テラーノベル
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その日の体験は、その後も俺のメモリに大切なものと分別されて記憶された。
蓮と遠くへ外出したのは後にも先にもその一度きり。蓮の家から歩いて行けるコンビニエンスストアにはその後何度か二人で行ったが、外出はそれぐらい。蓮は俺を家に迎え入れてから、次第に仕事が順調になり、やがて引きも切らない大スターへの道を歩んでいく。
ともかく。
あの日は俺にとって特別な時間だったんだ。
「今日、翔太を抱きたいんだ。いい?」
「もちろん」
海や川の生き物を観察したり、イルカやシャチが飛び跳ねるショーを見学したりと思う存分水族館を満喫した後で、蓮は少し無理をして、近くにあったシティホテルに部屋を取っていた。
手を繋いだままホテルの部屋へと入ると、蓮は余裕なく俺の唇を吸った。
「ん……っ…」
「…はぁ、カッコ悪いな…俺…」
言いながら押し付けてくる腰のあたりに蓮の興奮した屹立を感じる。
俺は嬉しかった。
やっと、ここまで良くしてくれる蓮の、チカラになれると思ったから。
「大丈夫。俺に任せて」
「ヤダ。俺がしたい」
子供みたいに拗ねて言う蓮が、性急に俺の服を脱がせていく。このまま始める気らしい。俺は大人しく蓮の愛撫を待った。
「ねぇしょっぴー。俺のこと好きって言って」
「蓮、好きだよ」
「…嬉しい」
露わになった俺の胸を蓮は鎖骨のあたりから撫で、優しく口付けていく…。感じやすいのが好みだと設定されていたので、俺はすぐに心拍数が上がり、身体が熱を帯び始めた。目が潤む。涙に似せた体液が目元に溢れた。
「可愛い…堪んない」
「ああっ……」
蓮の愛撫が体の中心に差し掛かり、小さな喘ぎ声を上げた。
蓮は一心不乱に俺を感じさせようとしてくれている。ちょうど後孔からローション状の液体が溢れてきた。いつでも挿入可能だ。我ながら便利に出来ている。いよいよ、本領発揮。
「前でイクのもいいけど…俺の後ろ、試してみない?」
蓮は上気した顔を少し苦しそうに歪めて、俺を余裕なくベッドへと押し倒した。
都合3回、 蓮は俺の中に射精した。
俺は何とか蓮を感じさせようと色んな締め付け方をしたので、蓮もあまり長く持たなかったのだろう、事後、天を仰ぐと荒い息だけを繰り返してぼんやりと天井を仰いでいる。何か気に障ったのかと尋ねるが何も言わない。腕を伸ばすと、俺の頭をその腕に乗せ、やがて過去好きだった人のことをぽつりぽつりと語り始めた。
『めめ、今までありがとう』
中々芽が出ないアイドル活動に見切りをつけ、別れの日、渡辺翔太は蓮に握手を求めた。芸能界を諦め、実家を手伝いながらこの先のことを決めると意志の強い瞳で彼は言った。 隣には常に付き従うような長年の幼馴染の姿があった。彼もまた、渡辺と同じように新たな道へと一歩を踏み出す。
まるで光と影のように二人は寄り添って生きているように蓮には見えたそうだ。
どこへ行くにも、何を目指すのかもそしてその先も同じものを見ている。彼らは二人で一人のような、そんな錯覚を覚えるほどだったと蓮は語る。数年後、彼らは一緒に暮らし、プライベートでもパートナーとなった。蓮は、それを知った時、諦めきれなかった恋心にケリをつけ、俺を買った。
「現実世界へのリハビリだよ」
そう寂しそうに笑う蓮を、思わず俺は抱きしめていた。どうしてかはわからない。指先に少し電流のようなものを感じたけど、解析できなかった。蓮は、俺の胸の中で静かに泣いた。
コメント
18件
またわたしの心を攻撃するような作品を……ありがとうございます😭︎💕︎
なんか…泣ける。🖤💙
うわあぁぁあぁぁ~ 良すぎます!! 続き楽しみです!!