「……なぁ、照、ちょっと相談があるんだけど」
「ん? どうした?」
「……最初はノリだったんだけど」
佐久間は腕を組みながら、俺の隣に座り込む。
「最初は?」
「そう、最初はただのノリでキスしてたんだけど、その後も何回かしてたら最近舌も入れられるようになっちゃって」
「は?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
思わず持っていたペットボトルをぎゅっと握りしめる。
「え、誰と?」
「阿部ちゃん」
「はぁ!?!?」
思わず声が大きくなりすぎて、向かいのソファに座っていたラウールが「ん?」とこっちを見てきた。
俺は慌てて手を振って「なんでもない」アピールをする。
「は……え? いや、待って。どゆこと?」
「だから……最初はノリというか、ゲームで負けた罰ゲームでキスしてて、なんとなく流れで何回かやってたら……最近阿部ちゃん、舌入れてくるようになって……」
「いや、それは聞いたけど…普通にヤバくない?」
「ヤバいよな!? 俺も最初は気のせいかなって思ったんだけど、なんかもう、確信に変わってきたんだよね……」
うん、それは確信どころの話じゃないだろ。
「で、俺どうすればいいと思う?」
「どうすればって……俺に聞かれても分かんないし」
「えぇ〜」
佐久間が深刻な顔になる。
「でも普通に考えてノリだけじゃ舌いれないだろ。ノリでキスすることはまあ百歩譲ってあるかもだけど、その後も何回もしてて、挙句の果てに舌まで入れてくるようになったんだろ? 本気になったってことじゃないの?」
「えっ、阿部ちゃんが?」
「いや、お前もじゃね?」
「……えっ?」
佐久間が固まる。
あれ、もしかして自覚してない?
「佐久間さ、もし阿部が『もうやめよ』って言ったら、すんなりやめられる?」
「……え、いや、それは……うん……」
目が泳いでる時点で答えは出てる。
「佐久間さ、それもう好きなんじゃね?」
「え? いやいやいや!!」
佐久間が大げさに手を振る。
「だって俺も阿部ちゃんも男だし」
「だからまだ自分の気持ちに気づいてないだけでしょ」
俺がそう言うと、佐久間は「うぅ……」と困った顔をしてソファにずるずると沈んでいった。
「……でもさ、もし仮に俺が阿部ちゃんのこと好きだったとしても、阿部ちゃんが俺のこと好きかどうか分かんないじゃん?」
「いや、舌入れてくる時点でそれはないだろ……」
「いやいや、阿部ちゃんって頭いいし、いろんな計算してるかもしれないじゃん」
「そんな計算するやつが舌入れるか?」
「……それもそうか……」
佐久間が頭を抱える。
「じゃあ、もし俺がこのまま『何もなかったこと』にしたら、阿部ちゃんはどう思うのかな……?」
「さぁな。でも、佐久間が気まずくなるってことは間違いない」
俺がそう言うと、佐久間はますます悩んだ顔をする。
「……照、責任取って?」
「なんの責任だよ!」
マジで意味がわからない。
「とりあえず自分の気持ちを整理して、ちゃんと阿部に聞け。『どういうつもりでキスしてきたの?』って」
「直接? そんなの恥ずかしいじゃん!!」
「いや、今さら恥ずかしがるなよ」
「……照のバカ……」
佐久間はふてくされたようにソファに横になってしまった。
まったく、めんどくさいやつだな。
でも、阿部の方は絶対楽しんでやってるよな、これ……。
「まあまあ、頑張れよ」
「……照〜、もうちょっと優しくして?」
「甘えんな」
結局、佐久間はそのまましばらく悩んでいたけど、次の日、阿部ちゃんとやたらいい雰囲気になってたのを俺は見逃さなかった。
コメント
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お・も・し・ろ・い!!!😆😆😆