それから半年後、鈴子はゴルフと真剣に向き合っていた、毎朝打ちっぱなしに通って汗と努力でスイングを磨いた
やがて、鈴子は定正やその仲間達とホールを回れるほどの腕前を身につけた
そして、実際にホールで起業家達と回る様になって、定正の言葉の真意をついに理解した
ある日のマンダリン・カントリークラブの9番ホール、陽光が真緑の芝生を照らし、風が木々の間を囁く、日焼け止めを全身塗っていても夕方には頬が赤くなりそうな日、ゴルフカートに揺られながら、定正は隣に座る起業家に軽やかに話しかけた
「斎藤貿易さんから話は聞きましたが問題を抱えているらしいね、うちが解決策を提供できるかもしれない」
カートの後部座席で鈴子は耳をじっと傾けた隣のお洒落なナイキのゴルフウェアの起業家は、興味を隠さずに答えた
「その話には大いに関心がありますよ」
別の起業家が、アイアンを手にしながら定正達の会話に加わった
「アメリカへの輸出では冷凍列車はあるが、冷蔵トラックはまだ誰も方法を見つけていない、我々の特許が、まさにその革命を起こしますよ、伊藤さん、ぜひ参戦してほしい」
定正が答える
「青写真は見せてもらったよ、専門家に意見を聞いている所だよ」
ナイキウェアが言う
「大企業に話を持っていけば吸収されるだけですよ、我々は自己資金で動くべきです、私の試算では、操業開始に20億は必要だと思っています」
定正の声は、穏やかだが有無を言わさぬ力強さがあった
「それならうちが持ちましょう、でもそれだけでは心細いので、あと10憶ほど蓄えが欲しい」
「うちも5億なら出せますよ」
また別の起業家が言った
「すると足りないのは5億ですね、残りは銀行がどうにかしてくれるでしょう」
「関税の方は○○経済再生担当大臣に私の方から取りつけましょう・・・」
定正を囲む起業家達がワイワイ話しながらボールを手にホールへ向かう・・・
鈴子は開いた口がふさがらなかった、目の前で日本経済を動かす巨大な事業が、まるでゲームのように展開されているのだ、メールや電話ではなく、ゴルフ場という秘密の青空の下で、しかも口頭で交渉がどんどん進んで行く
ここではマスコミの目も盗聴のリスクもない、起業家達はカジュアルな笑顔の裏でトップシークレットの商談を繰り広げていた
彼が教えようとしていたのはこれだったんだ・・・
鈴子は心の中でつぶやいた、そして自分がただの秘書としてではなく、定正の右腕としてこの場にいる意味を理解した
鈴子は静かに、しかし鋭く、彼らの会話の一言一句を記憶に刻んだ、起業家達の表情、言葉の裏に隠された意図――すべてを観察し、吸収した
そしてゴルフの腕前はどんどん上達した
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