💙side
少し時間が経って、涼太の言った好きな人の正体が同じメンバーの阿部だとわかった。
意外にも近くに恋のライバルがいたというわけだ。
俺は最後の一縷の望みを賭けて二人がうまくいかないことを願ったが、そんな邪な願いが叶う筈もなく、穏やかで平和な二人は順調に惹かれ合い、交際を重ね、数ヶ月も待たずにメンバーみんなに交際を公表した。
世界が色を失くしたかと思った。
俺の気持ちは誰も知らない。光の下で祝福される二人と、影に隠された俺の気持ち。
自分が招いたこととは言え、何の罰かと思った。
ああ、神にうまくいかないようにと祈った、あの時の罰か。
阿部に余計な気を遣わせないよう、そして何よりも涼太に悲しんでいることがばれないよう、俺は細心の注意を払い、普段通りに振る舞うことに注力した。
すると皮肉なもので、目に見えてダンスの技術が上がったし、台詞覚えも良くなった。バラエティでもどこか毒を孕んだキレのあるコメントが受け、メンバーからも褒められることが増えた。
失恋を糧に仕事の成果が上がるというのは、こういうことなのかもしれないなと、俺は思った。
しかしただ一人、めめだけが、俺に気になる声を掛けてきた。
🖤「しょっぴー、顔色悪いよ」
🖤「しょっぴー、ちゃんと食べてる?なんだか少し痩せたみたいだよ」
🖤「しょっぴー、無理しないで」
うるさい、うるさい、うるさい。
俺はめめの優しさに心を動かされないように、もう二度と誰かを自分の心の中に棲まわせないように必死に抵抗した。
耳の奥までがんがんするような強い耳鳴りに襲われ、頭が割れるように痛い最悪の日。
俺は楽屋の鏡の前に座り、薬が効き始めるのを大人しく待っていた。収録前の楽屋はいつも通りに賑やかで、メンバーたちは思い思いに雑談に興じている。
そんな中ふと、鏡の中の涼太と目が合った。
涼太はこっちを見つめていたが、俺に気づくと、わからないように目を逸らした。
そんな小さなことに精神を削られて、持病の頭痛がさらに酷くなるのを感じた。
涼太のすぐ隣りには幸せそうに笑う阿部がいる。二人はどこからどう見てもお似合いのカップルだった。
机に突っ伏して、時が過ぎ去るのを痛みを堪えてじっと待つ。
めめがそっと俺に近づいてきて、楽屋の外に俺を連れ出した。
🖤「水とポカリ、どっちにする?」
💙「……甘くないほう」
めめは俺に水を渡し、自分はポカリを飲んだ。
冷たい水が喉を通り抜け、少しだけ俺の意識をはっきりさせた。その日はとにかく頭が痛すぎて、視界までぼやけ始めていたものだから助かった。
俺は冷えたペットボトルを額にあてて、目を閉じた。
🖤「熱でもあるの?」
💙「大したことない」
🖤「岩本くん、呼んでこようか?」
💙「大したことないって言ってるだろ!!!」
めめは俺の剣幕に驚いて、それでも強情に俺のそばを離れなかった。
なんでこんなに優しくしてくれるのかわからない。でも、めめの中で何らかのお人好しセンサーが働いて、俺を放って置けないのだろうと解釈することにした。バカな勘違いはもうたくさんだ。
それでも俺は、その日を境に、めめにほんの少しだけ心を許した。
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