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「カイト、スタジオ入りの前には、きっと病院に行ってね?」
一夜が明け、心配のあまりそう念を押す。
「ああ、わかった、行くから……じゃあまた、ミク」
「うん、またね……カイ」
バイクで、家の周辺ぐらいへ送ってもらい、カイトと名残惜しい気持ちで別れた。
彼は私のマンション前まで送ってくれるとは言ったけれど、どこに誰の目があるかもわからないからと、断っていた。
カイトを、どんなことがあっても、今日のようなトラブルには、もう二度と巻き込みたくはなかった。
(第一印象は最悪だったのに……。もうこんなにも彼のことを好きになってるなんて……)
にわかに感じる想いに、遠ざかっていくカイトのバイクのエンジン音を聞きながら、私はわけもなく高まって早まる胸に手をあてがった……。
──その夜、残業もそこそこに家に帰った私は、テレビの前に鎮座して彼の出番を待った。
「……それでは、次はキラの皆さんに、歌っていただきましょう!」
そうしてしばらくして、カイトたちの出番が訪れた。その日の彼らは、新曲の『蒼の葬列』を歌うため、全員が曲のイメージに合わせた青い衣裳を身に着けていた。
カイトは、ブルーグレーの裾の長いロングスーツに、銀ボタンのブルーのベストが長身によくマッチしていて、まるで王子様のような美麗な雰囲気があった。
だけど、その手には真新しい包帯が巻かれていて、ギュッと心臓をわしづかみされるようにも感じた。
画面の中の彼から目を離せずにいると、曲が流れ出した。
──レクイエム調の『蒼の葬列』は、厳かなパイプオルガンのイントロから始まる。
前奏が過ぎ、カイトが歌い出すと、その声は切なく澄んで、いつにも増して胸に響いて聴こえた──。