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第2話:斧と剣の使い方
ブックスペース、超強ファンタジー棚の待機ゲートには、リ・ヴァンス=コルトの名と“残り8分”の表示が浮かんでいた。


楠木レイは、ゴーグル越しにその数字を見て、ひとつ息を吐いた。

身長は高く、大学生らしい体格のVRアバターには銀の鎧と赤いマントが重なり、現実より少しだけ自分を大きく見せていた。リ・ヴァンスを待つために、今日は早起きした。


超強棚ではこのキャラが常に上位人気。日曜の朝は混み合い、30分待ちもざらだが、今日はまだ空いている。

SNSの話題でも、“ログイン待ちが短い日”としてにぎわっていた。少し前にシステムの軽量化が行われ、演出面に変化が出たのが原因らしい。


その調整を行った学芸員ツチダのアカウントでは、モーションの短縮や“間”の処理について技術的な投稿が続いている。演出に敏感な層の間では、その数秒の違いすら話題になっていた。


レイはログインキーを選び、物語へ入った。




深い森。風の音。枯葉の香りまで再現された世界に、木こり姿の自分が立っていた。日焼けした肌、短く刈られた髪。斧を背負い、革のガントレットが左腕に締められている。剣は腰にない。戦わない期間設定のリ・ヴァンスだった。


斧の重みを感じながら森を進むと、場違いな少年のアバターが姿を現した。恋愛棚からの越境だろう。装備の色味も演技の間も明らかに違う。道に迷ったと説明され、助けを求められた。


一瞬、斧を構えかけたが、レイはそれをゆっくりと地面に置いた。このキャラは、本来そういう選択をするはずだった。剣を抜く強さではなく、斧を置く強さが求められていた。


レイは、草で作る傷の手当てや、炎の色で気温を知る話を語りながら、少年の安全を確保した。その言葉に台本はなかった。自分の中にあった記憶と想像が、物語の間を埋めた。


ミッションは通常より長引き、途中からは台本のイベント分岐を外れていたが、物語は破綻しなかった。むしろ、流れるように展開していった。


演出終了後、観賞モードの視聴者たちがSNS上で感想を共有していた。演技の自然さ、戦わない判断、その空気がすべて記録されていたようだ。


そして、ログアウトの直前。ブックスペース公式アカウントが更新された。ツチダによる記録が完了した通知だった。草話と分類される特別回。分岐の保存が完了したと告げていた。


レイはその文字を見つめたまま、しばらく動かなかった。

戦わないまま終わる回。それでも、手応えは強かった。

彼は静かにSNSのプロフィールを開き、新しいタグをひとつだけ足した。

リヴァンス布教部。名前も理由も、何も語らずにそっと。

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