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恵
「かなチーに聴いてもらいたい曲があるんだ。現役ピアノ講師からのアドバイスが欲しい!」
圭と恋人同士になってから約一週間後、美花は奏と連絡を取り、交際報告も含めて、豊田にある奏の自宅マンションを訪れている。
「あんた、よくそんなに曲が作れるねぇ。マジですごいわ。で、私に聴いて欲しいって事は、ピアノソロの曲を作曲したの?」
「う〜ん…………何だっけ? 一台のピアノに二人で弾くやつ」
「ああ……連弾の事? って…………連弾の曲を作ったの!?」
奏が漆黒の瞳を丸くさせ、口元を手で覆いながら瞬きをさせている。
「うん。連弾っぽく聴こえるかどうか、かなチーの耳で確かめて欲しいっていうのかなぁ。私もピアノの連弾を聴いたのは、なみプーの結婚式の余興で、かなチーとなみプーが二人で弾いてた以来だから、それを思い出しながら打ち込みした感じ」
「分かった。じゃあ…………聴かせてくれる? 今日はある意味、特別レッスンね」
美花はスマートフォンをローテーブルに乗せ、オーディオファイルを読み込む。
奏がオーディオプレイヤーの電源を入れ、スマートフォンとワイヤレスで接続させると、再生ボタンをタップした。
♪秋風の歌 Compose@2005♪
美花の目の前で、奏が瞼を閉じながら腕組みをして聴いている。
今、ここにいるのは、『美花の親友・かなチー』ではなく、『ピアノ講師・葉山奏』だ。
(うわぁっ…………かなチーの表情…………厳しめ……)
時折、目尻をピクリと上げたかと思えば、眉間が微かに寄り、薄く皺が刻まれている。
約四分に渡る楽曲を聴き終えた奏が、人差し指を顎に触れながら、唸った。
「う〜ん…………ぶっちゃけると、中途半端だね」
「ハハハッ…………」
奏の直球意見に、美花が眉尻を下げながら苦笑する。
「中途半端っていうのは、ソロなのか、連弾なのか、どっちか分からないっていう意味ね。もっと細かい事を言うと……」
ソファーに腰を下ろしていた奏が、スンと姿勢を正し、美花を見据える。
「サビの伴奏部分は、私が思うに、上のパートの左手と、下のパートの右手が弾いている想定なんだろうけど、実際に演奏したら手がぶつかる所や、弾けない所もあると思う。それに」
ピアノ講師・葉山奏としての感想は、さらに続く。
「メロディを聴かせるためなんだろうけど、音が弱いし、動きが不明瞭かな。いっその事、二台ピアノにアレンジしたら、もっと音に広がりと厚みが増すような気がする」
「うわぁ……二台ピアノの曲なんてあるんだ……」
「うん、あるよ。けど、ラストがフェードアウトで終わるのは、DTMだからできる事だよね」
「おぉぅ…………さすがはかなチー。厳しくも温かなご意見と、ご清聴ありがとうございますっ」
美花は、手を合わせながら、親友にペコッと軽く頭を下げた。
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