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クム
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#狂愛
柏木さくら
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【あなたも、辞退しますか?】
陸は、そのメッセージを何度も読み返していた。
返信できない。
「……なんなんだよ」
スマホを伏せる。
テレビの音だけが部屋に響いていた。
いつもの夜。
いつもの部屋。
なのに。
何かがおかしい。
陸は立ち上がって、冷蔵庫を開けた。
中にはほとんど何もない。
「……金、必要なんだよな」
そう呟いた。
辞めればいい。
頭では分かっている。
でも。
12万円。
その数字が頭から離れない。
12万円あれば、今月の支払いがかなり楽になる。
そう考えた瞬間。
――ピロン。
陸の肩が跳ねた。
スマホを見る。
【23番】
【明日の案件について】
陸は通知を開かなかった。
もう見たくない。
でも。
数秒後。
――ピロン。
また通知。
【報酬150,000円】
「……15万?」
陸は思わずスマホを手に取った。
【明日の案件に参加した場合】
【150,000円をお支払いします】
そして、その下に。
【参加しない場合、報酬はありません】
当たり前のことが書いてある。
それだけなのに。
陸には、それが脅しのように見えた。
翌朝。
陸は外へ出た。
今日は案件に行かない。
そう決めていた。
コンビニに寄る。
いつものように飲み物を買う。
店員に会釈する。
何も変わらない。
外を歩く人も。
車も。
信号も。
全部いつも通り。
なのに。
陸は何度も後ろを振り返った。
誰かに見られている気がする。
「……考えすぎか」
そう言って歩き出す。
すると。
スマホが震えた。
【23番】
【現在地を確認しました】
陸の足が止まった。
「……は?」
画面には。
自分が今いる場所の名前が表示されていた。
陸は周囲を見回した。
誰もいない。
スマホを握る手が汗ばんだ。
【案件への参加をお待ちしています】
「……なんで分かるんだよ」
返信はない。
陸は急いで家へ戻った。
玄関を閉める。
鍵をかける。
チェーンもかける。
それでも落ち着かなかった。
部屋の中を見回す。
何もない。
当然だ。
誰もいない。
陸は深呼吸した。
「大丈夫だろ」
自分に言い聞かせる。
そのとき。
インターホンが鳴った。
――ピンポーン。
陸の体が固まる。
時計を見る。
午後2時。
こんな時間に誰だ。
モニターを見る。
誰も映っていない。
「……」
もう一度。
――ピンポーン。
陸は玄関へ近づかなかった。
しばらくして。
音が止まる。
静かになった。
陸は少しだけ安心した。
その瞬間。
スマホが震えた。
【23番】
【確認しました】
「……何を?」
陸の顔が青ざめる。
続けて。
【本日は案件に参加しなくても構いません】
そして。
【明日は、必ず参加してください】
陸はスマホをベッドの上へ投げた。
「もう無理だろ……」
その夜。
陸は友人に連絡しようとした。
でも。
昨日のメッセージが頭をよぎる。
【参加者情報の外部への共有は禁止されています】
指が止まる。
誰かに相談したい。
でも。
相談することすら怖い。
陸はスマホを握ったまま、何もできなかった。
しばらくして。
画面が暗くなった。
そこに映った自分の顔を見る。
疲れていた。
数日前まで。
ただお金が欲しかっただけだった。
簡単に稼げる仕事を見つけた。
それだけだった。
なのに。
今は。
スマホの通知音に怯えている。
玄関のチャイムにも怯えている。
外を歩くだけでも、誰かに見られている気がする。
陸はベッドに横になった。
眠ろうと目を閉じる。
――ピロン。
また通知。
陸は見たくなかった。
それでも。
ゆっくりスマホを手に取る。
画面には。
【23番】
【あなたが辞退できない理由を、明日説明します】
コメント
1件
るしゅさん、今回の「日常」めちゃくちゃ重かった…。 陸くんの心の揺れ方、すごくリアルで怖かった。特に「現在地を確認しました」の通知で足が止まるシーン、鳥肌立ったよ。 普通の夜、普通の部屋、なのに何かがおかしいっていう空気感がじわじわ来る。 「15万」の罠、もう逃げられないんだろうなって思うと苦しいけど、続きが気になって仕方ない。 ちゃんと受け取ったよ、るしゅさんの言葉。次も静かに読みにきます🌙