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今日もいつもと変わらず彰久は食事の用意をしたり、鷹矢の身の回りの世話をしていた。その様子を見守っている鷹矢の目は相変わらず冷徹だが以前よりも彰久に心を開いていた。
夕食が完成したようで、彰久が厨から食事を運んできて、鷹矢の隣に腰を下ろす。すると鷹矢は彰久に近づき、無言で肩に手を置いた。温もりが直接伝わり、彰久は一瞬だけ体を震わせ顔を逸らす。
「恐れているのか?わしと一生を共にすると誓ったからにはこういうのは想定内だと思っていたんだがな」
鷹矢が低い声で問いかける。
彰久は答えず、視線を逸らしたままだった。
そのまま夜は更けていき、お互いに無言で重い空気の中過ごしていた。すると鷹矢が口を開く
「わしと一緒にいるつもりが無いなら、今すぐにでもここを出ていけ」
その言葉に彰久は目を見開いたが、すぐに目を伏せた。
「何故そうなるんだ⁉︎それは、いきなり抱き寄せられれば驚くに決まっているだろう!」そう言い返す彰久の声は少し震えているようだった。それから深呼吸をし、気持ちを落ち着けてから言葉を続ける。
「俺はいつだって鷹矢のことが好きだ。だが、いつも気持ちを伝えるのは俺ばかりで、鷹矢からは聞けていない。だから今日は鷹矢から俺への思いを教えて欲しい。」
すると、鷹矢は無言で彰久の手を取りゆっくりと自身の胸元に押し当てた。彰久はその温もりを感じながらも手を引こうとするが、そうはさせないと鷹矢が一層強く握りしめた。
「ここ数日をお前と共に過ごして、わしの為に家事をするお前を見ていて、心が温まっていくのを初めて感じた。だから、わしはこれからもお前と共に過ごしたい。」
その言葉に彰久はしばらく黙っていたが、やがて微笑みを浮かべ
「鷹矢からその言葉が聞けて嬉しい。俺もこれからもずっと鷹矢と共に過ごしたいと思っている」そう言うと、待ってましたと言わんばかりに鷹矢は静かに彰久の首に唇を寄せた。
鷹矢の温かさに触れることで、彰久は今までに感じたことのない熱が体中を巡り、体が震えた。
「お前が欲しい。」鷹矢は低い声で呟き、彰久を強く抱きしめる。すると彰久も押し返すことなく、柔らかく身を任せる。
二人の体が触れ合い、息が重なる。お互いの体温を確かめ合うようにゆっくりと体を重ねていく。
その夜、二人はただ無言で一つになった。その静寂の中に確かな絆が生まれていくのを二人は感じていた。
その出来事から二人の関係は次第に深まり、お互いが欠かせない存在となっていた。しかしその平穏な生活に影がかかることになる。
ある晩、山の麓に面する村で謎の疫病が流行し始めたと言う知らせが届いた。村人たちは次々に倒れ誰も助けることができないと言う状況だった。
「このまま放っておけば都にも広がるだろう。俺たちが行くべきだ」
鷹矢は彰久の決意を黙って受け入れ、共に向かうことになった。
村に着くと家々はひっそりと閉ざされ、微かに人々の呻き声が聞こえてくる。彰久は恐る恐る家々を訪れ、村の長老に話を聞いた。
「この病はただの疫病ではない。呪いだ」長老は力なく言った。「それを解除できる者は天狗の中でも特別な力を持つ者だけだ。」それに続けて「だが…その呪いを解除する者は天狗の力を使い果たすことになる」
彰久はその言葉を聞き鷹矢の方を心配そうに見る。しかし鷹矢は覚悟を決めたようで、無言で長老の言葉を受け止め、ただ立ち上がった 。
二人は呪いの源だと言われている村の西にある古びた神社のような所へ向かう。その建物に近づいて行くにつれて空気が冷たくなって行くのを感じる。中には一人の天狗が待っており、その姿は鷹矢とよく似たものだった。彼は鷹矢を見て、冷たく微笑む
「久しぶりだな、鷹矢」
「お前がこの呪いをかけたのか」鷹矢の声は怒りを滲ませていた。
「私の名は烏丸。お前が山を守っている間、力を求めて訪ねてくるものが多かったが、それには特に力を持つものが力を全て使い果たさなくてはならないことを誰もが忘れていた。」烏丸は冷ややかな声で言った。
「私は今、その代償を払わせている」
「その代償というものが呪いの正体だったのか」鷹矢は拳を握りしめた。
「長老にも聞いたと思うが、この呪いを解除するのはお前のような特に力を持つ天狗が、力を全て使い果たす事が必要だ」さらに続けて「お前が力を使い果たす為には、別の誰かが代償を支払う必要がある」
彰久はそれまで黙って会話を聞いていたが、覚悟を決めたように
「その代償は俺が支払おう。俺の命を使ってでも呪いを解く」
鷹矢は驚く。彰久の覚悟を感じ取ったが、すぐ彰久を強く抱きしめる。
「お前にそんなことをさせるわけにはいかない。お前の命はわしが守る。」その言葉に彰久は胸が熱くなる。
「だが、俺は村の人々もそして、何より鷹矢のことを守りたい。」彰久はその腕を強く握り返した。「だから、鷹矢も俺を信じて欲しい」
その瞬間、冷徹だった烏丸の表情が変わった。
「…お前たちの絆が本物であれば、二人とも無事でこの呪いを解けるかもしれない。だが、もしそれが足りなければ、代償は二人に訪れる」
その言葉は重く響く。
彰久と鷹矢が見つめ合い、頷いた瞬間二人の間に強い光が現れ、室内に音が響き渡る。
その瞬間呪いが解けて行くのを感じ、村の人々が一人また一人と目を覚まして力を取り戻していった。
烏丸は最後に「お前たちの絆は本物だな。これで呪いは解けた」