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【第2話:新人研修は爆破予告とともに】
1. 20万円の使い道と深夜のファミリーレストラン
深夜2時半。国道沿いの24時間営業ファミレスのドリンクバー前で、佐藤(42歳)は氷をグラスに叩き込んでいた。
「佐藤さん、メロンソーダとカルピス混ぜるとうまいっすよ」
「俺は黒烏ランジアイスティーだ。胃がもたれてんだよ」
ボックス席に戻ると、春日(19歳)が山盛りの山かけマグロ丼とフライドポテトを貪っていた。テーブルの上には、先ほど協会から振り込まれた「迷惑料込み20万円」の振込完了画面を表示したスマホが置かれている。
「で、手取り20万。折半で10万ずつだ」
佐藤が千円札の束をテーブルに置くと、春日は素早くそれを奪い去った。
「あざす! これで欲しかった限定スニーカー買えるっす」
「お前な、少しは貯金とか……いや、いい。お前の人生だ」
「それより佐藤さん、さっきの『協会のシステムエラー』って話、本当だと思います?」
春日がポテトをケチャップに浸しながら、急に真面目な顔(といっても眉を少しひそめた程度)になった。
「どういう意味だ?」
「だって、システムエラーで特別清掃員が出動して、タイミングよくキャンセルが入るなんて都合良すぎでしょ。あの『黒傘の女』、本気で俺たちを殺しに来てましたよ」
「……考えたくもないね」
佐藤はアイスティーを啜り、溜息をついた。
裏社会の清掃員(殺し屋)として15年生き延びてきた佐藤の intuition(直感)も、同じ警鐘を鳴らしていた。
協会は「管理」を徹底する組織だ。ミスを犯した人間は消す。だが、自らのシステムエラーで末端の清掃員に被害が出そうになったからといって、5万円の迷惑料を払って手打ちにするような温情のある組織ではない。
(何かを隠している……あるいは、俺たちが『見てはいけないもの』に触れたか)
その時、佐藤のスマホがブブブと震えた。画面には【協会・依頼斡旋部】。
「……はい、佐藤です」
『佐藤様、遅くに失礼いたします。第2話の……あ、失礼、本日の2件目の案件のご案内です』
オペレーターの声は相変わらず淡々としている。
「ちょっと待て、俺たちはさっき『残業』を終えたばかりだ。今夜はもう上がらせてもらう」
『今回の案件は特別指名となっております。報酬は一頭につき50万円。さらに、協会が指定する「新人」のOJT(職場体験)を兼ねていただきます』
「50万……!?」
春日が耳をそばだて、目を丸くした。
「おい、ちょっと待て。50万ってことは、相当なヤマだぞ。相手は誰だ?」
『ターゲットは、都内のITベンチャー「ネクスト・コア」のCEO、城ヶ崎(38歳)。罪状は「闇名簿の売買および協会の内部情報の外部流出」。……なお、ターゲットは現在、自社のオフィスビル最上階に籠城しています』
「籠城……? 警備ガチガチじゃねえか」
『ええ。そのため、爆発物のプロである新人清掃員を同行させます。現地で合流してください』
通話が切れると、佐藤は頭を抱えた。
「50万のヤマに、爆弾魔の新人……。嫌な予感しかしない」
2. 爆弾魔の女子高生(?)とセキュリティタワー
深夜3時15分。都心の一等地、40階建ての高層オフィスビル「ネクスト・コア・タワー」の裏口。
雨は上がり、湿った夜風が吹き抜ける中、軽トラの横に立っていた佐藤と春日の前に、一人の人物が現れた。
大きなリュックサックを背負い、ダボダボのパーカーを着た小柄な少女。ヘッドホンを首にかけ、チューインガムを膨らませている。どう見ても10代半ばの女子高生だ。
「……君が、協会の指定した『新人』?」佐藤が尋ねる。
少女はガムをパチン!と鳴らし、ジト目で二人を見上げた。
「ちーす。コードネーム『ニトロ』。爆破担当。おじさんたちが『清掃員』の佐藤と春日?」
「おじさんって俺のことか? 俺はまだ42だ」
「立派なおじさんじゃん。てか、軽トラ? 超ウケる。ダサ」
ニトロと呼ばれた少女は、軽トラを蹴飛ばすと、リュックから手のひらサイズの黒いボックスを取り出した。
「で、作戦は? あたし的には、1階のエントランスからC4(プラスチック爆薬)でドカンと行って、スプリンクラー作動させて混乱に乗じて登るのが一番エモいと思うんだけど」
「ダメに決まってんだろ!!」佐藤が即座に突っ込んだ。「俺たちのモットーは『静かに、目立たず、病死か事故死に見せかける』だ! 爆破なんてしたら翌朝のニュースで全国放送だぞ!」
春日がニトロの隣に並び、スマホを見せつける。
「そうそう。時代は『隠密(ステルス)』だから。映えを狙うなら、静かに殺してTikTokに流さないのがプロっすよ」
「お前が言うな」佐藤が冷ややかに言い放つ。
ニトロはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ちぇっ、堅苦しいなぁ。じゃあどうすんの? あのビル、生体認証とAI防犯カメラで固められてて、カードキーなしじゃエレベーターも動かないよ?」
「ふふん、甘いっすねニトロちゃん」
春日がポケットから一枚のICカードを取り出し、不敵に笑った。
「さっきファミレスで『ネクスト・コア社』の清掃員のIDデータをダークウェブからハッキングして、この偽造カードに書き込んでおきました。これがあれば、非常用エレベーターで39階まで無体面で行けます」
佐藤は驚いて春日を見た。「お前……本当にそういう無駄な才能だけはあるな」
「無駄じゃないっす、効率化(タイパ)っす」
ニトロは少し感心したように春日を見た。
「へえ、Z世代にしてはやるじゃん。じゃ、潜入開始ね」
3. 39階の罠と「消えたターゲット」
3人はビル裏手の搬入口から侵入し、春日の偽造IDを使って非常用エレベーターに乗り込んだ。
がたがたと揺れながら上昇するエレベーター内。佐藤は自作スタンガンの予備(急速充電タイプ)を握り直し、息を整える。
「いいか、二人とも。39階に着いたら、ターゲットの居る40階(社長室)へは階段で登る。城ヶ崎を心臓麻痺に見せかけて処理したら、すぐに撤収だ。余計な破壊活動は一切禁止」
「はーい」(ニトロ)
「了解っす」(春日)
ピンポン♪
エレベーターが39階に到着し、ドアが開いた。
しかし、そこに広がっていたのは暗闇ではなく、真っ赤な警告灯と大音量のサイレンだった。
『警報。不審者の侵入を感知しました。全ブロックをロックダウンします』
「な、なんだ!?」佐藤が叫ぶ。
「ヤバ、春日兄ちゃんの偽造ID、ハニーポット(罠データ)だったじゃん!」ニトロが笑う。
「嘘でしょ!? ダークウェブの評価『★5』だったのに!」春日が頭を抱える。
直後、通路の奥から重厚なシャッターが次々と下りてき始めた。同時に、スプリンクラーが作動し、激しい水滴が3人に降り注ぐ。
「閉じ込められるぞ! 走れ!!」
佐藤の叫びとともに、3人は降りてくるシャッターの隙間をくぐり抜け、社長室へと続く階段を目指して猛ダッシュした。
水浸しの廊下を走り抜け、40階の社長室の重厚なドアの前へたどり着く。
佐藤はドアノブを回すが、ロックがかかっている。
「ニトロ、ドアの鍵を……」
「任せて!」
ニトロはリュックから粘土状の物体を取り出し、ドアの鍵穴に押し込むと、小さな信管を刺した。
「耳塞いでね〜、3、2、1」
チュドン!!
控えめだが鋭い破裂音とともに、社長室のドアノブが吹き飛んだ。
佐藤が拳銃(※一応、緊急用に持っているが打ったことはない麻酔銃)を構えて部屋へ踏み込む。
「動くな! 協会からの清掃員だ——!」
しかし、豪華な革張りのソファと大型デスクが並ぶ社長室は、完全に無人だった。
デスクの上には、温かいコーヒーの入ったマグカップと、起動したままのパソコン。そして——デスクの真ん中に、ポツンとひとつの「小型タイマー」が置かれていた。
カウントダウンの表示は、【00:15】。
15秒。
「……ねえ、佐藤さん」春日の声が震える。
「……ニトロ、あれは何だ?」
ニトロがタイマーの横にある装置を見て、顔色を変えた。
「マジ!? 超高濃度C4と熱圧爆弾の複合型……! このフロア全体を吹き飛ばす規模の時限爆弾だよ!!」
「ターゲットが俺たちを誘い込んで、ビルごと爆破しようとしてんだよ!! 逃げるぞ!!!」
佐藤の悲鳴が、サイレンの響く高層ビルにこだました。
(第2話・完 / 第3話へ続く)
コメント
1件
読み終わりました!いやー、面白かったです。まず軽トラを「ダサい」って蹴飛ばすニトロちゃんの登場シーン、最高でしたね。C4でドカンが「エモい」って感性、Z世代すぎる(笑)。で、偽造IDがハニーポットだったってオチには笑いました。★5評価のダークウェブを信じた春日の無念…。最後の15秒の時限爆弾で終わる引きも上手い。次どうなるのか気になって仕方ないです!
青い子
69
東雲 琴葉
2
くろぬか
3,233