テラーノベル
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1996年。銚子20歳。多摩雄23歳。
その日銚子は、いつも通り未解決事件調査隊に出演していた。
スタジオには独特の緊張感が漂っている。
大型カメラがゆっくりと動き貴船を捉える。
カメラが自分に向くと、貴船は慣れた口調でカメラへ向かって語りかける。
「みなさん・・お待たせいたしました」
番組の空気が静まり返る。
「ここからは──」
スタジオ全体が期待に包まれる。
「御船愛子さんによる霊視コーナーのお時間です」
カメラが貴船から銚子へと切り替わる。
「御船さん・・よろしくお願いします」
銚子は静かに一礼した。
「はい・・よろしくお願いします」
柔らかな微笑みを浮かべる。
その声と同時に、銚子はゆっくりと目を閉じた。
深く息を吸い込み、胸の前で両手を合わせる。
スタジオの照明が一斉に落ち、闇が空間を包み込んだ。
やがて一本の紫色のスポットライトだけが、銚子を幻想的に照らし出す。
誰もが息を呑み、その姿を見守る。
愛子は静かに祈りを捧げるように儀式を終えると、ゆっくりと顔を上げた。
これは毎週欠かさず行われる、霊視コーナー恒例のオープニングだった。
静寂の中、銚子の澄んだ声だけがスタジオへ響く。
「亡くなった方の聲は
必ずどこかに残っています」
真っ直ぐにカメラを見つめながら続ける。
「それを皆様にお伝えするのが
私の役目だと思っております」
一瞬、言葉を区切る。
「私の力が、私の霊視が
被害者の無念を解く鍵になると信じて
今宵もお力添えさせていただきます」
その瞳には強い信念が宿っていた。
「よろしくお願いいたします」
銚子はカメラに向かって深々と頭を下げる。
その瞬間、スタジオの照明がゆっくりと元へ戻った。
「御船さん、ありがとうございます」
一枚の資料を手に取り、表情を引き締める。
「では今回、御船さんに霊視していただく
事件の概要を説明させていただきます」
スタジオの大型モニターには、一人の女性の写真が映し出された。
「この失踪事件は、今より3年前
1993年11月に起こりました」
画面には女性の名前が表示される。
秋芳神楽。25歳。
「秋芳さんは、ご家族に『友達と遊びに
行ってくる』と告げて外出しました」
貴船は一言一言に魂を込めて原稿を読み上げる。
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
「しかしそれ以降の足取りが掴めず
行方不明となりました」
静まり返るスタジオ。
「すぐさまご家族は警察へ捜索願を提出され
警察による懸命な捜査が続けられましたが」
貴船は静かに首を振る。
「犯人と思しき人物像も浮かび上がって来ず
何の進展もないまま、事件発生から3年という
あまりにも長い月日が経過してしまいました」
銚子は何も言わず、書類を見つめ続けている。
その横顔は静かだったが、どこか覚悟を決めたようにも見えた。
「そこで秋芳さんのご遺族は、藁にもすがる
思いで当番組へ霊視のご依頼をなされました」
貴船は資料を閉じ、ゆっくりとカメラへ向き直る。
「という経緯でございます」
そして、スタッフから運ばれてきた一つの箱へ視線を向けた。
「ではここで、ご遺族様より
ご提供いただきました
秋芳さんの遺品紹介に移ります」
貴船が合図を送ると、待機していた数名の番組スタッフが静かにスタジオへ姿を現した。
全員が慎重な手つきで、一台のキャリー台を押してくる。
その上には、秋芳神楽の遺族から預かった遺品が丁寧に並べられていた。
そのスタッフの中には、多摩雄の姿もあった。
無言のままキャリーを定位置まで運び終えると、多摩雄は一歩下がり、静かに様子を見守る。
貴船は遺品へ視線を向けながら、一つひとつ紹介を始めた。
「まずこちらが、さんが
肌身離さず身につけられていた腕時計」
黒い革ベルトに、淡い桃色の文字盤。
小ぶりながらも上品なその腕時計は、長年大切に使われてきたことが伝わってくる。
「次に化粧ポーチ」
少し使い込まれたポーチの中には
口紅やファンデーション、チーク、アイシャドウなど
日常で使われていた化粧品がそのまま残されていた。
「次にポケベル」
90年代を象徴する、小さな黒い通信機器。
液晶画面には何も映っていないが、使い込まれていたのだろうと分かるほどに、所々に傷が目立っていた。
「次にテレフォンカード」
擦り傷の残るカードには、夕暮れの東京タワーが描かれている。
何度も公衆電話で使われたのだろう。
角は少し丸くなり、年月を物語っていた。
「そして最後に卒業アルバム」
真新しさを失い黄ばんだ表紙には、青春の日々が静かに閉じ込められている。
貴船は紹介を終え、カメラへ向き直った。
「以上の5点になります」
続いて銚子へ視線を移す。
「こちらは事前に御船さんの要望を参考に
ご遺族様よりご提供いただきました」
遺品を示しながら問いかける。
「このラインナップには何か意味が
あるのでしょうか?御船さん」
銚子はゆっくりと頷き、静かに口を開いた。
「普段使っていた物には
被害者の念が強く刻まれているんです」
スタジオは水を打ったように静まり返る。
「時計やポケベルに、化粧ポーチなどには
特に強い念が刻まれているはずです」
そう言って卒業アルバムへ視線を落とす。
「卒業アルバムにも、被害者の人となりを
知るために必要な情報が刻まれています」
銚子は5つの遺品を順番に見渡した。
「これらを合わせれば、秋芳さんの
安否を知る事が可能です」
その言葉に、スタジオの空気が一段と張り詰める。
「ありがとうございます」
貴船は深く頭を下げるとカメラへ向き直り、穏やかな笑みを浮かべる。
「では、御船さんによる霊視はCMの後」
期待と緊張を残したまま、番組はいったんコマーシャルへ入った。
コメント
1件
×××さん、今回も拝読しました。 銚子さんの霊視コーナー、スタジオの緊張感が映像として浮かんでくるようでした。紫色のスポットライトが彼女だけを照らす演出、一つひとつの遺品に込められた意味──「念が強く刻まれている」という言葉に、彼女の信念がしっかり感じられて好きです。 多摩雄さんがスタッフとして無言で立ち会っているのも、何か胸に引っかかりますね。先が気になります!