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#リオラ軍団
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めっちゃ続きが気になる終わり方!拓の観察力から愛莉の隠れた不安を読み解くシーンがかっこよかった。自己奉仕バイアスの話も勉強になるし、伏線がしっかり張られてて読み応えあるわ。未来視で見えた♡♡♡をどう防ぐのか、次話が待ちきれない🔥
高山恭一は、グラウンドで大きく伸びをした。
現在、体育の授業中だ。長距離走のタイムを測り終え、一息ついていたところである。
以前は体力に自信がなかったが、”あのバカ”と一緒に行動するようになった結果、運動量が多くなり、自然と体力がついていった。今回の長距離走もクラスの平均より上の結果だった。
”あのバカ”と過ごすようになってから、恭一の生活は一変した。
一生分の血生臭い事件を体験した。
ただ、ここ最近は平穏な日々が続いている。その落差からか、退屈を感じるほどだ。つい、あくびが出てしまう。
しかしながら、その退屈を憎みはしない。むしろ愛おしささえ感じた。誰も不幸にならないのであればそれでいい、と思うのだ。
あくびを噛み殺していた、そのとき。
「どうした相棒、寝不足か」
声のしたほうを見ると、”あのバカ”──白村拓がいた。
眉目秀麗、頭脳明晰、実家は金持ちという、誰もが羨む好男子。
一方、将来は探偵を目指しているという、変わった夢を持つ男である。
恭一とは住む世界が違う人間であることは間違いないが、拓が「相棒」と呼びかけたように、恭一と拓は行動をともにしていた。
恭一には、特殊な能力がある。
触れた相手の未来が見えるという、『未来視』だ。
それまで呪いとしか思えなかったその異能を、恭一は封印して過ごしてきた。しかしとあるきっかけにより、恭一はこの能力を使い、拓とともに『未来視探偵』として活動するようになったのである。
拓との出会いは、恭一にとって、紛れもなく重要で、かけがえのないものだった。無論、そんなことは口が裂けても言えないが。
恭一は、にっと笑い、話しだした。
「まあな。初めてスマホゲーをしてみたんだが、これが意外と面白くてな。それで寝不足になっちまった」
「へー、どんなゲームだ?」
「ピンチの王様をパズルを解くことで助けるゲームだ」
「おいおい、それって広告とかでよく目にするやつだろ。詐欺じゃないのか?」
「今のところ無課金でプレイできてるぞ。しかもこれがちょうど良い難易度でな。時間を忘れてプレイしちまった」
「へー。パズルなら俺もやってみようかな」
平凡で、平和な、男子高校生の会話である。
これがいつまでも続けば良い──そう思っていたのだが。
「いい加減にしてよ!」
穏やかな空気を乱すような声が聞こえてきた。
声のほうを見てみると、女子二人が険悪なムードになっていた。クラスメイトではあるが、顔と名前を覚えるのが苦手な恭一には、二人が誰なのかわからなかった。
「怒鳴ったのは本間まゆ。もう一人は水科愛莉だ」
恭一の心中を察したかのように、拓が補足してくれた。
「どちらも水泳部で、一年ながら大会のメンバーに選ばれている実力者だ」
「ほう。さすがの情報網だな」
「可愛い女子は漏れなくチェックしてるんでな」
もしこの発言を恭一がしようものなら、周囲からキモがられることは間違いない。
だがしかし、拓が同じ発言をしても冗談として受け入れられることだろう。世の中は不条理である。
それはそれとして、二人の言い争いに耳を傾ける。
「何か文句あるの」
水科愛莉は、怒鳴ってきた本間まゆに、動じることなく応じた。
「あんた最近たるみ過ぎなのよ!」
「重要なのは部活でしょ。体育で本気出したら体力が持たないじゃん」
「その部活だって朝練サボってたじゃない! あんたいつ本気出すのよ! もうすぐ大会なのよ! あたしとあんたは一年で唯一、メドレーリレーに出るんだよ。先輩たちを差し置いて出るんだから、絶対勝たなきゃならないのに。気を引き締めなさい!」
「充分引き締めてる」
「その割には最近タイム落としてるじゃん!」
「……ちょっと調子が悪いだけ」
「ちょっとどころじゃないでしょ! このままじゃあんたのせいでボロ負けよ! あんた前に『天才の私が引っ張っていくから』ってイキってたでしょ! いい加減調子を戻してくれないと全員が迷惑するのよ!」
「……迷惑してるのはこっちのほう」
「はぁ?」
「まゆが私の足を引っ張ってる。その自覚を持ちなさい」
「意味わかんないんだけど」
「前にまゆが友達としてた私への陰口、聞いちゃったの」
「……っ!」
「そのせいで悩んで、寝不足になった」
「…………」
「勉強だってそう。まゆ、私によく聞きにくるでしょ。そのせいで私のほうの勉強が遅れて、取り戻すために夜ふかししなくちゃならなかった。まゆの考えなしの行動のせいで、私の生活は乱れてしまった」
「ひ、人のせいにしないでよ!」
「とにかく、私は精一杯やってるの。私の調子が悪いのは、あなたや──」
愛莉は、一拍置いてから言った。
「周りのせいよ」
まゆは、遠目でもわかるくらい顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。
恭一が辟易しながら眺めていると、
「彼女たちの話を聞いて思いだしたんだが」
拓が言った。
「『自己奉仕バイアス』って知ってるか?」
バイアス、という言葉は聞いたことがある。
偏見とか、先入観とか、そういう意味だったか。
ただ、自己奉仕バイアスなる単語は初耳だった。
「何だそれ?」
「自己奉仕バイアスってのは、成功は自分の才能や力のおかげで、失敗は不運や他者、環境のせいだと考えてしまう、認知バイアスの一つだよ」
「へー。たしかにそういうこと言う人、よくいるな」
水科愛莉が口にした『調子が悪いのはあなたや周りのせい』という言葉も、それにあたるかもしれない。
「うむ」
拓は頷き、続ける。
「ていうか、大抵の人はそういう思考をするだろう。誰だって失敗を自分のせいだって認めたくないものだ。自尊心を保とうと防衛本能が働いてしまうんだよ」
「なるほど。無意識のうちにそういう考えになる、と」
「心を病まないためにも、そういう思考になること自体は悪くない。ただ、これが行き過ぎるのも良くない。失敗は全部まわりのせいだと断ずるのは、自身を顧みず、成長の機会を逸する──つまりは怠惰でしかないからな」
「相変わらずお詳しいことで」
恭一は皮肉交じりに言ったが、いつものような軽口が返ってこない。
拓は、じっと彼女たちのやりとりを見つめていた。
「ところで恭一。水科さんを見てどう思う?」
「どう思う、とは?」
「彼女の一挙手一投足を見て、彼女は今、何を考えているか推理してみてほしい」
その行為にどんな意図があるのかは不明だが、恭一は言われるがままに、水科愛莉の観察を始めた。
愛莉は胸を張り、堂々と佇んでいた。
恭一は唸りつつも、自身の推理を語った。
「水科さんは、自分の信念を強く持ち、本間さんに対して毅然と対応している──ように見えるな」
それを聞いた拓は、視線を前方に据えたまま言った。
「俺はまったく別の印象を受けた」
「別の印象?」
「うむ。どちらかというと、恭一が抱いた印象とは真逆だ」
恭一は、改めて水科愛莉を見てみた。
しかしながら、先ほど抱いた印象と変わらない。
愛莉は、堂々と佇んでいるように見える。
「何を根拠にそう思ったんだ?」
恭一は尋ねた。
「まず彼女、まばたきが明らかに多いだろ」
そう言われ、恭一は目を細めて注視した。
離れた位置にいるためわかりづらいが、たしかに愛莉のまばたきは多いように見える。
「会話の最中にまばたきが多いのは、その人が緊張していることを意味している。触れられたくない、後ろめたさを感じる話題なのかもしれない」
そういうものなのか、と恭一は思う。
拓は続ける。
「それから目の動きもよく見てみるんだ」
「さすがにそこまではわかんねーよ」
「ゲームのやりすぎじゃないか?」
「お前の視力が異常なんだよ」
「探偵を目指すものとして、目は命だからな」
「はいはい。それで、水科さんの目の動きはどうなってるんだ?」
「キョロキョロと動いているんだよ。絶え間なく視線を動かす人は、疑念や不安、恐怖に駆られていると言われている」
なるほど、目は口ほどに物を言うとはこのことか。
しかし。
「でも彼女、胸を張って堂々としているぞ」
その佇まいは、目の動きが表す心理と矛盾しているのではないか。
「胸を張って話すというのは、動物で言うところの『自分を大きく見せて相手を威嚇する』のと同義と言われている。たしかに彼女は、目の前の人に対して攻撃的になっていると推察することができるが……」
拓は顎に手を添え、前方を注視しながら続ける。
「本間まゆに問い詰められた時、水科愛莉は顎先を引いた。もし本当に堂々とした状態ならば顎先は上がる。だが彼女の場合は逆だった。気がかりや不安があると、人は無意識のうちに急所を守る行動──つまり首を隠そうと顎先を引くんだよ。胸を張っていたことも合わせて考えると、不安を悟られないため、虚勢を張っている状態だと考えられる」
そんな細かいところまで観察していたのか。
これまで何度も拓の観察力や推理力を目の当たりにしてきたが、やはり驚嘆に値する。
拓は人差し指を立てて言った。
「以上のことから、水科愛莉は現在、極度の不安や恐怖に駆られているが、それを悟られないように気丈に振る舞っている、と解釈することができる」
恭一は感心したように頷いた。
「なんだかお前、海外ドラマの捜査官みたいだな」
拓は得意げにふふんと笑った。
「そりゃ探偵を志す身だからな。名探偵に近づくために、日々知識をアップデートしているのだよ」
しかし彼は、すぐに笑みを引っ込め、真剣な表情になった。
「それくらいしないと、未来視能力を持つ恭一の隣に並び立つことはできないしな」
ここは茶化すべきではないと判断し、恭一は何も言わなかった。
まもなく愛莉とまゆは、体育教師に仲裁された。
体育教師はまだ何か言っているが、愛莉は構わず歩きだした。校舎に戻ろうとしているのだろう、こちらに向かって近づいてくる。
彼女は視線を下に落としていたため、恭一と拓に気づいていない。
恭一と拓は、彼女に道を譲るように移動した。
そのとき。
突如として愛莉の足元がふらついた。
倒れそうになる愛莉に手を伸ばす。すんでのところで彼女の身体を抱きとめることができた。
だが同時に、恭一の手が彼女の肌に触れてしまった。
(しまった、未来視が発動して──)
恭一の目の前が途端に真っ白になった。
* 水科愛莉の近未来 *
真っ白だった視界に色が戻る。
目の前に広がっているのは、見慣れぬ部屋だった。ファンシーな壁紙、雑然とした勉強机、洋服ダンス、整えられたベッド、その上に置いてあるぬいぐるみ。全体的に少女趣味な部屋である。
(これは……水科愛莉の部屋か?)
未来視が発動すると、恭一は触れた人の視線を介して、『その人の感情が大きく揺れ動く近未来』を見ることができる。
つまり現在恭一が見ているのは、近い将来、愛莉が体験することになる状況である。
愛莉は下を向いた。
彼女は、椅子の上に立っているようだった。
背後を振り返る。すぐそばにカーテンがあった。視線を上向かせ、カーテンレールに結びつけられているロープのようなものを見た。
ロープは、愛莉の首元に伸びていた。
(この状況は……)
まもなく、視界が大きく揺れた。
愛莉がキャスター付きの椅子を蹴飛ばしたのだろう。ガラガラという音、カーテンレールの軋む音、首が絞まる鈍い音が聞こえた。
苦しみ悶える愛莉のうめき声も聞こえるが、恭一にはどうすることもできなかった。
*
突如として視界が元に戻った。
心臓の鼓動が激しくなる。
水科愛莉が自殺する未来を目撃してしまった。
だが現在、自身の腕の中には、生きている愛莉がいる。
愛莉ははっとした表情を浮かべ、
「ご、ごめんなさい」
そう言って身体を離し、慌てて去っていった。
恭一は肩で息をしながら彼女を見送るしかなかった。
未来視が発動すると、体力と精神力を大きく消耗するのだ。
「恭一!」
拓が駆け寄ってきた。心配げな表情を浮かべている。
「もしかして今……」
恭一は頷いた。
「ああ、見た……」
「顔色から察するに──ヤバい未来か?」
「残念ながら、その通りだ」
「いけるか?」
「……当然だ」
自分にしかできないことがある。
それを放棄したことで、大切な人を失ったことがある。
あのような悲劇は、もう絶対にくり返さない。
どんなに苦しくても、恭一は未来から逃げることはしない。
「俺たち、未来視探偵の出番だな」
恭一がそう言うと、拓は口角を上げて頷いた。