「やらかした…」
俺は寝起きに隣を見て、全てを悟ってしまった。
同じベッドのすぐ横には下着姿の聖奈さんが……
「くそっ!俺は酔っ払いだが、こんな間違いは…」
すやすやと眠る聖奈さんを見て、深くため息をついた。
考えても仕方ないので、眠気覚ましにシャワーを浴びる事にした。
「やらかしちゃったね」
いや、そうなんだけど……
「悪い事をしたな…」
「仕方ないよ。人間は間違いを犯すものだから」
そんな冷静に言われても…罪悪感が込み上げてくる。
「もう!そんなに心配しなくても、二人なら大丈夫だって!むしろ私の心配をして欲しいな!
下着姿で一緒に寝ても何も無かったんだよ!?信じられないんだけどっ!」
「いや、酔っ払いになんかするわけないだろ。だいたいあんな甘い酒ばかり飲むからこうなったんだ。
聖奈は酒はほどほどにな」
そんな事よりも、二人が心配だ…ちゃんと食べているだろうか?
おやつばかり食べていないよな?
頼むからミランの家に行って、ご飯をちゃんと食べて、戸締りをキチンとしていてくれよ?
異世界へ戻ることを忘れていた訳じゃないぞ?
酔っ払った聖奈さんが服を脱ぐからそれを止めたり、かと思ったら気持ち悪いとかいいだすから……
エリー、ミラン。すまん。
「ええー!私だって酔いたい時もあるんだよ?」
「それは構わないけど、限度がある。危うく裸になるところだったんだぞ!?どんな酔い方だよ…」
「…まぁ、聖くんならいいじゃん?運命共同体だし?」
運命共同体はいいけど、人生を共同したくはないぞ。
俺は異世界ハーレムを築き上げるんだ!
「でも、聖くんも大変だね。私の情報では、妹キャラで可愛い子がタイプなのは知っているけど、実際にいた二人には保護者的な想いしか得られないなんて」
妹キャラ好きをなんで知っているんだ!?あれか!?須藤か!?
あのお喋りめっ!!
「聖奈…ホントにやめて…」
俺の本音は声にならなかった。
マンションでごちゃごちゃ言ってても仕方ないので、会社に顔を出すことにした。
俺が行っていない間にかなり変わっている。
「挨拶したけど、名前覚えられそうにないな…」
「ふふっ。聖くんはそういうの苦手そうだもんね」
バイトさんが倍になっていた。
最早俺の会社ではないだろ?報告もなかったぞ。
報告されても返事は一つだから良いけど。
「もう一々報告しなくても良いかと思ったけど、良かったかな?」
「いや、好きにしてくれ。そこんところは前も言ったけど信用しているし、相談や報告は困った時だけでいいから」
「そこのところとはどういう意味かな?」
そのままの意味です。
二人はちゃんと朝ごはん食べただろうか?
俺が帰らなくて、不安になっていないだろうか?
「もしかして、また心配してるの?大丈夫だよ。ああ見えてエリーちゃんは18だし、ミランちゃんはミランちゃんだよ?」
「そうだな。だけど、心配なものは心配なんだ。世の父親がどんな気持ちかわかった気がする…」
俺はバーンさんに向けて少し謝罪した。
どうせだからと、聖奈さんとあっちで売れそうなモノを少量仕入れてみたり、車の部品で使えそうなモノを注文したりして、地球での時間を潰した。そう潰したんだ。
何かしていないと心配病が再発してしまうからな。
俺ってこんなに心配性だったのか?
家では末っ子で、年下との交流がなかったけど……
そう言えば…昔飼ってた(住み着いていた)猫に対しても同じ感じだったような気がするな。
アイツが最初に来た時はガリガリの子猫で、親に隠れてこっそりミルクや晩御飯の残りとかあげたな。良くないらしいけど、子供の浅知恵だから仕方ないよな。
今はどうだ?
相手は人間で異性だ。ホントにこのままでいいのか?
やめよう…なんかドツボにハマってる……
漸く夜になり、月が出た。
「お帰りなさい。大丈夫でしたか?」
やはり心配させてしまっていたな。
「悪かったな。大丈夫だ。つい飲み過ぎて二人して寝過ごしてしまったんだ」
「そうだったんですね。私のデザート…」
「私のではありません。二人のです」
デザートの心配かよ…まぁ、あっちは比較的安全だと伝えていたから心配は少ないか。
「ちゃんとあるよ!お詫びも込めて豪華なデザートにしたよ!」
そう告げながら聖奈さんは二人に白い四角い箱を見せた。
「まずはご飯だけど、二人は夕飯はまだかな?」
「はい。お帰りを待っていたので」
「じゃあ、向こうで作ってきたから温めるね!」
聖奈さんについて行き、四人で一階へと向かった。
二人への謝罪の意味も込めた豪華な食事の後、冷蔵庫にしまっておいた箱をテーブルの上に置いた。
「じゃじゃーん!これが今日のデザートだよ!」
「何ですか?これは?」
「待ってね。今開けるから」
箱の横を開き、中から出てきたのは純白の生地に色とりどりのフルーツが乗っているホールケーキだった。
そして上には……
「えっ?黒い板に私の名前が書いてあります」
「私の名前もあります」
チョコの板には聖奈さんがこちらの文字で『ミランちゃん。エリーちゃん。待たせてごめんね』と書いていた。
ケーキ自体は有名店のモノだが、それだけでは寂しいと聖奈さんがマンションで頑張っていた。
「じゃあ切るね!」
聖奈さんが四等分に切り分けたケーキを小皿に移し替えていく。
「さあ!食べてみて!その黒い板も食べれるから食べてね!」
「わかりました。いただきます」
「この板はもしや、チョコです?」
おっ。流石にこれまでに食べてきたものからチョコはわかった様だな。
多分ミランも生クリームに気付いている筈だ。フォークが震えているから動揺を隠す為にあえて言葉少ななだけだろう。
「「おいしー!!!」」
喜んでくれると分かっていても嬉しいもんだな。
俺のケーキは二人にアーンして餌付けしておいた。
聖奈さん…なんであんたまで……
翌日。エリーの研究が進んだということで、見させてもらうことに。
「では、動かしてみます!」
エリーが魔導具を操作すると、魔導具の先に付けられたおもりが勢い良く回転を始めた。
「おお!あれだけの鉄の塊を回転させられたら、車の重量でも大丈夫そうだな!」
「そうだね!しかもどんどん加速していってるね!」
そう。物凄く速くなっていっている。確かにミッション機能は難しすぎるから強弱で加速出来る様にと伝えたが……
キィィィィン
「お、おい!大丈夫なのか!?もう十分だぞ!?」
「と、止まらないですっ!止める機能をつけてなかったです!!」
「くそっ!」
俺は恐る恐る魔導具に近寄り、慎重に魔石を抜いた。
「ふぅ。確かにブレーキのことを伝えていなかったな」
アイドリングが無ければエンジンブレーキも無い。
今後の事を色々と相談した後、その場を後にした。
「今日はどうするの?」
「エリーには魔導具の続きをしてもらうとして、聖奈には新居の手入れをしてもらいたい」
「あのー私はどうしたら?」
「ミランはエリーの手伝いをしていてくれないか?俺はどっちみち転移しなきゃいけないしな」
そう決まると俺と聖奈さんは早速新居へと転移した。
防犯機能を使っていたから解除の為にも今回は中ではなく、外に転移した。後で思い出したが中からでも防犯機能の操作出来るんだった……
「うわー。やっぱり広いね!リゴルドーの家より一回り以上は広いね!じゃあ私はキッチンを片付けるから、セイくんは二階のものを運んでくれるかな?」
「りょーかい」
せっせと荷物を二階に運んだ後、この後は邪魔だから散歩して来いと言われたので、街をブラブラと。
「何だ?凄い音が聞こえるな」
街外れまで散歩していた俺の耳に、衝撃音が聞こえた。
音の元を探ると、どうやらあの平家から聞こえる様だ。
周りには家がないのですぐに発生源はわかった。見た目は小さな家だ。ここもレンガで作られている。
ドン!ダンッ!
パァンッ!
「何の音だ?魔法かな?」
ここは魔導王国。何かしらの魔法か魔導具の可能性が高いので、魔力視を展開して見てみると……
「うん?魔力は見えるけど別に何か魔法を撃っている…」
パァンッ!
「人型だ…魔力が身体の隅々まで行き渡っているのか?」
魔力は殆どの生き物にある。だけどそれは魔力視で見ても俺の様な例外を除いて黒いモヤや炎が見える程度であって、決して人型に見えるものではなかった。
「まさか人型ゴーレムがあるのか…?」
もしあれば凄いぞ!絶対欲しい!
俺は興奮してその家に突撃した。
チャイム?そんなもんはない。
ガチャ。
「こんにちは!凄い音がしたけど大丈夫ですか!?」
前もって考えていた『いきなり訪問』の言い訳を喋りながら、家の中を見回すと。
「こんにちは。すまんな。修行の音がでかいものでな」
中は家の中なのに床がなく、何もない家だった。
何も無いにも程があるだろ!?床もないなんてどんなミニマリストだよ!
俺の声に応えた家人は白髪の老人。マッチョで背も高く、髪も後ろで縛るくらい長い。
「しゅ、修行ですか…?一体何の?」
「儂がしている修行に興味があるのか?」
いや、聞いてるのはこっちなんだけど……
「まぁ、一応冒険者ですし?」
「ほう。良いだろう。入りなされ」
なんかわからんけど家にお呼ばれしてしまった。
どうせなら可愛い女の子にお呼ばれされたかったな……
何もない空間にマッチョ爺さんと挙動不審な男…何も無いはずもなく……
ちなみに誰も興味が湧かない爺さんの格好は、上裸に袴の変態ルックだ!
「この修行は身体強化魔法の訓練でのう」
「し、身体強化…」
このムキムキ爺さんに似合わない年寄り言葉を聞いても、ツッコめないくらいに衝撃的だった。
「そうじゃな。儂くらいになると、普段の4倍くらいの力を出せるようになるぞ。まぁ、そこまですると魔力切れを起こすがな」
「す、凄い…お、俺に教えてくれませんか!?」
あまりの衝撃に一人称まで間違えてしまったが、そんな事は些事だ!
「え!?身体強化魔法じゃぞ?お主魔導士なのか?いや、そうであれば身体強化魔法に興味をもつはずはないのう…」
「?よくわかりませんが俺は魔法使いです。魔導士協会には入っていない、他国から来た冒険者です」
「えっ?魔法使いなら魔法が使えるじゃろ?それなのに身体強化魔法?」
ん?話が噛み合っていないぞ。
唯一わかるのは、間違いなく俺つえーの流れではなく、こいつ頭大丈夫か?の流れだということだ。
〓〓〓〓〓〓〓あとがき〓〓〓〓〓〓〓
お話の途中ですが、この71話から少しの間、後書きに小話を載せたいと思います。
小話の内容は、作者がふざけ過ぎて没になった内容や
こんな世界線もあったらなと、この小説とは別世界のお話になります。
別の世界線とはいえ、登場人物はもちろん同じですが、時系列もなるべく合わせたモノになります。
しかし!あくまでも、作者が気晴らしに書いた別のお話だと認識して読んでください!
必要ない方は〓←このマーク以降は読み飛ばしてもらって問題ないです。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
聖「おかしいな…何で聖奈と寝ていたんだ?」
聖奈(まさか寝ぼけて間違えたなんて言えないよ…ガチはまずいよ…)「聖くん!私の事好き過ぎだよ!結婚しちゃう!?」
聖「うん。通常運転だな」
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