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『引き返しなさい。さもなけば身の安全は保証しない』
拡声器の声が響く。
いくつもの赤いレーザーポインターが梨沙の頭や心臓に狙いをつけている。
少しでも変な動きをすれば本当に撃たれる気がした。
もしかしたら、それこそ彼らの狙いなのかもしれない。
警告を出したにも関わらず逃げようとしたから撃った。
そんな大義名分ができるのを待っているのではないか。
空気中に殺気が漂っていた。
彼らは梨沙を殺したがっている。
そんな気がしてならなかった。
……でも、どうして?
私が何をしたというのだ。
(……いや、きっと彼らが殺したいのは私ではなくお腹の子供だ)
生まれてはならない子供。禁忌の子供。
『早く家に避難を!そこは危険だ!』
突然、石倉の声が拡声器に割って入った。
『石倉警部。なんのつもりだ!』
石倉の割り込みで梨沙を狙う狙撃手の統率が一瞬乱れた。
反射的に身体が動いていた。
梨沙は倒れ込むように慌てて自宅の中に戻ってドアを閉めた。
助かった……。
でも、どうすればいい?
どこに逃げ場なんてある?
足は自然と2階に向かった。
算段は何もないが高いところに逃げた方がいいと梨沙の脳は判断した。
2階に駆けあがると窓の外をドローンが飛行していった。
ドローンの小型カメラのレンズが家の中をうかがうように前後左右にギョロギョロと動いている。
梨沙はハッと頭を下げて近くの部屋の中に滑りこんでドアにカギをかけた。
梨沙はスマホで丸山に助けを求めた。
丸山はすぐに出てくれた。
「家を出られません!囲まれてます!」
その時、一階から唐突にガラスが割れる音がした。
続いて何人もの人間の足音。
外にいた連中が家の中に侵入してきたのだ。
足音は散会して家の各部屋を動き回っている。
「……家に入ってきました!」
「その部屋にどこか隠れられるところは?」
梨沙は、部屋を見回し、窓を開け放つとベッドの下の収納ケースを取り出しその奥に隠れた。わざわざ窓を開けたのは、そこから逃げたと思わせたかったからだ。
梨沙はベッドの下で息を潜めた。
「丸山さん……このままじゃ私殺されます……」
「大丈夫。きっと助かる」
「大丈夫大丈夫」と繰り返し、それきり丸山は黙ってしまった。
それでも、梨沙にとって丸山と繋がっていることが最後の命綱だった。
もし一人だったらとっくに発狂していたかもしれない。
1分が1時間くらいにも思えた。
自分の荒い息遣いだけが聞こえる。
梨沙はとにかく耐えた。
突然、部屋の電気が全て消えた。
家のブレーカーを落とされたようだ。
さらに、丸山と繋がっているスマホ画面の映像にノイズがかかって乱れはじめてブツリと途切れた。
かけなおしても繋がらない。
(……どうして?)
電波妨害でも受けているのか。
相手は梨沙を徹底的に追い詰めるつもりのようだ。
彼らがこの部屋にたどり着くのは時間の問題だ。
すでに二階にはあがってきている。
足音がだんだん大きくなり部屋の前でとまった。
ドアノブをガチャガチャ捻る音がした。
パン!
侵入者はドアが開かないとわかると、いきなり銃弾を打ち込んだようだ。
梨沙は悲鳴をあげないよう息を呑んだ。
木製のドアノブが破壊される音がする。
ものの1分でドアは破られ突破されてしまった。
ベッドの下の隙間から目をこらすと、目出し帽を被った特殊部隊のような格好の人物が銃を構えて部屋を物色していた。
梨沙は目を瞑って息を止めた。
(どうか気がつかないで、このまま出ていって)
梨沙が家の外に逃げたと誤解してくれさえすれば……。
目出し帽の人物はクローゼットのドアをゆっくりと開け中を確認した後、窓の方に足を向けるのが見えた。
おそらく開いた窓から外を見回して闇に逃げた梨沙の姿を探しているのだろう。
ひと通り確認が終わったのか、目出し帽の人物はドアに向かって踵を返した。
助かった……。
と思った瞬間、収納ケースが荒々しくどかされ、梨沙は髪をおもいきりつかまれてベッドの下から引きずり出された。
「いたぞ!」
梨沙の目の前に目出し帽の人物が構えた銃があった。
鼻先50cmほどのところに銃口の黒い穴があった。
そして梨沙に命乞いをする間も与えず目出し帽の人物は梨沙の額めがけて引き金を引いた。