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怖いか、そう聞かれたら怖いって言ってしまう。
もしかしたら、私もその魔法で殺されるかも知れないから。見つめられて、知らないうちに、内側から凍らされて殺される。悶え苦しむ時間は少なくても、知らない間に殺されている。その寒さは、きっと、人間じゃ抱えきれないほどの温度なんだろう。
ゾッと、私は身体を震わせて、両手で身体を包み込む。
そんな魔法が、ユニーク魔法があるのだろうかと。
そもそも、ユニーク魔法というのが、どういうときに発動して使えるようになるものか分からない。攻略キャラしか使えないと思っていたけれど、そんなことなくて、いや、普通に世界という広い目で見たら、そりゃ、ユニーク魔法という魔法がある時点で、持っている人はいるだろう。普通は、話そうとしないけれど。
「ステラ」
「……お父様」
「何だ」
「何だか、お父様、寒そうです。それに、とても冷たい」
彼のまわりを漂う空気は、先ほどよりも冷たかった。ドライアイスみたいな、触ったら熱いけれど、冷たいから熱いみたいなあのなんともいえない感覚。フィーバス卿の吐く息は白くて、私は寒くないのに、彼の肌はさらに白くなっていた。もしかすると、と私がフィーバス卿の頬に触れれば、予想通り、とても冷たかった。冬場の金属よりも冷たい。
私の予感は的中していたのか、フィーバス卿は手をはなすよう私に指示した。
「冷たいだろう。これが、代償だ」
「代償……ユニーク魔法の?ですか」
「ああ。あまり使いたくないが、これが一番効率がいい」
と、フィーバス卿はふうと息を吐く。やっぱり白くて、心配になる。
ユニーク魔法に代償があるのだろうか。グランツは代償などなくて戦っていたけれど、ユニーク魔法の種類によるのだろうか。分からない事だらけだが、使いたくないのに、使った、効率がいいから、というのはあまりにも自分の身体を心配してなさ過ぎる発言だと思った。
私の魔法で暖められたり、そのユニーク魔法の後の冷えが緩和できたりすればいいんだけど、きっとそうもいかないだろう。一応、聖女の身体ではあるが、聖女でも出来ることが限られている。
「あの、代償っていうのは、身体が冷えるっていうことですか?その、寿命とかが削られるんじゃないですよね……」
「寿命か。どうだろうな。だが、身体には毒だ」
なんて、フィーバス卿は返してくる。はぐらかされたのだろうか。でも、寿命が削られないと言って、身体に毒なら同じことのように思えた。この魔法を使わなくても、フィーバス卿なら他の方法でも殺せたはずなのに。人殺しは推奨していないけれど、フィーバス卿なら上手く出来た、そう思っていたのだが、違ったのだろうか。もしかして、戦闘向けの攻撃魔法は苦手とか……
(防御魔法が得意だからあり得るかも……)
反対はしかり、見たいな所があるのかも知れない。だったら、私に手伝わせてくれれば。
いや、フィーバス卿は、私の手を汚させないために、今回の行動を取ったのだろう。何も言わずに、勝手に……
「食事が冷めてしまったな。全く……本当にどこから入り込んだんだ」
「お父様」
「そいつらは使用人に片付けて貰う。ステラ、場所を変えよう」
「変えるって?」
「ユニーク魔法について話しておこうと思う」
先にいっているぞ、とまた彼は身を翻し、背中を向けて歩き出す。何だろうか、その背中が冷たく、遠くに見えるのは。
何も言わない、背中で語る男みたいにみえるけど、何というかまたそれは表現が違うような気がする。そもそも、敵には背中を見せないから、心を許してくれているという証拠なのかも知れない。そうだったとしたら、また面倒くさい方法で……とも思ってしまうけれど。
私は、まだフィーバス卿の屋敷の構造を完全に把握しているわけではないので、彼を見失わないように、走ってついていった。床には、三人の暗殺者がかたまって死んでおり、彼の魔法の威力が壮絶であることを物語っている。本当にどうやったら、あんな芸当を……
聖女でもあんな技は出来ないだろう。ユニーク魔法、唯一無二の魔法だからこそ出来ること。けれど、代償を払うユニーク魔法。まだ、私の知らないことが多いと、この際、色々聞いてみるのもありかと思った。まだ、お腹は空いているけれど、それどころじゃないし、さっきの一件で、食べる気にはなれなかった。
場所を移し、フィーバス卿は談話室のような所に私を招く。お茶は淹れるか、と聞いてきたので、私はそれを断り、席に着いた。フィーバス卿は、疲れたように腰を掛け、私の方を見てきた。吐いている息は、もう白くはないが元気がないように思える。ユニーク魔法のせいなのかも知れない。年というほど、年でもないし。
「そ、それで、ユニーク魔法について教えてくれるんですよね」
「ああ。何から話そうか……さっきも言ったとおり、俺のユニーク魔法は、相手の心臓を凍らせる魔法。複数人一緒に魔法を掛けることが出来るが、その代償として、俺も内側から凍るような寒さを受ける。人数分だ」
「じゃあ、三人分の……それって、大丈夫なんですか」
「ああ、死にはしない。だが、息もできない、たってもいられないような寒さだ」
と、彼は簡単に言ってのけた。立ってもいられないといったのに、立っていたじゃないかと突っ込める空気ではなかったが、でも、立っているのがやっとだというのに、彼はなんともない涼しい顔で。
「まあ、この地にいれば、魔力は自然と回復する。ここ以外で、あの魔法を使ったことはない」
「じゃあ、ここの呪いと、そのユニーク魔法は相性がいいから……でも、死なないからって乱用したら、身が持ちません」
「そうだな」
「そうだなって、簡単に言いますけど。代償付きのユニーク魔法なんて初めて聞きました。私の知っているユニーク魔法はもっとこう……」
そこまで言いかけて、私は口を閉じた。人のユニーク魔法をべらべらと喋るのはいけないと思ったからだ。といっても、知っているのはグランツだし、グランツは公言しているからいってしまっても良いのかも知れない。いや、個人情報だ。
「代償が無いものが少ないのは分かっている。だが、高威力の魔法ともなれば、魔道士の魔力量じゃ補えないところを、身体で受ける……俺のはそれだ」
魔力の供給が追いつかなくて、凍えるというのだろうか。本当にいったいどれほどの魔力を使えば、あんな魔法が放てるのか不思議だ。けれど、ここにいるからといって何度もうっていては、身体に悪いのは明白だ。
「もう、使わないで下さい」
「何故だ」
「身体に悪いからです。確かに、ユニーク魔法は、唯一無二のものですけど。ここにいたら、何度も使えるものかも知れませんけど!でも、使って、お父様が、苦しむのは嫌です」
「……」
「それに、そのユニーク魔法怖いです」
「そうか」
「お父様は怖くないです。ただ、そのユニーク魔法は、簡単に人を殺せるんだと」
私はそこまで言って言葉を句切った。これ以上いったら、また否定しそうだったからだ。
フィーバス卿は大きく息を吐いて、口元に手を当てた。
「発動条件は勿論ある」
「ユニーク魔法のですか?」
「ああ。そうじゃなきゃ使えない。ユニーク魔法も、便利なものじゃないからな」
代償を払わなければならない上に、発動条件もあるのか、と私は呆れてしまった。グランツが、平気でユニーク魔法を使っていたから、個人の魔法は簡単に打てるものだと思っていた。リースも、アルベドのユニーク魔法も分からないけれど。
「では、その発動条件とは?」
「魔法を掛ける相手が、自分に対して、恐怖心を抱いているかどうかだ」
「恐怖を」
「簡単に言えば、自分より格下で、尚且つ俺に負ける、逃げたいといった恐怖心に繋がる感情を抱いたものにだけ、あたる魔法といえば良いか」
「な、成る程」
「だから、楽だといったのだ。ああいう奴らを倒すには」
そういって、フィーバス卿は足を組み替えフッと何処か寒そうに笑った。
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