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週末。
プロジェクトが始まって最初の金曜日。
午前中の会議が終わり、それぞれデスクへ戻る。
辰哉は資料をまとめながら、小さく肩を回した。
💜「はぁ……」
久しぶりに頭を使った一週間だった。
いや。
疲れた理由は仕事だけじゃない。
照がいる。
それだけで、昔の記憶が勝手によみがえる。
忘れたはずだったのに。
────────
昼休み。
社員食堂。
辰哉は一人で空いている席に座った。
すると。
「ここ、いい?」
聞き慣れた声。
顔を上げると、照がお盆を持って立っていた。
💜「……いいよ」
向かいに座る照。
昔なら何も思わなかった距離。
今は少しだけ落ち着かない。
💛「それ、まだ好きなんだ」
照が辰哉の昼食を見る。
オムライス。
💜「え?」
💛「高校の頃も毎回頼んでた」
辰哉はスプーンを持つ手を止めた。
そんなことまで覚えてるのか。
💜「照こそ」
💜「唐揚げばっかじゃん」
💛「好きだから」
💜「変わってないね」
💛「辰哉も」
目が合う。
どちらともなく笑った。
その瞬間だった。
「照さん!」
またあの女性社員だった。
トレーを持って近付いてくる。
「隣、座ってもいいですか?」
💛「ああ」
自然な流れで照の隣へ座る。
辰哉は何も言わず食事を続けた。
女性社員は楽しそうに話している。
照も普通に受け答えをしていた。
その光景を見ているうちに。
オムライスの味が分からなくなった。
────────
午後。
資料室。
企画書を探していた辰哉は、高い棚のファイルへ手を伸ばす。
あと少し。
届かない。
その時。
後ろから腕が伸びた。
ファイルがするりと抜き取られる。
💛「これ?」
照だった。
距離が近い。
辰哉は一歩後ろへ下がる。
💜「ありがとう」
💛「無理して取ろうとしてただろ」
💜「バレた?」
💛「昔から変わらない」
照は少し笑う。
昔もそうだった。
届かない物は、いつも照が何も言わず取ってくれた。
辰哉はその優しさに甘えていた。
でも今は違う。
💜「自分で取れたのに」
💛「そう?」
💜「……多分」
照は小さく笑った。
💛「強がるところも変わらない」
辰哉は返す言葉が見つからなかった。
────────
夕方。
退勤時間。
照がパソコンを閉じる。
💛「辰哉」
💜「ん?」
💛「駅まで一緒に帰る?」
一瞬だけ迷う。
昔なら迷わなかった。
でも。
💜「……今日はやめとく」
照は少しだけ驚いた顔をした。
💛「そっか」
それ以上何も言わない。
辰哉は荷物を持って先に会社を出た。
────────
会社から少し離れた公園。
ベンチへ座り、深く息を吐く。
💜「……何やってんだろ」
一緒に帰りたかった。
本当は。
でも。
これ以上近付いたら。
また好きになってしまう。
もう一度失うくらいなら。
最初から距離を置いた方がいい。
そう思っていた。
その頃。
会社の窓から外を眺めていた照も、小さく息をつく。
💛「また逃げられた……」
五年前。
別れを切り出された日から。
辰哉はずっと、自分との距離を測っている。
そのことに照は気付いていた。
そして。
まだ知らなかった。
辰哉が距離を置く理由が。
“嫌いだから”ではないことを。
コメント
1件
第3話、読み終えたよ……。お昼の食堂で向かい合って食べる二人、昔の習慣がそのまま残ってる感じが切なかったな。僕もそういうの覚えてても、今は言えない言葉とかあるんだよね。資料室で代わりにファイル取ってくれる照さんの優しさ、辰哉が距離を置く理由が「嫌いだからじゃない」っての、すごく心に残った。まだ本心は見えないけど、続きすごく気になる🌙
#いわふか
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