テラーノベル
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「思い出したくなかった」
翌朝。
辰哉はいつもより三十分早く会社へ着いた。
「……これなら誰もいないだろ」
静かなオフィス。
コーヒーメーカーの音だけが響く。
自分の席へ荷物を置き、パソコンを立ち上げる。
昨日はろくに仕事へ集中できなかった。
今日は切り替えよう。
そう思った矢先だった。
「早いな」
後ろから聞こえた声に肩が跳ねる。
振り返る。
照だった。
💜「……おはよ」
💛「おはよう」
照もいつもより早く来ていたらしい。
ジャケットを椅子へ掛けると、自然に辰哉の隣へ立つ。
💛「眠れた?」
突然の質問。
💜「え?」
💛「昨日」
💛「疲れてそうだったから」
辰哉は少し目を逸らした。
眠れなかった。
正確には。
照のことばかり考えてしまって、眠れなかった。
でも言えるわけがない。
💜「普通かな」
💛「そっか」
それ以上は聞いてこなかった。
昔からそうだった。
照は必要以上に踏み込まない。
でも、ちゃんと気付いている。
その優しさが。
今は少し苦しかった。
────────
午前中。
プロジェクトの打ち合わせ。
部長が資料を配る。
「今回の企画だけど、まずは二人一組で案をまとめてもらう」
嫌な予感がした。
「組み合わせはもう決めてある」
部長は迷いなく名前を読む。
「照と辰哉」
#めめこじ
雫
386
ゆんしょ
1,272
絶対辰哉
1,492
辰哉は思わず天井を見た。
(やっぱり……)
💛「よろしく」
💜「……よろしく」
仕事だ。
私情は持ち込まない。
そう決めた。
────────
昼休み。
会議室で企画書を広げる。
最初の十分。
会話は仕事だけだった。
💛「このターゲット層なら」
💜「こっちの案もありかも」
💛「うん」
💜「じゃあ修正する」
それだけ。
淡々と進む。
昔みたいな笑い合う空気はない。
でも。
不思議と息は合っていた。
💜「……ここ」
💛「ああ」
💜「こうした方がいい?」
💛「俺もそう思ってた」
考えることが同じ。
五年経っても変わらなかった。
────────
夕方。
企画書が完成する。
💜「終わったぁ……」
辰哉は椅子にもたれた。
照も小さく息を吐く。
💛「お疲れ」
💜「お疲れ」
少しだけ。
昔みたいに笑えた気がした。
その時。
「照さん!」
昨日と同じ女性社員が駆け寄ってくる。
「これ見てもらえますか?」
💛「いいよ」
照は席を立った。
女性社員は照の隣に並びながら楽しそうに話している。
辰哉は無意識にその光景を見つめていた。
「……」
胸の奥が少しだけ痛む。
別に。
もう恋人じゃない。
誰と話そうが自由だ。
そう思っているのに。
視線を外せなかった。
────────
その日の帰り。
エレベーターで二人きりになる。
静かな空間。
照が壁にもたれながら口を開く。
💛「辰哉」
💜「ん?」
💛「今日」
💛「久しぶりに一緒に仕事して思った」
辰哉は照を見る。
💛「やっぱりやりやすい」
その一言だけだった。
エレベーターが一階へ着く。
ドアが開く。
照は先に降りる。
💛「また明日」
それだけ言って歩いていく。
辰哉はその背中を見送りながら、小さく苦笑した。
💜「……ずるいよ」
そんなことを言われたら。
また期待してしまうじゃないか。
期待しちゃいけないのに。
まだ。
心のどこかで、あの日の続きを探してしまう自分がいた。
コメント
1件
第2話、読みました…! 照との仕事中のやり取り、すごく切なかったです。「やっぱりやりやすい」って照が言うところ、めっちゃ胸にきた…。でも「ずるいよ」って思う辰哉の気持ち、わかるなあ。 そして女性社員が照に話しかけてる場面、視線を外せなかったって描写に、まだ好きなんだなって伝わってきて苦しくなりました。 続き、どんなふうになるんだろう…気になりすぎます🥀