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「なぁ、そこのお前」
「なんで何も言わないんだ?」
「なぁ?」
「君に言ってるんだよ?」
『傍観者』
洗面台の前で涙で洗い流したばかりの霞んだ目で鏡に映った自分と目が合った。
「なぁ、お前なんでこんなことするんだ?」
風呂場へ続く血の糸の先には人間の足のようなものが見える。
血で濡れた右手には鈍い感覚だけが残っている。
瞬きをする。
目を開けるとそこは見飽きた公園のベンチだった。
一瞬の安堵もすぐに過ぎ去り、鼻を突く血の匂いですぐに現実へと引き戻される。
ベンチから立ち上がり家まで続く道に足をのせる。
道の途中で人間とすれ違ったが、いつか見た異様な光景が頭に流れ、込み上げてくる物を抑えるのに必死になった。
玄関の扉の前に立ち、鍵を開けて自分の家へと入る。
靴を脱ぎ、廊下を進み、右手に見える洗面所の扉を開け、そのままの勢いで風呂場の扉も開ける。息を止めても臭う腐敗臭とは裏腹に風呂場の死体は消えていた。その代わりに身に覚えのない植木鉢と腐葉土の袋が風呂場に無造作に置かれていた。
自分の気づいていないうちにもう1人の自分が勝手に行動することに対しての恐怖が口から溢れ出る。
「何か言ってくれよ…」
「俺の中にいるそこのお前だよ。」
「お前もだよ」
「なんで何も言わないんだよ。」
「画面の前にいるお前だよ。」