──待ち合わせの場所で、彼が来るのを待っていると、思わぬ人が通りすがるのが、ふと目に入った。
気づかれたくはなくて、視線を逸らしてうつむいたけれど、
それよりも早く相手に気づかれて、こちらの気持ちなどお構いなしといった風で、「あっ!」と、大きな声を上げられた──。
足早にこちらへ歩いて来る姿に、あまり会いたくもないからと、その場を少しの間だけでも離れていようと、歩き出そうとした矢先に、相手に目の前に立ちはだかられて、私は逃げ場を失ってしまった……。
「──久しぶりだな、美都」
前方を塞ぐように立たれ、ぶしつけに声をかけられて、
「ああ……うん」うつむいたまま、歯切れの悪い返事を口にする。
「仕事の帰りなのか? 今も同じ職場で働いてるのかよ。広告代理店みたいに忙しい業界じゃなく、もっと楽に働けるところにすればいいと、前にも言っただろう?」
距離感もわきまえずにまくし立てた挙げ句に、”前にも”などとマウントを取ってくる口ぶりが勘にさわる。──そうこの男は、以前に付き合っていた彼氏だった。
同時に、『もう少し身長が低ければ、女らしくて可愛いのに』──彼にかつて言われた言葉が、頭の中に苦く蘇った。
早く切り上げたくて、必要最低限のこと以外は何も喋らずにいると、「時間あるなら、これから食事でも行かないか?」と、向こうから誘ってきた。
「行かないから」とだけ、答える。
「どうして? 俺と別れて、どうせヒマなんだろう?」
なぜこの男は、こうも自分勝手なんだろうと思う──。付き合い始めた当時は、優しくていい人だと思えていたのに、いつからかこういうエゴイスティックな言動ばかりが鼻に付くようになって、別れたいと感じた時のことが改めて浮かんだ……。