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体を伏せ頭を手で覆っているアリィが恐る恐ると目を開ける。アリィの視線の先にはジークと、まるで村にいた悪魔を小さくしたような足を開いた虫が転がっていた。
アリィ「な、何これ…?」
アリィが調べようとすると、虫は針を伸ばす。
ジーク「近づくな!」
ジークがその針をすかさず、上着に仕込んでいたナイフでぶった斬る。
ジーク「思ったより固くなくて、今回はこれですんだが…足を開いている虫は死んでないから迂闊に近付くな。」
アリィ「ご、ごめんそうだったんだ…。」
ジーク「死んでいる虫は、足を閉じている。何事も覚えるには実践が重要だ。今度その辺に落ちてる蝉で試してみろ。」
アカネ「セミファイナルってそうやって見分けるんですね…。」
ジーク「本当に…アンドロイド…?」
アカネ「失礼ですよ!」
アリィ「それにしても大きな虫…。これで刺されてたら今頃私…うぅ…。」
針に刺された自分の姿を想像し、ぞっとしたアリィは自分の体をさする。
ジーク「こんな虫は見たことない。それにこの見た目は…」
アカネ「あの悪魔にそっくりですね…」
ジーク「…」
ジークがベツレヘムと悪魔がいた方向を見る。
ジーク(あれだけデカくてどこにいても見えた悪魔が居ない…。)
ジーク「…アリィ、動けるか?」
アリィ「うん。大丈夫だよ。私はこんなことでへこたれたりしない!」
アリィの元気な姿を見て安心したのかジークはいつもの仏頂面とは違う笑みを見せる。
ジーク「そうだったな。」
ジーク「アリィ、この中でお前が1番早く行ける。お前がベツさんの様子を見てきてくれ。」
アリィ「分かった。」
アカネ「では僕はアリィさんが言っていたアイディアを行います。」
ジーク「責任をもって修理するから頼む。」
アカネ「はい。発射までに時間がかかるため、少し守ってもらえると嬉しいです。」
ジーク「こんな心許ないナイフしかないぞ」
ジークはそう言って肩を竦める。
アカネ「そこにあるじゃないですか。」
アカネが視線をやった先には、ジークが修理を頼んだ武具屋があった。
ジーク「俺に盗みを働けって?」
アカネ「ええ。」
ジーク「まっ、いいさ。どうせ罪状が増えたところで俺達は捕まったら死刑なのは変わらないからな。」
ジークが武具屋の弓を取る。
ジーク(アリィに囮をしてもらわないで1人で真正面から行くのはもう何年前か)
ジーク「まっ、死力を尽くすしかないな。」
ジークが弓を構える。
アリィ「はぁっ…はぁ…ベツさんだいじょ…って*何食べてるのぉぉおおおお!?ぺっして!ぺっ!」
アリィがベツヘレムの元に駆けつけると、ベツヘレムはかすり傷を追いながらも、両手に、口に先程襲ってきた虫が鷲掴みにされていた。アリィの慌てた姿を見て、ベツヘレムは口に咥えていた虫を落とす。
ベツヘレム「色々言いたいことはありますが…とりあえず食べようとした訳じゃないですよ。これは噛み殺したんです。」
アリィ「あぁそういうこと…ベツさんはこの虫達は…それにあの悪魔は…」
ベツレヘム「あの大きな悪魔は殺しました。有核生物だったようで…ただ」
アリィ「ただ…」
ベツレヘム「あの悪魔に張り付いていた鱗、あれは鱗じゃなかったんです。大きな悪魔を倒した後、鱗が剥がれはじめて無数の小さな虫になり私を襲ってきました。」
アリィ「…じゃああれは最初から鱗なんかじゃなくて虫…」
ベツレヘム「そういうことになりますね。もう数が多くてここでずっと戦ってまして…」
ベツレヘムはアリィと会話をしながら、自身の後ろに迫っていた虫の頭部を拳を掲げ潰す。
ベツレヘム「一部を逃がしてしまって…」
アリィ「…ねぇその虫って脆い?」
ベツレヘム「…針を出す速度が異常に早いです。それを見切れる動体視力があれば。」
アリィ「…任せて。」
アリィの瞳が僅かに揺れた。
枝のぱきぱきと折れる音、踏みしめた土と葉の音がする。
ノア「…まさかこんな所までに来るなんて。」
ノアがそう言い放った先には、複数の”あの”虫がいた。
ノア「…君達は彼女の子供かい?」
ノアがそう言うと、虫が何かを伝えようとするが発声器官を持たないのかそこから音が出ることはなかった。
ノア「…彼女と違って君達は声が出せないのか。だけど彼女と違って、目が見える。どう?当たってる?」
虫「…。」
ノア「僕のことをどうして襲わないのかも気になるし、直接覗くとしようかな。それでいいんだよね。」
虫は動かしていた羽を休め、ノアの足元にじっと待つ。
ノア(正直、今はあまり魔力を消費したくないんだけど…)
ノアがそう思いながら、虫に手をかざすと、ほのかに指の先に熱を感じる。
ノア「手伝ってくれるんだね。ありがとう。」
カイオス「お疲れアカネ。誘導感謝する。」
ジーク「あー!」
アカネ「どうしました?」
ジーク「こいつ初対面ですげぇ失礼だったやつ!」
アカネ「…。」
アカネがカイオスの方を静かに見つめる。
カイオス「やべ…」
アカネ「貴方という人は…!」
カイオス「そ、そんな怖い顔するなよ…」
アカネ「はぁ…。大方ベツさんが甘やかしたんですね…。『鴉』さんに頼まれていたのに…これは僕の失態です。本当にすみません…。」
(カイオスさんは子供を盾にする人ではないので、これで謝るでしょう。)
ジーク「え、いや…」
カイオス「分かった分かった!謝る!…悪かった。少し神経質に…いや言い訳だな。すまなかった。」
そう言ってカイオスはジークに頭を下げる。
ジーク「部外者なのは事実だし…まぁ言い方はあれだけど…他2人にも謝ってもらったら…」
カイオス「ああ、事が終われば必ず。本当にすまない、この村にこんなに尽くしてくれている恩人に…」
カイオスの言葉をジークが手を目の前に出し、制する。
ジーク「それは後で!解決してから!」
カイオス「…そうしよう。お前は自信家だな。」
ジーク「…?」
アカネ「言い方が悪い!」
カイオス「これでもか…?」
アカネ「もういいです!僕が通訳します!ジークさん、あれは皮肉じゃないのでご安心を。勇気があって強くて凄いなって意味ですから。」
ジーク「あ、あぁ…。どうも…。」
アカネ「全く、カイオスさんはいっつもいっつも…伝えたい言葉包みに包んで、明後日の方向に投げちゃうんですから!」
カイオス「すまん、例えがよく理解出来ん。」
アカネ「ばうっ!?」