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「俺、王位継承順位三位なんだよ」


あれ、三位とは、また、中途半端な……ほとんど、順番回って来ないじゃないって、ことでなくって!!


「うそーー!!王位って、王位ってっ!!!ちょっと、あなたっ!あの、出会った時の仕事が、続いているってことっ?!」


「……何、言ってのよ。ナタリー」


いやいや、王位継承順位っていうものは、一国の王になり得る者が、持つもの。そして、初めて、カイルに出会った時、彼は、偽りの皇太子を演じていた。


確かに、それが続いているならば、偽り、ではあるけれど、カイルは、皇太子で、王位継承順位持ち。


しかしだ。


と、なると、皇太子、つまり、次期国王の立場であるからして、三位、ということは、あり得ない。


「カイル、私の気持ちを引き付けたい、何か複雑な理由があるのでしょうけどね、それ、は、ないわよ?」


驚きを通り越し、またか、と、呆れているナタリーに、カイルは、肩をすくめて言った。


「どうすれば、信じてもらえる?」


「信じるもなにも……」


こちら、デザートでございます。と、ナタリーが言葉に詰まった瞬間、執事がスフレを運んで来た。


「スフレの最も古い記録は、十八世紀半ばにヴァンサン・ラ・シャペルが残したレシピだと、いわれておりますが、一七世紀には、すでに、原型がこざいました。それを、考案したのが、我がロードルア王国出身のシェフだったのです」


──ロードルア王国。


すっかり、忘れていたけれど、そうだ、ロザリーの依頼というより、命じられて、行く予定だった国。


と、いうことは、つまり、カイルは、ロードルア王国の人間ってことになる、のか?


「……で、カイルが、スフレ職人の三代目……」


「そうなのよ、小さい時から、修行して、やっと、ふわふわの、メレンゲが作れる様にって、訳ないでしょうがっ!!!」


怒れるカイルに、目もくれず、冷めないうちにどうぞ。と、執事は、スフレを勧めると、静かに姿を消した。


「カイル……あなた、何を企んでいるの?」


ナタリーには、皆目検討がつかなかった。しかし、行けと言われた国の、中枢部、いや、それ以上の所にいるだろうカイルが、ロザリーといた、ということは、何かしら、この男は、フランス側に取り込まれている。


「あなた、フランスと組んで、クーデターでも起こすつもりなの?!」


としか、考えられないのだが。


「おお!ご名答!に、近いっ!!!さすが、ハニー!!」


誉めてるんだか、答えているんだか、さっぱりな、返答をされて、ナタリーも、困惑した。


「……結局、あなたは、私を騙してばかりいる。そんな、あなたの力にはなれないわ。ハニーとか言って、最後まで、私を利用するつもりだったんでしょ?」


カイルを睨み付け、これ以上、災いにまきこまれるのは、ごめんだと、ナタリーは、意思表示した。


ついでに、スフレに、スプーンをつきたてて……。


はしたない、そして、スフレに罪がないのは、わかっている。でも、そこまで、しなければ、この男には、通じない。


「あー、ハニー」


「そら、来た。なんでもかんでも、ハニーで、通ると思わないでっ!!」


ご馳走様っ!と、ナプキンを叩きつけるように、テーブルに置くと、ナタリーは席を立つ。


同時に、カイルが、立ち上が

り、


「待って!君と正式に結婚したいんだ!!俺の妻になって欲しい!」


と、叫んだ。


突然の求婚に、ナタリーは、開いた口がふさがらない。今さら、何をほざいているのだろう。


結婚どころか、単なる、行きずりの仲であるのに、新婚旅行だ、これからの生活だと、一人で弾けていた男が、スフレが、出て来たとたんに、妻だと?!


「ハニー!君じゃないとダメなんだ!」


「冗談じゃない!」


「じゃあ、じゃあ、致し方ない!依頼、ということで、どうだっ!!」


「はあ?!」


そこへ、再び、執事が現れ、


「成功報酬は、一国。ロードルア王国ということで。あなた様には、王国の、王妃になっていただきます。むろん、隣には、国王としての、カイル様がおられるわけで。悪くない話だと思われますが?」


悪いも悪くないも、そんな、名前も知らない国なんか、もらっても、いや、王妃、何てものに奉られても、さらに、カイルと対、なんて、とんでもない話だ。


どこを、どう考えれば、悪くない話になるのだろう。


「あーー!ハニー!了解してくれるんだねっ!」


カイルは、子犬のように、跳び跳ねて、ナタリーの側に来ると、力任せに抱き締めてくれた。


「ちょっ!誰が了解したって言った!!」


精一杯の抵抗を見せるナタリーへ、カイルが、スプーンを突き出した。


「まあまあ、スフレでも、食べて、ゆっくり話そう」


はい、あーん。と、カイルは、調子づいている。


気がつけば、ナタリーは、カイルの膝の上で、スフレを食べさせられていた。


一見、優男なのだが、実は、カイル、かなり良い体をしている。とは、ナタリーが、ベッドで確かめた範囲であるが、まあ、それ以上、確かめるすべもなく、その時には、滑らかな肌と、程よくついた筋肉、ナタリー好みの胸板の厚さなどなどに、酔っているのだから、確実、とも言えない部分はある。


しかし、一度その腕に拘束されると、逃げられないのは、それなりの、男の力というものを携えているということで、今も、ナタリーが大人しくカイルの膝に乗っかっているのは、さりげなく、がっつり、ホールドされているから、という理由もあった。


「じゃあ、契約成立ということで」


スプーンを置いたカイルは、微笑むが、いつもの、軽薄さはない。


(……これは、本気だ。)


カイルは、ロードルア王国を乗っ取るつもりだ。それが、権力を得る為に、なのか、何か、深い事情があるのか、ナタリーには、まるで読めない。


今までの行動からして、野心だけで動く男には見えず、そもそも、上位の位に付きながら、そこまで、考えるということは、ロードルア王国とかいう国の内部は、結構な事になっているのかもしれない。


さて、そんな、ゴタゴタに、巻き込まれて良いものか。


ナタリーは、迷う。


確かに、国を内部から崩して、取る。と、いうのが、自身の仕事ではあるのだが、ナタリーの色香に惑わされ、崩されてしまう程度の、国を相手にしていた。


しかし、今回は、手強すぎる。そもそも、すでに、ロザリーと手を組んでいる素振りを見せているということは、下手をすれば、その他の大国とも、一戦交える、なんて、事になりかねない。


で、ロードルア王国とは、なんぞや?


皆が動くということは、それなり、価値がある国ということだろう。それを、すんなり、報酬として渡そうと言うのも、これまたおかしい。


まあ、それは、例えであって、カイルと、結婚すれば、王妃になれる。あなたの思いのままの生活が送れますよ。と、言うことを、湾曲しただけだろう。


……結婚。


それも、悪くはない。そろそろ、色仕掛けも、キツくなってきているのは、ナタリーが、一番わかっていた。


そして、欧州の国々の動きからしても、次々に、小国が、大国に飲み込まれて行く現実を見ても、この商売から、足を洗う時が来ているのは確かだった。


そこで……。


王妃、なんてものになってしまったら、たとえば、契約上、ということでも、各国の思惑の煽りをまともに受けてしまう。


今のように、ヤバいと思えば、ずらかる、などと簡単にはできない立場になる。


栄華か、自由か。


そこだわね。と、ナタリーは、決意する。


「カイル、あなた、王位継承権をもっているということは、貴族ということでしょ?貴族の妻、なら、考えてもいいわ」


王妃、などと、トップに立たなくとも、社交界で、目立てば、それ以上のことはない。


色男から、貢ぎ物をいただき、こうるさい、仕切りたがりの老婦人達には、ゴシップネタを与えて、社交界をどよめかせる。それを、バカらしい、と、笑って見ている。そんな、体たらくな暮らしぶりが、自分にはむいているのだ。


貴族なら、悪くない。逃げようと思えば、いつでも、亡命という手段を取れる。


まあ、受け入れ先次第だけど、これが、一国の顔となれば、そう簡単に話は、進まない。


大国に睨まれながら、手を組んで、さらに、裏切られ、そして、国の代表として、責任を取らされる。


手中に、納めた栄華も、何もかも、命共々、消え去ってしまい、ナタリーの事など、あっという間に、忘れられてしまうのだ。


いや、憎悪の対象になるかもしれない。死んでまで、赤の他人に、恨まれるとは、冗談じゃない。


あり得そうな、裏の裏を考えながら、ナタリーは、カイルの出方を見た。


「まあ、貴族暮らしも、悪くない。王位継承権があると言っても、三位ともなれば、スペアからもはずされている。が、国の為に、尽くす仕事は課せられる。でもね、俺は、次世代の、国王を、とても、支える気にはなれないんだ」


つまり、皇太子なり、次を、どうにかしたいという訳か。ということは、その、次とやらが、とんでもない曲者なのか。


ただ、それは、今のカイルの気持ちであって……。実は、次世代は、良い人かもしれないし……。


さて、どうすれば、カイルの真意を、ハッキリ確かめる事ができるのだろう。


(やだ!ナタリー!簡単じゃない!そんなもの、断れば良いのよ!! そうだ!そうだ!)


人を膝の上にのせたまま、ぐずぐずと、理想だかなんだか語りそうな勢いの男なんて。ついでに、こいつは、単なる、行きずりの男なのに。


身分が、あっても、危うい国に踏み込むのは、バカらしい。


いくら、依頼であろうと、条件が合わなければ、断る権利がある。


「じゃあ、あなたの、いいように、しなさいな。ロザリーと、こそこそ、動いておけば、以外と、すんなり、国はあなたの、ものになるんじゃないのかしら?」


「……それじゃあ、俺は単なる、傀儡。意味ないだろ。君となら……」


「ストーップ!そこまで。すでに、ロザリーと手を組んでいる。そこへ、私が、どう立ち入るの?悪いけど、そーゆーの、私の主義じゃないのよ」


ふん、と、鼻で笑うナタリーを見て、カイルも、ふふふん、と、鼻を鳴らした。


「嬉しいねー、ハニー、嫉妬だなんて」


はあ?!


私がですか?!


驚くナタリーの前には、これみよがしに、にやけている顔があった。

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