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#からぴち
#恋愛
#シングルマザー
水羽凛
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読ませていただきました!第3話、すごく良かったです……! 緋真さんが自分のコンプレックスを打ち明ける場面、とてもドキドキしながら読みました。過去に“萎えられた”経験があるからこそ、今回こそは隠さずに話そうと決意する心情がリアルで、胸がぎゅっとなりました。「――それで?」と淡々と返す伊織さんの言葉も、逆にすごく誠実に感じられて好きです。「どうでもいい」ではなく「気にしない」と言い切るのが医師らしくて、彼の人となりがよく伝わってきました。 最後の柔らかい微笑み、最高でした。あれで心を奪われるの、すごく納得です。次が楽しみで仕方ありません!
その後も食事を楽しみながら、両親たちのペースで会話が進み、あっという間にすべてのコース料理が終わってしまった。
会話の最中、何度か伊織さんと目が合っていたけれど、直接的な会話をすることはほとんどなく、彼がどういった人なのかも分からず仕舞いだ。
お見合いって、こんな感じでいいの……? それとも私に興味がないだけ?
頭を悩ませていると、黙り込んでいた彼がおもむろに口を開いた。
「……あの、この後緋真さんと二人でお話がしたいのですが」
「えっ」
突然の発言に、一瞬沈黙が訪れる。
しかしすぐに両親たちの笑い声で、和んだ空気が戻ってきた。
「いやぁ悪いね、今日は二人のための会なのに私たちばかり喋って。食事も終わりだから二人で出てきたらどうかな」
「そうよ。ここは庭園も綺麗だから、ね?」
お見合いに来た以上、話さないわけにはいかないだろう。
それでも、目の前の彼と二人きりになるのは妙に緊張してしまい、食後のコーヒーを啜るようにゆっくりと飲み干した。
◇
レストランを出てすぐのエレベーターでロビーの階まで降りると、案内板に沿ってホテル内の庭園に出た。
池のそばの整備された小道を、道順に沿って歩いていく。周りを見渡せば、秋に色めく木々と澄み渡る空のコントラストが清々しい。
そして半歩先には、私に歩幅を合わせる形で伊織さんが歩いており、その横顔を見つめた。
歩く姿まで品があって……絵に描いたように、美しい人。
食事中こそ大した会話はできなかったが、両親と会話する彼の喋り方や、食事の際の所作、私が発言をしている時に向けられる真っ直ぐな瞳――すべてが洗練されていて、目が離せなかった。
まさに釘付け状態。異性に対してこのような感覚に陥るのは、生まれて初めてのことだった。それもあって、二人きりになるとついぎこちなくなってしまう。もともと極端に恋愛経験が少ない私は、二十九歳にもなっても男性と話すことに慣れていないのだ。
せっかくだから何か話したほうが良いだろう。話題になるものを探して視線を彷徨わせていると、伊織さんがこちらを見た。
「少し、気が紛れましたか?」
「え?」
「先ほどは随分緊張されてたようなので、外の空気を吸ったほうが良いかと思いまして。逆に緊張させてしまっていたら申し訳ない」
「そんな……お気遣いありがとうございます」
やはり緊張は、彼にも伝わってしまっていたのだ。
気を使わせてしまったことに反省していると、伊織さんが緩やかに歩みを止めた。
「それで、簡潔に話しますが……今回の縁談は断ってもらっても構わないので」
「……と、言いますと」
「親同士の関係性を考えれば断りづらいと思います。ですが、あくまでプライベートなことなので、緋真さんが気を使う必要はないと先に伝えておきたくて」
伊織さんとしては、どういう気持ちなのだろうか。
そもそも自由恋愛が当たり前の今の時代に、お見合い結婚は珍しいのだ。こうして改めて伝えてくるということは、私に断って欲しいのかもしれない。
彼はきっと引く手あまただろうし、わざわざ私と結婚するメリットはない、か。
第一印象こそ惹かれるものがあったせいか、多少なりともショックを受けている自分に気付いて苦笑する。
どう答えるべきかわからず黙りこくっていると、私の返答の前に彼が言葉を重ねた。
「ただ、俺としては受けたいと思ってます。もし緋真さんがまた会いたいと思ってくれるのなら、嬉しいです」
「っ、本気で仰ってますか……?」
「嘘をつく必要が?」
「いえ……当たり前のことですが私たちはまだお互いのことをよく知りませんし、伊織さんと私では少々釣り合わないような気がしまして……」
「見合いですからね、お互いのことはこれから知っていけば良いかと。ちなみに、釣り合わないというのは」
私の発言がまるで理解できない様子。誰が見てもわかることだ。正真正銘エリートの彼と、不自由のない生活を送ってきてはいるが一般家庭で育ったごく普通の私。逆に釣り合うと言う人のほうが少ないだろうし、引け目すら感じてしまう。
「……立場と言いますか、私は特別秀でたものもありませんし」
この場で明け透けな物言いをするのも気が引けて、言葉を濁す。
伊織さんは、粗方の意味を汲み取ってくれたようだった。
「確かに肩書きだけで言えばそう感じるかもしれませんが、至って普通ですよ。現実的な話をすれば医師と言っても勤務医ですし、父の会社を継ぐほど贅沢はさせてあげられない」
「いえ、そんな――」
別に養ってもらおうなんて、思っているわけじゃない。
そうは言っても、私よりもずっと稼いでいるんだろうけれど。
「それに緋真さんだって料理のプロでしょう。分野は違くともお互い誇るべきところはありますよ」
「そう、ですが……」
「もちろん結婚において互いの肩書きを重視される方もいますから、それも含めて判断してもらえると。逆に判断材料として今のうちに聞いておきたいことがあれば、何でも答えますので」
淡々と事務的な発言からは、真意を読み取ることができない。
しかし、ただひとつ。この縁談に対して前向きであることだけは、ひしひしと伝わってきた。
「では、肩書きなどは一旦置いておいたとしても……伊織さんは私でよろしいんですか?」
「どういう意味で?」
「その、異性として……容姿とかも含めて……」
お見合いということで今日は特別めかし込んではいるが、普段の私はひどく地味だ。極端に露出を控えたカジュアルな服ばかり着て、女性らしさのカケラもない。
外見だけでいえばスタイルも顔立ちも作りが良いと言われることはあるものの、外から見えない“ある問題”が自信のない自分を作っている。そしてこの件については、彼にも事前に話す必要があると判断し、一呼吸おいた。
「……私、服の上からではわかりませんが、背中に大きな火傷の痕があるんです。小さい頃に事故で負ったみたいで」
「事故?」
「熱湯を被ったのが原因らしいのですが、あまりにも深い火傷だったから今も残っていて……」
背中の広範囲に広がる、痣のような痕と盛り上がった皮膚。物心つく頃には既にあったものであまり気にしてはいなかったが、思春期を迎えたころから次第にコンプレックスへと変わっていった。
揶揄されたり哀れみの目で見られたりすることが辛く、小中学生のときはプールにも入らなかったし、大人になってからは背中が見える服を着ないことを徹底しているうちに、お洒落からも遠ざかってしまった。
それは恋愛にも顕著に影響していて、大学生で初めてできた恋人と勇気を出して夜を共にした時、背中を見られて完全に“萎えられて”しまったのだ。ちなみにそこから彼氏はいない。
だからこそ、この痕を隠して縁談を進めることはできない。
そんな思いで、正直に打ち明けたのだが――
「……それで?」
伊織さんは、真顔で小首を傾げる。
「それでって……。気持ち悪くないですか? 結婚となれば、その、見ないわけにもいかないですし、わざわざコンプレックスのある相手を選ばなくても……」
って、何を言っているんだろう。
自ら口走ったデリケートな発言に、心の中で突っ込みを入れる。
それでも気になるのだ。実際に昔好きだった人に「気持ち悪い」と言われ、引かれてしまったのだから。
しかし私の心配をよそに、伊織さんはまったく気にすることなく小さく息をついた。
「どうでもいいですよ。そんなこと気にしません」
「そんなことって――」
「すみません、言い方が悪かった。仕事上、重度の熱傷を負った患者の治療もしますし、見慣れてると言っても過言ではないくらいで。どんなに目立つものでも、気持ち悪がったり引いたりしませんよ。もし医師でなかったとしても」
「っ……」
形成外科はあまり馴染みのない診療科ではあるが、主に身体の表面の異常や変形に対しての治療を行っているらしい。私自身も当時火傷を負った際に、形成外科にお世話になったのだとか。
伊織さんが言う通り、医師である彼にとっては私の火傷の痕など大したことはないのかもしれない。もっと言えば見慣れているし、結婚相手に求める条件に肌の綺麗さなんて入っていないのだろう。
彼としては何とはなしに答えたのだろうが、決して痕を見ることもせず「引いたりしない」と断言してくれたことが嬉しかった。本当に、彼だったら何も言わずに受け入れてくれそうな気すらしたのだから。
「逆に気になるなら、診せてもらえませんか。完全には治せるとは言い切れませんが、目立たなくすることはできるかもしれません」
「い、いえ。それは大丈夫です……。これまでたくさん治療はしてきたので」
二十年以上も残ってる痕なのだ。もう綺麗にできないことくらい、自分が一番よく分かっている。加えて、いくら伊織さんが医師であっても、彼に見られるのは気が引けたのだ。
「そうですか……もし気になったらいつでも。とにかく気にしないですよ。それ以外の容姿に関して言えば、緋真さんは美人だと思います」
「へっ?」
まさかそんなことを言われると思わず、間抜けな声が漏れる。伊織さんほど眉目秀麗な男性に言われたのだ。お世辞だとしても恐縮してしまう。
狼狽える私を見て、彼は小さく笑みをこぼした。
「……それから、これは個人的な話なのですが。職業柄わりと私生活は疎かになってしまうところがあって、食事管理をしてくれる女性がいると心強いなと」
「食事ですか……?」
「料理を仕事にされているくらいだから、お上手なんですよね。お仕事を続けたいとなれば無理にとは言いませんが、時間がある時は作ってくれたら助かります」
つい最近まで結婚願望もなければ、自分は結婚とは無縁の人間だと思っていたため、今後仕事を辞めるかなんて考えたことはなかったのに。彼の言葉が嬉しくて、咄嗟に頷いていた。
「は、はい。私でよければ毎日でも。……あっ」
返事をしたあとで、すぐ我に返る。これじゃあ既に縁談を受けたような答え方だ。
私の言葉を受け取った彼は、すこぶる穏やかな笑みを浮かべた。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
今日初めて見た優しく柔和な微笑みに、大きく胸が高鳴る。
その表情があまりに魅力的で、一瞬で心を奪われたのだった――