テラーノベル
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午後九時。
私はお台場のホテルにいた。
「飯は?」
部屋に入ると、蒼が聞いた。
「軽く……」
私は蒼の顔を見られなかった。
やっぱり……怒って……るよね……。
経緯はどうであれ、結果として蒼を騙す形になってしまった。
「じゃあ、後でルームサービスでも頼もう」
そう言って、蒼は私のコートを脱がせた。
「あの……蒼……、今日の——」
蒼の唇に遮られ、私は言葉を失った。
有無を言わさない、キス。蒼の手が私の胸に触れる。
流されちゃダメだ——。
「ちょ——、待って! 蒼、今日のこと——」
「怒ってるよ」
蒼の私を見る目は、冷ややかだった。
やっぱり……。
「怒ってるけどっ! 今は黙って抱かせて」
蒼は私の首に舌を滑らせ、シャツのボタンを外す。
「そ……」
「三か月、長すぎ——」
蒼は焦っているように見えた。次々に私の服を脱がせていく。
「蒼……待って——」
「無理」
いつになく強引で激しい愛撫に、私の身体が汗ばむ。
「や……、ま……って——」
「待てない」
身体の全てを知り尽くさた私は、蒼の指と舌に身悶え、痺れる身体が蒼を受け入れた時には、半ば意識が朦朧としていた。
「蒼……」
私を揺さぶる蒼の動きが激しくて、言わなければならない言葉が、卑猥な音にかき消される。蒼だけじゃない。三か月振りに蒼に触れられて、いつも以上に身体が悦んでいるのがわかる。
「咲……」
耳元で名前を呼ばれ、電流が走ったように全身が痙攣する。
「ヤバ——」
私は蒼の首に腕を絡ませ、彼を引き寄せた。
「蒼、愛してる……」
すべてを知っても、蒼が変わらずに私を求めてくれることが嬉しかった。
*****
「で、俺はいつから騙されてたわけ?」
セックスの後、シャワーを浴びてからルームサービスを頼んだ。
「騙すなんて……」
「最初から兄さんたちが会長職に興味ないことを知っていて、俺を焚きつけたんだろ」
「和泉さんは蒼をスタートラインに立たせたかったのよ」と、私は蒼が会長の後任に決まるまでを話し始めた。
「三男だからって、蒼は最初から会長の後継者になることなんて考えてもいなかったでしょう? とにかく、蒼の意識を変えるために、和泉さんは情報屋の話をしたの。蒼が本社に異動になって、心配した充さんが和泉さんと電話で話して、その時に会長の後任には蒼が適任だと意見が一致したらしいわ。和泉さんは百合さんと結託して私に清水の情報を流し、私と蒼を出会わせた。後は、蒼も知っての通りよ」
「咲はいつから兄さんたちの企みを知ってたんだ?」
「和泉さんが川原と接触したと聞いて、気がついたの。和泉さんは自分と充さんをスケープゴートにして、蒼に事件を暴かせようとしてるって。そして、それを次期会長への足掛かりにさせようとしてることも」
私がシャンパンに口をつけると、蒼がチーズを私の口に押し込んだ。
「なんですぐに俺に言わなかった?」
「私も蒼の本音が知りたかったから?」と言って、私も蒼の口にチーズを押し込んだ。
「蒼に次期会長を狙う意思がなければ、話は変わってたのよ。いくら適任でも、ヤル気のない人間に務まるほど簡単な職務じゃない。けど、きっかけはどうであれ、蒼は会長職に意欲を見せた」
「なんっか、納得いかないんだよな……。結局、俺は流されただけのような気がするんだけど?」と、蒼は髪をクシャッとかき上げた。
「それも大切なことよ? 和泉さんは自分が根っからの自信家で、ギャンブラーなことを認めてた。しかも、新しいもの好きで頑固。だから、自分には会長の椅子は相応しくないと、ずっと思ってたそうよ。充さんは見た目に似合わず、情に脆くて、柔軟性に欠けている。新しいことや物を取り入れることに消極的な上に、和泉さん同様に頑固」
「確かに……」と、蒼は苦笑いをした。
「蒼は三男て立場のお陰か、常に肩の力が抜けていて、他人の言葉を自分の糧にして成長できる。それでいて、自分の意見をしっかり持っていて、主張できる。だからと言って頑なになり過ぎず、引き際を心得ている。遊び心と堅実さを兼ね備えている人間は、そうはいないわ」
「真顔で言われると……リアクションに困るな……」
蒼は照れ臭そうに、顔を背ける。
「俺が会長の椅子に興味を示さなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「その時は、真を次期会長に据えるつもりだった……」
「俺や真さんより、咲の方がよっぽど会長に相応しいって思うけど?」
「私は……。私には相応しくないよ……」
だって、私は犯罪者だから————。
私は言葉を飲み込んだ。
蒼が私の頬に優しく触れて、そっと引き寄せた。蒼のキスが優しくて、嬉しくて、胸が締め付けられた。
結局、この腕の中に戻ってきてしまった……。
「そうだ! 明日の夜、春田さんと満井くんと飲みに行かないか?」
「え……?」
「パーティーや今日の会議で世話になったしさ。春田さんが俺と咲のこと心配してくれてたし」
「いいけど……」
早速、満井くんに電話をする蒼が、何だかやけに楽しそうで、私も嬉しくなった。
昼近くまで、何度抱かれたかわからなかった。
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