テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
話は現在に戻る。
千歳の声は、怒りと悔しさを押し殺したように震えている。
「そうよ・・・あいつら・・・」
拳を強く握り締める。
「私がいじめに屈服しないからって
4人がかりで道路に──」
その光景を思い出すだけで、千歳の表情は歪んだ。
「さらに目撃者が居なかったからって
これ幸いとばかりに、私が自分で
道路に飛び出したなんて大嘘こいて」
声には憎しみが滲む。
その言葉に、信愛は何も返せなかった。
千歳は怒りを吐き出すように続ける。
「あいつら罪の意識なんて
これっぽっちも持ち合わせてなかった」
信愛は黙って耳を傾ける。
「あんたらださ・・あの飛鳥の会ったんだよね?」
信愛はゆっくりと頷く。
「見てたんだ・・・」
「ええ・・・見てたわよ」
「江古田さん・・ずっと後悔してたみたいで
私たちが──」
千歳は信愛の言葉を遮るように高笑いする。
「ぷっ、あはは、後悔?あいつが?あはは」
突然笑い出す千歳に戸惑う信愛は、その笑いの真意をやさしく問いかける。
「な、なにがおかしいの?」
「あいつ、あんたらが帰った後
どんな様子だったか知ってる?」
「え?」
信愛が首を傾げる。
千歳は唇を噛み締めながら答えた。
「一人で腹抱えて笑ってたのよ?」
「え?」信愛は言葉を失う。
◇ ◇ ◇
それは信愛たち一行と飛鳥が別れた直後の事だった。
夕暮れのベンチの前で、飛鳥は信愛たちが帰った事を確認すると、我慢していた胸の内を解放するかのように、肩を震わせながら笑みをこぼしていた。
「くふふふ・・・」
やがて堪えきれなくなったように大声で笑い出す。
「きゃははははは!」
腹を抱え、涙まで浮かべながら笑う飛鳥。
「あいつら、ばっかみたい♬」
その笑顔には罪悪感など欠片もない。
「あんな嘘、ガチで信じてるし」
飛鳥は愉快そうに肩を揺らす。
「あんなバカ、実際に生息してるんだ」
再び吹き出した。
「面白すぎだろマジで!ぎゃはははは!」
その無邪気な笑い声だけが、公園に虚しく響いていた。
その一部始終を見つめる千歳の瞳には、怒りと絶望だけが宿っていた。
◇ ◇ ◇
そんな飛鳥の姿を千歳から聞いた信愛は、しばらく言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
沈黙を破ったのは千歳だった。
「ね?」
その一言だけで十分だった。
「あの世の中には、あんなクズだって居る」
千歳は静かに、しかし迷いなく続ける。
「だから私は、あいつらを
私と同じ目に遭わせてやろうと思ったの」
信愛は苦しそうに目を伏せる。
「確かにあの人は悪人かもしれない
復讐したい気持ちも理解できる」
それでも信愛は顔を上げた。
「でも、そういう人たちは警察が──」
最後まで言い切る前に、千歳が鋭く遮る。
「自分が殺されても同じ事言える?」
「え!?」
信愛は息を呑んだ。
千歳は淡々と言い放つ。
「それは殺された経験が無いヤツの理想論だよ」
再び静寂が流れる。
やがて千歳は、自嘲するような笑みを浮かべた。
「復讐は何も産まないって、よく言うけど
復讐は私に、この上ない達成感を与えてくれた」
信愛はその言葉を小さく口にする。
「達成感・・・」
千歳は静かに笑う。
「だってそうでしょ?自分をいじめて殺した挙句
自殺したって嘘までついてた奴が痛い目に遭うのよ?」
一呼吸置いて、ゆっくりと目を閉じる。
「これは生きていた頃では味わえなかった達成感」
信愛は返す言葉を失った。
千歳は穏やかな声で続ける。
「生きていた頃より、今の私は生きてる」
しかし信愛は、そんな千歳の言葉に静かに首を横へ振った。
「そうかな?」
千歳が怪訝そうに眉をひそめる。
「は?」
信愛は真っ直ぐ千歳を見つめた。
「千歳さん?」
その声は優しく、それでいて力強かった。
「あなたは本当は、法律で人を助ける
弁護士になりたかったんでしょ?」
千歳は黙り込む。
やがて静かに口を開いた。
「法律は生きてる人間を守る為の物よ」
冷たく言い放つ。
「死人に法律は適応されない」
信愛は悲しそうに名前を呼ぶ。
「千歳さん・・・」
千歳は小さく息を吐いた。
「それに弁護士なんて、それは私が
人間だった頃の話でしょ?」
その言葉に、信愛は一歩前へ踏み出す。
「私は今、霊に話してるんじゃ無い」
千歳が顔を上げる。
「春日井千歳って言う
一人の女子中学生に話をしてるの!」
その言葉に、千歳の瞳がわずかに揺れた。
「女子・・・中学生」
信愛は迷わず続ける。
「春日井千歳って言う
一人の人間としてのあなたを知りたい!」
さらに一歩近づく。
「そして救いたい!」
千歳は何も言わない。
長い沈黙の後、小さく笑みを浮かべた。
「ふっ・・・」
その笑みは、どこか寂しげだった。
「この姿になって、初めて人間扱いされた」
千歳は空を見上げる。
「というか、こうして人と会話したの
何年振りなんだろ・・・」
信愛は胸が締めつけられる思いで、その言葉を受け止めた。
「千歳さん・・・」
千歳は優しく尋ねる。
「あなた・・・名前は?」
「私は白縫信愛」
その名を聞くと、千歳は穏やかに微笑んだ。
「信愛か・・・いい名前だね」
少し照れくさそうに目を伏せる。
「信愛みたいな人が中学に居てくれてたら
私の中学生活も、少しは変わったのかな」
信愛は何も言えず、その言葉を胸に刻んだ。
すると千歳は静かに頷いた。
「分かったよ・・・」
そして、覚悟を決めたように微笑む。
「復讐はやめる・・・」
信愛は思わず目を見開いた。
「え?」
千歳は不思議そうに首を傾げる。
「何驚いてんの?」
くすりと笑う。
「それを望んでたのよね?」
信愛は頷く。
「そう・・・だけど」
しかし、千歳はその言葉を遮るように小さく呟いた。
「そもそも私の殺しに加担した奴ら全員
事故に遭わせる事できたからね・・・」
そう口にした千歳の目が一気に鋭くなる。
「けど──」
その瞬間、空気が変わる。
千歳の瞳からは先ほどの優しさは消え去り、鋭い憎悪が宿っていた。
「あいつだけは違う」
信愛の鼓動が大きく鳴った。
「あ、あいつ?」
コメント
1件
千歳の「復讐は達成感を与えてくれた」って台詞、めっちゃ刺さったわ。それでいて信愛の「人間として知りたい」ってまっすぐな言葉に揺れる千歳の心情、憎しみと寂しさが混ざり合ってて切なかった。最後の「あいつだけは違う」で空気一変する終わり方、続きが気になりすぎる🔥
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159