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恵
「美花の母の雪です。娘の事…………よろしくお願いします」
カウンター越しに、雪から頭を下げられた圭も、今一度お辞儀をすると、彼女の母に柔和な眼差しを向けられた。
「美花。良かったね」
「うっ…………うん……」
「ほら。せっかく二人揃って来たんだから、席に座りな?」
入り口の前で立ち尽くしている圭と美花が、雪に声を掛けられる。
圭が来店する時にいつも座っているカウンターの隅の席に、二人が並んで腰を下ろした。
「今日はご馳走するよ。いっぱい食べてね」
美花の母が和やかに言葉を残すと、厨房に向かい、料理を作り始めた。
料理が出てくるまで、顔をほんのりと染めらせながら無言でいる二人。
「二人とも、初々しいねぇ。見ているこっちが清々しくなっちゃう」
ご飯とアオサ海苔の味噌汁、肉じゃが、タコと水菜のマリネ、小松菜と油揚げの煮浸しをカウンターの上に乗せながら、雪が瞳に弧を描かせていた。
「お母さん、ありがとう。いただきます」
美花が手を合わせながら軽く会釈をして、味噌汁と箸に手を伸ばした。
「ありがとうございます。いただきます」
圭は神妙な面持ちをしつつ、美花に倣って同じ仕草をした後、茶碗と箸に手を運ばせた。
恋人の母親に見守られながらの食事は、どこか照れてしまって、くすぐったい。
だが彼は、美花の唯一の家族、雪に認められたような気がして、嬉しさがじんわりと込み上げていた。
思い返せば、圭は子どもの頃から家族揃って食事をした記憶が、皆無に等しい。
恋人の母が振る舞ってくれた温かい料理を、愛おしい女と一緒に食事をする嬉しさ。
常に、父の武から会社を継ぐプレッシャーで、強張っていた圭の心が、意識の奥から沁みわたるように絆されていく。
(家族って…………温かな存在……なんだな……)
親からの愛情をあまり知らずに生きてきた彼は、いたたまれなくなり、顔を逸らす。
味が染み込んだジャガイモを口にしながら、圭は鼻の奥がツンとするのを堪え、恋人の母の料理を噛み締めるのだった。
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