mydt side
ラウールさんに連れて行かれ、診察室に入る。そこは診察室というよりかはお洒落なカフェみたいな雰囲気が漂っていて、緊張が少し解けた気がした。
「康二くん!患者さん連れてきたよ!」
「おー!おつかれラウ!ありがとな、戻ってええよ。」
「はーい!…宮舘さん、あの人怖くないから、リラックスしてお話してきてね。」
そう言うとラウールは診察室から出て行った。何も出来ずに棒立ちしていると、目の前の人から声をかけられた。
「おーい、そんなところに立ってないでこっち座りや。」
「あ、はい。」
そう言われ俺は椅子に座った。
「初めまして…やんな?宮舘くん。俺は向井康二。テキトーに呼んでええよ。」
「…向井、さん。よろしくお願いします。」
「うん、よろしくなー。…早速やけど、色々聞いていくな。答えたくなかったら答えんでもええから。あくまでも今からするのは事実確認。それを元にしてカウンセリングしていくなー」
「は、い。」
「じゃあ1つ目ー、と言いたいところなんやけど…」
「…?」
「宮舘くん、深呼吸しよ。息が浅くなっとる。」
「え、?」
向井さんの言葉で自分に意識を向けると、確かにいつの間にか息が荒くなっていった。自覚するとどんどん苦しくなっていく呼吸に恐怖で涙が溢れる。
「ごめん、なさ…どうしよっ、いき、できなっ…」
「リラックスして、ゆっくり息を吸おうか。吸って……吐いて……」
「すぅっ…ひ、く、は…ぁ」
「…そ。上手。」
暫く深呼吸を繰り返していると、だんだん呼吸も涙も落ち着いてきた。
「…すみません、取り乱しました。」
「ええよ、気にせんといてー…話せそ?」
「…はい。」
「無理はせんでな!じゃあ質問していくで。」
そう言って向井さんは色々質問してきた。過去に何があったか。学校ではどうしてるか。色々聞いて、向井さん自身も色々話してくれた。元々関西にいたらしく、異動になってこっちに来たとのこと。最初は向井さん自身もカウンセリングを受けていて、ここまで来たということも分かった。
「色々話してくれてありがとな。…じゃあ最後の質問。」
「…」
「…今、生きてて楽しい?」
…みんなと話したりしている時は楽しい。けど、家に帰ると現実が帰ってくる。1人で、寂しくて、辛くて、正直…
「…楽しく、ない、です。」
「…そっかぁ。」
向井さんは悲しそうに笑う。
「まぁ話を聞く限り楽しそうな背景は見えてこんかったしなぁ…」
「…」
「…宮舘くんの主なストレスの根源は家庭環境にあると思うんよ。」
「…はい。」
「親御さんもおらんくて、一人暮らし。…俺は孤独が1番の敵やと思うんよ。」
「…孤独、が敵?」
「そう。人間誰かと協力しながら生きているってよく言うやん。周りに人がいないと人間立ち上がることも難しくなる。」
「…」
「…子どもが1番頼れる存在って大体が親なんよ。…でも、それこそ宮舘くんみたいに親がいなかったり親から否定されたりすると、塞ぎ込んでしまったり、自分で負荷をかけてしまう子が増える。」
「…」
「宮舘くんの場合は後者やな。自分でストレスをかけすぎて、知らないうちに限界を迎えてたって感じ。」
「…そう、なんですか?」
「おん。…さっき友達が教えてくれたって話してくれたけど、多分その友達がいなかったら宮舘くん最悪の結末になってたかもしれんかったんよ。」
「…っ、」
「…まぁ少し大袈裟やったかもな。…残念やけど、俺たちでも家庭環境はどうすることもできないんよ。」
「…」
「でも、心の負担を軽くする手伝い…まぁ簡単に言うたら話し相手にはなれる。」
「…」
「いつでもおいで。お金なんていらんから。友達に頼れんくて辛くなってしまったり、家にいて悲しくなったりしたら…これ、俺の電話番号やから。もしここが閉まってたら電話するなりして。遠慮はいらんから。」
そう言って向井さんはメモ帳に電話番号を書いて俺に渡した。
「…いいんですか?」
「…何が?」
「…俺なんかに、こんなこと…」
「…自己評価が低いのも何とかせんとな。ええよ、今まで頑張ったって分かるからこんなことしてるんよ。いつでもここに来るなり電話するなりしな。1人で行きづらいんやったら今日連れてきてるお友達さんも連れていいから。」
「…ありがとうございます。」
「どーいたしまして。…今日はここまでかな。次回の予約とかは受付でやってな。過呼吸気味になったんやし、今日は帰ったらゆっくり休むこと!ええな?」
「…はい。」
「よろしい。じゃ、またなー!」
そう言って向井さんは手を振った。それに小さく振り返して診察室を出た。
コメント
1件
感動しました😭 続き楽しみです☺️