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「恵菜さん、大丈夫? 立てそう?」
純は、尋常ではない恵菜に手を差し伸べるが、彼の手を借りずに、おぼつかない様子で立ち上がる。
「すみません。ちょっと…………立ちくらみがして……」
彼女は体調を理由に答えたが、純は彼女の言う事を疑っていた。
微かな外の明かりでも分かるほど、柔らかな頬には、涙の跡が筋になって浮かんでいる。
(また元ダンナが張っていて、彼女を傷付ける事を言ったのか……?)
純は訝しげな面差しで、恵菜に視線を突く。
「あのっ……もう大丈夫なので……!」
恵菜は気まずいと感じたのか、笑顔の仮面を貼り付けた。
「恵菜さ──」
「すみません、ご心配をお掛けしました。失礼しますっ……!」
純が彼女に呼び掛けるのを退けるように、恵菜は勢い良くお辞儀をすると、目の前の階段を駆け上っていく。
「恵菜さん、待っ──」
彼は追い掛けようとしたが、足を止めた。
彼女の小さな背中が『放っておいて……!』と言っているように感じてならない。
「クソッ……!」
何もできない自分に歯痒さが込み上げ、純は前髪をグシャグシャにさせ、荒々しく掻き上げた。
昼休みにカフェで会った時、彼女は笑顔で挨拶を交わしてくれて、身に纏っているスーツの事でメッセージを送信したら、新鮮で素敵、と返信してくれた。
彼女からメッセージが受信されたのは十七時過ぎ。
仕事が終わってから純に送信したと思われる。
(って事は……ファクトリーパークを出てから……何かあったって事か……?)
純は短くため息を吐き出すと、階段を上り、立川駅へ向かう。
(心がキツくなったら、メッセージを送って構わないって…………言ったのに……)
週末で人の荒波に呑まれそうになりながらも、純は改札の中へ入っていった。