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「いきなり、奈落に引きずり込まれていったから、驚いたんだよ。もう、いるなら返事してよ」
「ごめんって……てか、ここから叫んでも、聞えなくない?」
「だったとしても……はあ、ほんと、ぴんぴんしてる。心配したこっちがバカみたい」
「いやいや、心配してくれて、ありがとうって、嬉しいって思ってるよ。ちゃんと」
ふて腐れているラヴァインに対し、私は嬉しかったと、ちゃんと本音を伝えた。それでも、ラヴァインは、ぴんぴんしてる私を見て、何処か不思議そうな、疑うような目を向けてくる。
少し、嘘を混ぜているが、助けに来てくれたって言うのは本当に嬉しい。
私の事必死に助けようとしてくれたその姿は、アルベドと重なるところがあった。アルベドとかリースは本当に私の事を気にかけてくれて、それで、助けに来てくれるヒーローみたいに思っているところがあるから。ちょっと、理想の押しつけなきもしないでもないけど。
(悪魔のことは、いわなくて良いかな……)
悪魔が召喚されたことは気づいているだろうから、何処に行った、ということだけですまされたらそれでもいいと思った。実際、その方が、ベルにとっても私にとってもいいと思った。
多分、悪魔の印象は、皆悪いから。偽物聖女よりも。
奈落の底だし、幾ら声が響いていたとしても、地上に聞えることはないだろうって思った。そうして、辺りを見渡していれば、奈落の底とは言え、結構眩しくなっていて、地上の光が、下へ降り注いでいる感じだった。もしかしたら、ベルが意図的に暗くしていたのかも知れないと、彼の魔法についても知りたいなあとかも思った。
(でも、あの言葉って……)
最後に脳内に直接聞えてきた言葉は、何となく意味深で、未来予知をしているようだった。助けてくれそうな雰囲気ではあったけど、きっと止められないみたいな、そんな感じにも聞えてしまった。
エトワール・ヴィアラッテアが時間を巻き戻すような、そんな言葉に聞えてならないのは、キッと私だけなんだろうけど。
「――ワール、エトワール!」
「うわっ、えっと、あっと、何?」
「さっきから話してるのに、無視するじゃん。俺の事嫌い?」
「いやいや、何でそうなるの。というか、ス寝方が、子供過ぎて何も言えないんだけど」
「えーエトワールが無視したからだよ。えーん」
なんて、嘘泣きを始めるラヴァイン。面倒くさいなあ、と思いつつ、真剣に考え込んでいたんだなって、ちょっと反省の部分もあって、強くは言えなかった。
グランツも、心配そうに私を見ていて、何だか申し訳ないことをしている気分になってしまって、どう対応すれば良いか迷った。
嘘をついているというか隠しているということもあって、後ろめたくて、どうすれば良いか分からないって。
「……ですが、無事で何よりでした。エトワール様」
「え、あ、うん。死んでたと思ってたの?」
「いえ、エトワール様は、タフなので、そのようなことはないと信じていましたが……もし、エトワール様が命を落したとなれば、俺もその後を追います。貴方を一人にさせませんし、貴方のいない世界では生きていけません」
「うわ……」
「すっごい執着だねえ。第二王子様は」
若干ひいてしまった。申し訳なかったけど。グランツは表情をピクリとも変えていなかったけど。
その言葉はフィクションだけなのよ、といいたかったが、生憎元がフィクションであるからなんとも言えない。でも、実際にその言葉を受けてしまうと、何だかなあ、って思ってしまう。ヤンデレ過ぎる。いつから、グランツはヤンデレになったのか。最初からなのか。
私が狂わせちゃったのかなあ、何て思いながらも、グランツに、取り敢えず、訂正の意味で「ありがとう」といって、私はラヴァインの方によった。決して、グランツが怖いとかそういうんじゃなくて。
「あははっ、重い言葉言うからだよ。第二王子様。重たい愛は、ネチネチした執着心は嫌われるよ」
「貴方に言われたくありません。離れてください」
「引っ付いてきたの、エトワールだもん。ね?エトワール」
「え、ああ……え」
ね? と、いわれて、私はすぐに答えることは出来なかった。グランツとて、自分の愛が重いことくらいは納得しているだろうし、分かっての言葉なんだろうけど、何だか睨まれるのは嫌だなあと思った。睨むなら、ラヴァインだけにして欲しい。
「ぐ、グランツ」
「何ですか、エトワール様」
「まあ、その後追いだけはやめてね」
「何故?」
と、まさかの質問返しをされ、私はさらに目が回りそうになった。何故かなんて効いてくる物だろうか普通。いや、グランツだから聞いてくるんだろうな、何て感じつつも、後追いは絶対にして欲しくないと思った。
グランツには、じゃなくて、皆に。私が死んでも、悲しんでくれるのは、嬉しいし、そう思われるのは悪い気はしない。でも、後追いはしないで欲しいと思った。それは悲しいから。
リースにやられたら、私のメンタルが持たない。勿論、グランツにだってそうだけど、好きな人には、後追いをして欲しくない。
だから、生きていたいっていうのもあるけど。逆に、リースが死んだら私は後追いするのかって聞かれたら、私はしないって言い切ると思う。どれだけ、悲しくても、自分の命を投げ出して、相手の元にいけるなんて思っていないから。
(それに、私はまで死んだら、リースを覚えている人いなくなっちゃうじゃん)
それも嫌。
というか、何でこんな話しになったのかだけ、知りたかった。もう、何でこんな話しになったのだろうか。全部グランツが悪いけど。
「ま、まあ、私は無事だし、心配してくれたのは嬉しいから。ありがとう。でも、後追いなんてしないでね」
「エトワール様」
「これは、命令。絶対に後追い何てしないで。私の大切な人を守って。それが、私の護衛としての生涯の勤めよ」
私がそういいきれば、グランツは、少し考えた後に頭を垂れた。
「御意」
様になっているなあ、と思いながら、彼の言葉を聞けて私も満足した。これなら大丈夫だろうって。まあ、本当に大丈夫かどうかは、私が死んだ後なんだけど……
(死なないから!)
「まあ、大丈夫だよ。エトワール」
「何が?」
「俺が、エトワールを死なせないし、守るから」
「くっさい台詞。似合わなすぎじゃない?」
「本気で言ってるんだけどなあ、何で分かってくれないかな。俺の気持ち」
と、ラヴァインは、本気で言っているのか、いっていないのか分からないような言葉を言う。いつもが調子乗っているから本気に聞えないんだろう。けれど、その気持ちが嘘じゃないことくらいは私にも分かった。
ラヴァインがそう思ってくれるだけでも嬉しい。負けじと、グランツも守りますから、絶対に。といってくれて、また合戦が始まってしまったので、私はラヴァインからもはなれる。ラヴァインは名残惜しそうに私を見た後、ふわりと、花が咲くように笑った。彼の周辺からチューリップの香りが広がる。本当に花が咲いたようで、私は目を奪われてしまった。
幼さが、そこにないラヴァインの顔を見て、彼は私の知っている彼だろうかって、疑ってしまうくらい。
「ラヴィ……」
「俺は、忘れないよ。此の世界がまき戻ったとしても、エトワールのこと、絶対に忘れない。味方でいるって、決めているから。ずっと」
「……っ」
「本気にして。これは、本気」
そういって、ラヴァインは私の手の甲にキスを落とす。それは約束のように、絶対的な言葉のように。私は見惚れて何も言えなくなっちゃって、ラヴァインを見ていれば、バシンとその手をグランツが払った。私にはノーダメージだったけど、ラヴァインにはあったみたいで、もの凄く痛がっているようすがめに入ってくる。
「ちょ、ちょっと、酷いって」
「エトワール様に、何てことしてるんですか」
「これくらい、お前もするだろ。あーもー、空気が読めないんだなあ、第二王子様は」
と、ラヴァインは、少し苛立ったようにグランツにあっかんべーをすると、グランツは大きな舌打ちを鳴らした。
あれ、矢っ張り仲が悪い?
そんなことを思いながら、私は、真実の聖杯をとりにきたんだということを、ここに来て思いだし、二人の名前を呼んだ。
「グランツ、ラヴィ」
二人がこちらを向き、満月と、翡翠の瞳は私をばっちりと捉えた。