テラーノベル
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「こ…こんなバカなことがあるか」
戦場では、なお各所で激しい戦闘が続いていた。
だがガイロは、戦場中央からイージプ艦隊とアントンを追うように、
左翼艦隊を率いて離脱していた。
総司令官の退却。
その事実は、波紋のように残存艦隊へ広がっていく。
広大に広がりすぎた戦場では、誰も全体の戦況を把握できない。
「総司令はいずこに!」
「ガイロ将軍に連絡を!」
そんな叫びだけが海上を駆け巡り、各艦は次々と動揺し始める。
ライナーは隣のスピリタスへ視線を向けた。
「シャチトルが戦場を離脱したのか。」
「そのようです。」
「追うか。」
スピリタスは静かに首を横へ振った。
「……無駄でしょう。」
「今は、この戦場を制しきることです。」
ライナーは大きくうなずく。
「全軍へ伝令。敵艦隊を徹底的に包囲し、一隻たりとも逃がすな!」
アクチムの海戦はライナーの勝利に終わった。
だがアントンは七十隻の船を率い、包囲網を突破してイスカンダルへ帰還する。
敗れはした。
それでも主力を包囲網から脱出させるという目的だけは果たしていた。
「なんということだ!」
「女王陛下の御身を危険にさらすとは!」
港へ戻るなり、イモホテップは怒りをあらわにした。
ガイロは一歩前へ出た。
その瞬間、アントンが制した。
「私が命じたことだ。」
ガイロはなお言い募ろうとしたが、
アントンは首を振った。
「イモホテップの判断がなければ、我らはここへ戻れなかった。」
ガイロは唇を噛み、拳を握り締める。
イモホテップは静かに頭を下げた。
「まずは軍を立て直しましょう。」
「女王陛下もご無事です。」
「イスカンダルはまだ落ちておりません。」
イモホテップが立ち去ると、アントンはガイロへ目を向けた。
「我らは同じ船に乗っている。」
「イモホテップも、もう降りることはできん。」
ガイロはしばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。
イモホテップはシャチトルの旗艦を花々で飾り立て、
あたかも凱旋したかのように都へ入城した。
民衆の動揺を抑え、その混乱に乗じて蠢く反乱分子を容赦なく粛清する。
彼の、生き残りを懸けた戦いが始まった。
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一方、アントンは帰還した兵士たちを自ら迎え、一人ひとりをねぎらった。
そして惜しげもなく財宝を分け与え、軍の士気を繋ぎ止める。
なにより虎の子の陸軍は、その大半がなお健在だった。
数万の兵は、いつでも出陣できる状態にあった。
「で、いくらならこちらにつくと言っている。」
マエクスは交渉官へ尋ねた。
金額を聞くと、即座に言う。
「払え。」
「しかし、高すぎます。」
「構わん。」
「城を一つ落とすより安い。」
交渉官は深く頭を下げ、部屋を後にした。
アクチム海戦敗北の報は、イージプに従う属国へも大きな動揺を与えていた。
マエクスは、その一瞬の隙を逃さない。
「アグリへ使者を。」
「準備は整った。」
「そんな虫のいい話、飲めるか!」
ライナーの怒声が陣営へ響いた。
アンゴラ湾要塞から使者が来ていた。
「我らの給金と待遇を保証していただけるなら、要塞を明け渡します。」
その申し出だった。
「カニデスと運命を共にさせろ!」
ライナーは吐き捨てる。
しばらく沈黙が流れた。
アグリとスピリタスは互いに目を合わせる。
王の怒りが収まるのを待っていた。
やがてアグリが静かに口を開く。
「……買いましょう。」
「要塞を。」
「簡単に言うな!」
「これ以上、敵兵まで養えというのか!」
ライナーが立ち上がる。
その時、スピリタスが一通の書状を差し出した。
「王都より。」
「マエクスからです。」
ライナーは眉をひそめる。
封を切る。
そこに書かれていた言葉は、アグリの考えとまったく同じだった。
「王には王都へ戻っていただきます。」
「我らはそのままイージプへ進軍します。」
ライナーは息をのむ。
アグリは静かに続けた。
「南の国を攻め滅ぼします。」
「……マエクスも同意見です。」
規模が大きくなりすぎた内戦は、
その莫大な請求書を、イージプへ送りつけた。
ライナーは王都へ戻り、
やがて二通の返書を受け取る。
一通は、女王シャチトルから。
「変わらぬ友好を。」
もう一通は、義兄アントンから。
「変わらぬ友情を。」
ライナーは二通を机へ並べ、しばらく黙って見つめていた。
その言葉だけは、戦が始まる前と何一つ変わっていなかった。
ライナーは静かに筆を取った。
女王への返書には、
「アントンの引き渡しを。」
義兄への返書には、
「シャチトルの引き渡しを。」
筆を置いたライナーは、二通の書状へ静かに封をした。
それを見届けたマエクスは、小さくうなずく。
「これでよろしいでしょう。」
「和平の道は、相手が閉ざします。」
コメント
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うわあっ第43話、読み終えたよ…!😭✨ 戦場の混乱と、ライナーが2通の返書に同じような返事を書くラスト、めちゃくちゃ胸に来た…「変わらぬ友好」「変わらぬ友情」って言葉が、むしろ決別を際立たせてて切なすぎる…!マエクスの「和平の道は相手が閉ざす」ってセリフも、戦略家の冷徹さと覚悟がにじんでて痺れたよ…!次が気になる展開すぎる…!🔥