〔未鳥は僕と一緒で耳が聞こえないの?〕
〔ううん、そんなことは無いよ〕
〔そうなんだ、きっと素敵な声なんだろうね〕
素敵な声…。
私の声は素敵な声なんかじゃない。
もし、
夏の耳が聞こえるようになったらどうしよう。
面と向かって話せなくなるのかな。
そんなの嫌だ。
〔未鳥?〕
〔なに?〕
〔なんか辛そうな顔してたよ?大丈夫?〕
〔うん、大丈夫だよ〕
〔それなら良かった〕
そう言って笑う夏。
なんだか夏の笑顔を見ると、
魔法みたいに嫌な感じが
すーっと消える感じがする。
〔そういえば未鳥はなんで僕に話しかけてきたの?〕
正直に言った方がいいのだろうか。
でも、『音が好きだ』なんて言って
夏を傷つけちゃったら…。
〔未鳥?〕
〔話したくないなら無理しなくてもいいよ?〕
〔あ、そんなこと無いよ〕
〔ただ音が好きって言ったら、夏のこと傷つけちゃわないかなって…〕
〔未鳥は音が好きなの?〕
〔うん〕
〔僕はね、音が楽しめない代わりに香りを楽しむのが好きなんだ〕
〔香り?〕
〔例えば草が揺れる動きは、草の香りに代用出来るでしょ?〕
なんだか、難しい。
だけど、香りの話してる時の夏、
私が音の話してる時と似てる。
なんだか、可愛いな。
そんなことを思いながら夏の顔を見ていると
〔あんまり見られると恥ずかしいんだけど…〕
と言われてしまった。
ずっと恋の音が鳴り止まない。
でも、きっと、この恋は叶わないから、
こんな気持ちは捨てないと────