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数日後、私は一本の電話で目が覚めた。
声の主は、毒使いの敷島だ。
なんでも最近、海外マフィアにより新種の違法薬物が出回っているという。
「その薬はレプタイルといって、田舎の薬局でも手に入るようなものから簡単に生成できる。だから奴らは、安価で生産し、高く売りつけようっていう腹だ。そのうち君のもとにも、被害者がやってくるはずさ。」
そういって敷島は電話を切った。
レプタイル。その名の通り、中毒者たちは最期、全身を痙攣させ、爬虫類のように四肢をこわばらせて死ぬという。
そんな危険なものを、国内に流通させられては困るのだ。
そんな矢先、私のもとに、ある女性が訪ねてきた。その女性は夜の店で働いていたのだが、親友だった同僚が客に”解熱剤”と称する薬を貰い、その後、何かの中毒になった挙げ句、最期は変わり果てた姿で見つかったという。
“解熱剤”が怪しいと思った女性は、客に詰め寄ったものの、途中で逆ギレした客に、腹を殴るなどの暴行を加えられたという。
「あの子の最期は、まるで、ワニかトカゲみたいに…」
それを聞いた私は、すぐにぴんときた。
私は女性に、店、客の特徴などを確認すると、
「それは、解熱剤ではなく、海外マフィアによってもたらされた、新種の薬物の可能性があります。お客様は、くれぐれも摂取しないようにしてください。」
と忠告した。
調べていくと、レプタイルの輸入には、ある政治家が関わっているという。なんでも安価に生産でき、高額で売りさばけると言うことで、ひっ迫した財政を、立て直そうと言うのだ。
まずは売り主と思われる、被害者の店の客を調べる。
すると、その客は、海外マフィアと政治家の、橋渡しをしているグループの一人だとわかった。
「こんばんは…!って、あら!」
客に接近するために、新人のキャストを装って店に潜入すると、そこで、思いもよらぬ人物に遭遇した。
店内には、前回の依頼を行った際、偶然にもターゲットが被っていた、シマの見回りの男と、その舎弟の髪の長い男が座っていたのだ。
「もしかして…。レプタイル?」
私は他の客に聞かれないように、そっと二人に尋ねる。
「ああ。お前もか?」
やはり、彼らもシマを荒らされたと言うことで、例の客をマークしていたらしい。
「五月女さん。今回の件に、政治家が絡んでるのは知っていますか。」
髪の長い男が私に尋ねる。
「ええ、もちろんです。」
「そこで、ひとつお願いがあるのですが…。」
「ええ、どうぞ。」
「組としては、五月女さんには、その政治家を、始末していただきたいのです。売人の男とその仲間たちは、俺達で片付けます。」
確かに、任侠者とはいえ反社会的勢力の一員である彼らに、政治家の始末は難しい。私はすんなりと、その提案を受け入れた。こちらとしても、グループ相手に戦うよりも、一対一のほうが都合が良い。
早速私はその政治家を調べ上げる。
奴は次期財務大臣候補で、各地で演説会を開いては、若者支持層の獲得に力を入れているらしい。物価高や景気悪化を、汚い金で埋めようとしているのだから、こちらが聞いて呆れる話だ。往年の有名俳優の息子らしく、女性関係も派手なようだ。
私は熱心な支持者を装い、まずは演説会に積極的に参加した。二、三度顔を出すうちに、奴は私を覚えたようで、演説終了後、私に一枚の名刺を渡すと、指定した時刻に、行きつけの高級クラブに来るように言った。
私は、露出は殆どないものの、身体の線が強調されるようなドレスを着て、クラブに姿を表した。
奴は濁った目で私を頭の先から足の先まで舐め回すように見ると、この後、一流ホテルのスイートルームに来ないかと、私に誘いをかけた。
「そんなところに呼んでくださるなんて…光栄です。ぜひ、ご一緒させてください。」
私は純真無垢を装って、うやうやしく言葉を返す。それから、恥ずかしそうに笑ってみせ、
「実は…私、コスプレが好きなんです。小悪魔ギャングなんて、いかがですか?」
と付け加えた。
ホテルの部屋で、用意しておいたコスチュームを身に着けた私は、奴がシャワーから出てくるのを待つ。もちろん小道具のうち、銃だけは本物だ。
真っ白なバスローブを羽織って、汚い笑顔を浮かべた奴が寝室に入ってくる。
「あら…お待ちしていましたよ。」
ベッドの上に脚を崩して座り、微笑みかけながらも私はこっそりと、いつでも銃を抜けるようにした。
奴はまっすぐこちらに歩いてくる。私は笑顔を崩さずに、最良のタイミングを待つ。
三…
二…
一…!
「さようなら、大嫌いなオジサン!」
次の瞬間、男の額は真正面から撃ち抜かれ、背後にあった白い壁に、飛び散った血の模様をつけた。
売人とその仲間たちは、計画通り、組の男たちによって始末された。
私はいつも会うシマの見回りの男と、海岸沿いの埠頭へ向かって歩きながら、今回の件をふり返っていた。
「最近シマ内で汚いシノギをやる奴らが多い。先代の頃は、こんなことはなかったんだがな。」
「近頃は海外マフィアや半グレなど、団体のあり方も様々ですからね…。」
「今までどおりのカチコミが、いつ、通用しなくなるかもわからん。俺達は常に、周辺組織の動きに目を光らせていないとな…。」
いつも通り、仕事の話を続けていたのだが、遠くに漁師町のきれいな明かりが見え始めたところで、男がふいに足を止め、
「ユリさん。」
と呼んだ。
「よかったら今度、シマを案内させてくれないか。顔馴染のマスターがいる、俺の行きつけの店もある。今回の件の成功を祝って、共に祝杯を上げたいのだが。」
「ええ、喜んで伺います。」
ハニートラップなどではない、心からの笑顔を見せ、私は男に向かって答えた。