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第4話:マスク回収者(ハンター)の存在
ユイナは駅前の雑踏の中に立っていた。
空は曇天。だが、その下では人々がいつも通りに歩き、笑い、マスクをつけて生きている。
だが、その“平和”の裏で、誰かが――誰かのマスクを奪っていた。
駅の裏手、人気のない立体駐車場。
そこに、異様な光が瞬いた。
重たい空気。鉄の匂い。コンクリートの壁に反響する破裂音。
ユイナがそっと階段を上がると、そこには本物の戦闘があった。
「動くな。次で砕く。」
声を発したのは、銀髪の青年だった。
左目に赤いラインが入った仮面。ジャケットと軽装の装甲服。
肩には砕けた仮面の破片がいくつも吊るされている。
彼の名はセイ。
街で噂される“マスク狩り”――通称《ハンター》の一人。
対する相手は、大柄な男。マスクは牙のようなデザインで、強化筋肉を思わせる装着スーツを纏っている。
両腕からは煙のようなエネルギーが放出され、周囲の床を焼いていた。
だが、セイは一歩も退かない。
彼の手元に出現したのは、“分裂式マスク”。
手の甲から左右に展開する双面型の仮面が、鋭い光を放ち始めた。
「フェイズ・スラッシュ」
一瞬で距離を詰め、セイの両腕がX字に交差。
その軌道をなぞるように、空間そのものが“切断”された。
対マスク者専用の物理斬撃――エネルギーを含んだ斬撃が、相手のマスクを正面から叩き割る。
破片が宙に舞い、大男が絶叫とともに崩れ落ちる。
静かに歩み寄ったセイは、回収コードを発動。
マスクの核が彼の胸元に吸収されると同時に、仮面が小型化して背中のホルダーに格納された。
ユイナは、気配を殺しながらその場を離れた。
あれが、“本物の回収者”――マスクハンター。
自分のように「目的のために集めている者」ではない。
あれは、すでに“技術”と“経験”で戦っている。
その夜、ユイナは帰宅しながら思っていた。
(こんな世界だったんだ。マスクを持つってことは――命を懸けること。)
だが、彼女の心は沈んではいなかった。
むしろ、かすかに燃えていた。
感情を失ったはずの彼女の胸に、確かに灯る熱。
自分は、まだこの先へ進めると。進まなければならないと。
そして、彼女の視線の先、ビルの壁に描かれた黒いマーク。
「M」の記号が、その夜から街に増え始めていた。