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まるで、画面の中の俺の魂を見透かしているかのような言葉に、ゾクゾクするような感覚を覚えた。
最初は「ありがとうございます」と定型文を送るだけだった。
でも、彼のコメントがあまりにも俺の心に響くので、ある時、少しだけ踏み込んで返信してみた。
すると、彼はさらに興味深い言葉を返してきた。
そのやり取りが何度か続いた後、ReiさんからDMが届いた。
緊張しながら開くと、そこには丁寧な言葉遣いで「ソラさんともっとお話したいな」
と書かれていた。
舞い上がる心を抑えながら、俺はすぐに承諾した。
DMでの会話は、驚くほどスムーズに進んだ。
俺の投稿のこと
地雷系ファッションのこと
ピアスについて
いつもなにをしているのか
そしていつしか日常のちょっとしたことまで話すようになっていた。
Reiさんは俺の話を否定せず、興味深そうに聞いてくれた。
話していると、現実のじめじめした悩みや、親からのプレッシャーを忘れることができた。
この人も、ネットの中に別の居場所を見つけている人なのだろうか、とぼんやり思った。
たった一週間だったけれど、毎日のようにReiさんとやり取りするのは
俺にとってなくてはならない時間になっていた。
そして、ある日のDMで
ふとしたきっかけからお互いの住んでいる場所がそう遠くないことが分かった。
その直後、Reiさんから会ってみないかという提案があった。
「一度、直接お会いしてお話してみませんか?」
画面の向こうの、顔も知らない相手に会う。
少しの戸惑いと、大きな期待があった。
もしかしたら、この人が、画面の中だけではない
現実の俺にも「愛」をくれる人かもしれない――。
そんな淡い希望が、胸の奥で燃え上がった。
Reiさんという存在は、俺にとって、暗闇の中の光のように思えた。
パパ活で得る刹那的な「愛」や「金」とは違う
もっと根源的な何かをReiさんから得られるのではないか。
不安もあったが、画面の中の「Reiさん」に会いたいという気持ちが勝った。
現実の「しょぼい俺」では誰も見向きもしないけれど、画面の中のように着飾った俺を肯定してくれるReiさんなら
フル装備で可愛い俺を現実で見ても
画像と変わらない、あるいは画像より可愛いと受け入れてくれるかもしれない。
俺は二つ返事で了承した。
場所と時間を決め、会う約束を取り付けた。
待ち合わせの日まで、俺は落ち着かなかった。
そういえばアイコンがお酒っぽいやつで、自己紹介欄には俺のことをメンションしてるぐらいで
職業も何も知らないが
Reiさんはどんな人なんだろ?
画面の向こうの優しい言葉をかけてくれるままの人だろうか
それとも…
そんな期待と不安が入り混じる中、俺は約束の日を迎えた。
待ち合わせ場所の着き、指定された人物を探す。
周りを見回しながら、DMでの会話でかすかに匂わせた外見の特徴を頭の中で反芻する。
服装や髪型についての情報は断片的だったが、ある人物に目が留まった。
(確か…濃いグレーのセットアップ着てて…髪色は黒のウルフカットって言ってたっけ…?あ、あの人かな?)
目線の先の人物に、その特徴が重なる。
近づいていくにつれて、その顔立ちに見覚えがあることに気づき、心臓が嫌な音を立て、足を止めた。
すると丁度彼がこちらに振り向き
「ソラさんですよね?Reiです、待ってましたよ……!」
この顔は、普段、美容院で何度も見ている――。
「う、うそ…」
あまりの出来事に声が漏れてしまった。
そこに立っていたのは、まさしく俺が二年間通っている美容院の専属美容師、葛西玲於だったのだ。
彼は俺に気づいているのかいないのか、不思議そうに俺を見つめて
「ソラさん?どうかしました……?」
「え?!あっ、いや、なんでもないです!」
取り乱してしまったが
もしかして玲於は俺のことに気付いてない…?
って、そうだよ
いくらたまに遊ぶ友人と言えど
考えてみれば玲於さんは普段、無造作に伸ばした俺の黒髪を整えてくれる美容師で
今ここにいる俺はバチバチに地雷系メイクとファッションを決めて
アクセやピアスをたくさんつけた「ソラ」
SNSの中では愛想を振り撒き、パパ活相手には媚びる。
でも、美容院の椅子に座っている時の俺は、化粧も落として、髪もセットしていない素の姿だ。
玲於さんはいつも、そんな何もない俺を見ている。
今も特に表情に違和感は無いし、気付かれてない可能性が高い。
そうポジティブに捉え、俺は気を取り直して
おじと食事に行くときと同じテンションの声色に切り替えることにした。
「今日会えるのすっごく楽しみにしてたんですけど、イケメンでビックリしちゃった」
両手の指先をぴたっと合わせて顔の前に掲げると、営業用の、ちょっと甘えた声が出た。
内心はバクバクで
目の前の玲於さんが、いつも行く美容院の玲於さんと同一人物だなんて信じられない気持ちでいっぱいだ。
普段の俺なら、こんな時うまく喋れなくて固まるか逃げ出すかのどっちかだろう。
でも、今の俺は「ソラ」だ。