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128
封鎖は、三ヶ所だった。
塩尻峠。二十人と、トラック一台。諏訪への道。十人。下流への川沿いの道。十人と、トラック一台。
四つの村は、四つの村になった。
木曽と、隣村の間の、峠の小屋は、塞がれなかった。権田は、そこには、人を置かなかった。「穴のリストに、『三つの村が分かれたとき』と書いてあった。三つは、分けてやる。二つは、残してやる」と、塩尻峠の男が、言ったという。
権田は、穴のリストを、読んでいた。読んで、穴を、使っていた。瑠衣が書いた回し方も、読んでいた。回し方が、どこまで持つかを、試していた。
*
一週目。
木曽と隣村は、証で回った。峠の小屋で、交換が続いた。米と、味噌と、薪。塩だけが、来なかった。下流への道が、塞がれていた。
諏訪の湖は、木曽に来なかった。木曽の証は、諏訪に行かなかった。為替の板は、先月の数字のまま、止まった。
下流の村は、塩と、紙漉きの家と、水車と、ばあさまと、二百枚の組合の証を持って、川沿いの道の向こうで、孤立した。
要は、瑠衣の穴のリストの、写しを開いた。瑠衣が権田に渡す前に、要が、写していた。三冊の写しと同じように。
『穴、十二。道が塞がれ、四つの村が分かれたとき、台帳は照らせない。回し方。分かれている間、各村は、自分の村の中で、自分の台帳で回す。道が開いたとき、四つの台帳を照らす』
各村が、自分の台帳で回す。木曽と隣村は、回っている。下流と諏訪は、わからない。見えない。
「見えない」要は、つむぎに言った。「下流が、どうなってるか。諏訪が、どうなってるか。飛脚が通れない。蝋で封じた手紙も、通れない。九つ目が、止まった」
「見えないと、どうなるの」
「わからない。それが、問題だ。わからないまま、一ヶ月。一ヶ月後、道が開いたとき、下流の台帳と、木曽の台帳が、合わないかもしれない。合わなかった分を、組合の蔵から出す。それが、回し方だ。でも、組合の蔵は、三つに分けた。木曽に二百枚。隣村に二百枚。下流に二百枚。四百枚で、どれだけ合わないかを、埋められるか」
*
二週目。
塩が、なくなった。
木曽と隣村の、蔵の塩が、尽きた。塩は、下流からしか来ない。下流への道は、塞がれている。
相場の板の、塩の行に、孫が、数字を書けなくなった。
「塩がないと、相場が書けない。塩が、証で何枚か、誰も言えない」
「書かなくていい」要は言った。「ないものに、値段はつかない」
「ないものに値段がつかないなら、証の上限も、計算できない。塩の分を、引かないといけない」
要は、うなずいた。三人で、計算し直した。千八百枚から、千五百枚に。塩の分と、諏訪の魚の分を、引いた。
「減った」ひかりが言った。
「減った。四つの村が、二つになったから。二つの村の物の量で、証を支える。それだけだ」
「証を、持ってる人は」
「持ってる分は、そのまま。でも、新しい発行は、千五百枚まで。今、千四百枚、出てる。あと百枚しか、作れない」
百枚。薪を割った者に、週に五十枚。二週間で、尽きる。
三週目には、新しい証を、誰にも渡せなくなる。
*
「要さん」つむぎが、夜、言った。「権田さんは、これを、わかってやってる」
「わかってやってる」要は言った。「穴のリストに、書いてあった。瑠衣が書いた。『道を塞げば、四つの村の物の量が減る。物の量が減れば、証の上限が下がる。上限が下がれば、新しい証を出せない。出せなければ、働いた者に払えない』」
「回し方は、書いてあった?」
「書いてあった。『分かれている間は、証ではなく、物で払う。薪を割った者に、米で払う』」
「じゃあ、そうすれば」
「そうする。でも、それは、一年前に戻るということだ。証の前。物々交換。相模湖の空き地に」
つむぎは、黙った。
要は、壁の十二条を見た。十二条は、まだ、そこにあった。でも、九条の為替は止まり、六条の組合は三つに割れ、四条の上限は下がり、八条の遠隔は通れない。十二条のうち、半分が、動いていなかった。
「権田さんの、勝ちかもしれない」要は言った。
「要さんが、言うの? それ」
「言う。仕組みは、正しかった。でも、道を塞がれたら、半分が止まる。瑠衣が、穴を見つけた。権田さんが、穴を使った。僕が、回し方を書いた。回し方は、一年前に戻ることだった。それは、回し方じゃない。退き方だ」
「退いても、死なない」
「死なない。でも、市じゃなくなる」
つむぎは、少し、考えてから言った。
「要さん。一年前、相模湖で、割符を割った。あのとき、要さんは、『後で』を木で作った。何もないところから」
「作った」
「今は、何もないわけじゃない。証が千四百枚ある。十二条がある。四百の壁に、番号がある。千五百人の顔を、私が覚えてる。水車が二つある。何もないところから作れたなら、これだけあるところから、作れないはずがない」
要は、つむぎを見た。
「……何を、作る」
「わからない。私、仕組みの人じゃないから。でも、権田さんは、道を塞いだ。道は、物が通る道。物が通らなくても、通るものがある」
「何が」
「人」つむぎは言った。「封鎖の向こうに、人がいる。下流に、ばあさまがいる。諏訪に、佐久間さんと灯さんがいる。顔を知ってる人が。物は通れないけど、顔を知ってる人のことは、思い出せる」
要は、何も言わなかった。
思い出せる。それだけで、何ができるか、要には、まだ、わからなかった。
外は、雪だった。塩尻峠の上に、松明が、二十本、揺れていた。一ヶ月のうち、二週間が、過ぎていた。
コメント
1件
うわ……権田、ちゃんと穴のリスト読んでたんだ。瑠衣の書いた回し方まで試すなんて、狡いよな。でも、その「穴」がここまで深いとは思わなかった。道を塞ぐだけで村の物量が減って、証の上限が下がって、働いた人に払えなくなる。要が「退き方だ」って言ったとき、すごく響いた。でもつむぎの「人は通れる」って言葉、あれが希望なのかな。顔を知ってる人のことは思い出せる——その発想、すごく大事だと思う。続き、気になる。