テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「離して……もう昴くんは友だちなんかじゃないんだから……」
「俺が友だちじゃなくていいって言ったのは、前進したかったからなんだ! 友だちより深い関係になりたかった」
「それってセフレじゃないの? そんなのならないから!」
「違う! どうして七香は俺を信用しないんだよ。高校生の時は俺のことが好きだって言ってたじゃないか! あの時の気持ちはもう影も形もないのか⁈」
「……あの頃のままなんて残っているわけがない。形なんてとっくに変えてる」
七香の言葉に、昴はショックを受けたように肩を落とす。
「もう俺への好意は……残ってない?」
「そんなわけないじゃない。昴くんが好きよ……でもそれはあの時の好きとは違う。だってあなたは早紀さんしか見ていない。そんなあなたに恋をしているのが辛すぎるから、私は昴くんを友人として好きになることに決めたの。そこで恋はおしまい。だって昴くん、クズ男だけど放っておけないんだもの」
「なんだよ、それ。酷くない?」
「どっちがよ」
だって仕方ない。私が好きになったのは"早紀さんを好きな昴くん”だから。
「それは……七香を好きな俺には興味がないってこと? もう俺を好きにはなれない?」
「だってそんな昴くん知らないからわからない……」
「どんな俺でも俺じゃないのか? 七香は俺の中身を好きになったわけじゃないのか?」
「それはそうだけど……」
「俺は……! 確かに早紀さんが一番だった。七香をすぐに好きになったわけじゃない。でも七香が与えてくれる愛情で少しずつ心が満たされて、早紀さんへ抱いていた愛情よりも大きくなって、形は違うけど、七香を愛したいし、大切にしたいと思ったんだ」
声を荒げた昴の声と腕は震えていて、彼が嘘をついていないように思えた。それでもどこかで認めることを躊躇う自分がいる。
「何よ、形は違うって……愛し方って一緒じゃないの?」
「違うよ。早紀さんのは……俺の中では破滅的な愛だった。この先どうなってもいいやとか、今が良ければそれでいいーー燃え尽きて終わり、何も残らないんだ。だからその時は満たされても、その後の空虚感は否めなかった。でも七香は違う。七香といると、未来を望みたくなるんだ。朝ごはんは何を食べようとか、行きたいって言っていたスイーツ店を予約しなきゃとか、簡単な未来かもしれないけど、それすら今まで気持ちを持つことが出来なかったんだ」
七香の瞳からは、大粒の涙がポロポロと溢れ落ち、口からは嗚咽が漏れる。彼の口から溢れる言葉は、ずっと七香が欲しいと願っていたものだったから。昴は自身のTシャツで七香の涙を拭いながら、髪を優しく撫でた。
「ねぇ……私がいなくなって、どう思った……?」
「地獄だったよ。もうこのまま世界が終わってもいいって思えるほどの絶望感だった。でもおかげで早紀さんと決別して、七香しかいらないって思えた」
彼の心が自分に向く日が来るなんて思わなかった。昴のそばにいられたらそれだけで嬉しかったのにーー。
「……そこまで言われちゃったら、許すしかないじゃない」
その時、突然昴の腹の虫が大声で鳴いたため、七香は思い切り吹き出してしまう。
「あはは! もしかして朝ごはん食べてない?」
「七香がいなくなってから、まともに食べてない」
「そうなの? じゃあとりあえず昼食だね。あっ、それにデザート買ってきたの! 後で一緒に食べよう」
「それは楽しみだな。準備、俺も手伝うよ」
「本当? ありがとう。助かるよ」
白山小梅
12
#借金
二人は微笑み合うと、ようやく戻ってきた当たり前の時間の大切さに胸が温かくなるのを感じた。