テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ぺいんとと話した日から、俺の作文を選ばないでくれと校長先生に頼んだ。まぁ今回選ばれたのは提出してしまったから取り消すことはできないけど、これを最後とした。
あっ、でもまだ俺の過去の話は終わりじゃない。俺には、やるべきことがある。
台本なんかなくたって、ハッピーエンドに持っていかせるって言ったもんな、ぺいんと。俺自身バッドエンドの方が好きだけど───自分で決めるハッピーエンドには、胸が躍るんだよ。
俺はお前を───幸せにしてやる。さいっこうの、ハッピーエンドを迎えさせてやる!
そう決めた日の後日、俺はぺいんとの家の前へと来ていた。久々に見たぺいんとの家は懐かしく感じて、ニヤケが止まらなかったのを覚えている。
そうして、俺はインターホンを一回押す。
「と、トラゾーくん?!」
中から出てきたのはぺいんとのお母さんだった。でも何だか嬉しそうな顔をしていて、何か最近良いことでもあったような顔をしていた。
「うわー!!めちゃくちゃ久々だね!身長も高くなってるじゃん!!!!」
「は、はい…」
ぺいんとのお母さんはすごく元気だ。いや、ほんとに…こういうところがぺいんとに似たんだろうなと見てわかる。いや見なくてもわかるくらいだが。世間話もしたいが、今はそんなことをやっている暇ではない。
「あの、ぺいんといますか?」
そう声をかけた瞬間、ぺいんとのお母さんは困った顔をしながら「うーん」と唸った。どうやら家にはいないようだ。
「ぺいんとはね、公園にいるよ。いつもトラゾーくんと遊んでたあの公園!」
「あ、ありがとうございます。」
感謝を一つ述べて俺は走り出した。
あの公園は、俺たち2人がお気に入りの公園。俺も3年間ずっと行っている。特に悩み事とか、しんどいときとかはよく行ってそこで気持ちを落ち着かせる。…なんていうか、その公園にいると懐かしい気持ちになってしまうから。
「はっ、はっ………!」
公園の前まで来てふと目についたのは、ベンチに座って泣きじゃくるぺいんとの姿。なぜ泣いているのか、なんてわかっている。だからこうしてぺいんとに会いに来たんだから。
「っ…ふぅー。」
大きく息を吐いて、深呼吸を一回。気持ちを落ち着かせてから、俺は再度泣きじゃくるぺいんとの方を見る。
そして、大きく息を吸った。
「ぺいんと!!!」
小3の俺には近所迷惑にはならない大声。だけど、ぺいんとはそんな俺の声をちゃんと聞き取ったのか、ぐしゃぐしゃな顔を俺に向けていた。見てられない。あんな親友の顔を…なんて、大抵の人は思うのだろう。でも俺は違う。
親友だから、見る。見なきゃとかじゃなくて、見てやりたくなってしまうのだ。
「と、らぞー…」
相当ぺいんとは泣きじゃくっていたのかしゃっくりのような呼吸しながら俺の名前を呼ぶ。俺はそんな彼の座っているベンチの隣に腰を下ろす。
「………お前、将来何になりたい?」
ふと俺がした質問。突然の意味のわからない質問にぺいんとは戸惑っていて、「は?」と生意気な言葉を口にした。そんな生意気な言葉も、懐かしいと思ってしまうのは自分の心に変化があったからだろうと考える。
「俺は、人気になりてぇよ。」
ぺいんとからはあまり聞かないような言葉。なんていったって、俺から見るぺいんとはかっこよくて、面白くて、おかしい。そんな人間。
まぁ俺はてっきりぺいんとは歌手だと予想していたけれど、全く違うらしい。
ただ単純な願い───人気になりたいという、ガキに相応しいであろう夢。
「人気になってやる。たくさん友達つくって、バカにしてきた奴ら見返して、俺がみんなに笑顔を届けるような、夢を与えるような、光を当てるような、そんな存在になりたい。」
ぺいんとは涙を流しながら、そう語った。
この時、俺とぺいんとの大きな違いに気付かされたと思う。まぁそれは、少し前の───”夢を持っていたときの”トラゾーだったら、劣等感に打ちひしがれていただろう。
だから、いいよね。
「…?トラゾー…?」
バッドエンドが好きでも。物語が好きでも。小説が好きでも。本が好きでも。漫画が好きでも。絵が好きでも。自然が好きでも。笑顔が好きでも。
だって、そうだろ?
「───俺と叶えてやろうよ、それ。」
好きは何個でも良いって───お前が俺に感じさせてくれたんだから。
コメント
2件