられるのかという部分)」が混ざって気持ち悪い感覚になっている。
結局数秒後、お約束のように拳を振りかざしたS兄に殴られ吹っ飛ばされていたが、そもそも憑依されたことを自覚する人の方が少ないと思うので、あの憑依中の気持ち悪さは、自分とは別の物に侵食される憑依の感覚に慣れていないと分からないだろう。
多分自覚がない場合は、憑依した奴の方が強くて自身の霊魂が眠らされているような状況なので、外部で見ていた人が普段と違う異変に気付くのだろう。
どちらにせよ、憑依は疲れるのでされない方が絶対にいい。