テラーノベル
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【第3話:カウントダウンと決断】
1. 残り15秒のパニック
「15秒!? うそでしょ! 逃げる時間ないじゃん!!」
ニトロの悲鳴が社長室に響き渡る。
タイマーの赤い数字は無情にも刻一刻と刻まれていた。
【00:12】
【00:11】
「エレベーターまで戻るのは無理だ! 非常階段もシャッターで塞がれてる!」
春日がスマホを連打しながら叫ぶが、ハッキングでドアを解除する時間など残されていない。
(くそっ……! ここまで来て全滅か!?)
佐藤は周囲を見回した。
広大な社長室、重厚なデスク、巨大な水槽、そして——壁一面に張られた強化ガラスの窓。その向こうには、夜の東京の街並みが広がっている。
「ニトロ! 爆弾の解体は無理か!?」
「無理無理無理! 複合型だよ!? コード切ったら即ドカンだよ!!」
「……春日! 壁の防犯用消火器を取れ!」
「えっ、消火器っすか!?」
【00:08】
「窓を割る!!」
「ここ40階っすよ! 外に飛び降りたらどっちにしろ死にますって!!」
「死なねえ方法を今から作るんだよ!! ニトロ、リュックの中にC4以外の爆薬はあるか!?」
「音響弾(フラッシュバン)なら2個ある!!」
「それを窓際に投げろ!! 衝撃で強化ガラスにヒビを入れる!」
【00:05】
ニトロは迷わずリュックから音響弾を取り出し、窓際へ投げつけた。
パンッ! パンッ!!
甲高い破裂音とともに、巨大な強化ガラスに蜘蛛の巣状のヒビが入る。
「春日、消火器で突っ込め!!」
「うおおおああっ!! タイパ悪すぎるー!!」
春日が渾身の力で消火器をガラスへ叩きつける。ヒビの入っていた強化ガラスが、音を立てて粉々に砕け散った。激しい夜風が室内に吹き込んでくる。
【00:02】
「全員、デスクの下の『あのカーテン』を掴め!!」
佐藤は社長室の窓際に飾られていた、イベント用の巨大な横断幕(厚手のナイロン製)を引きちぎり、二人に押し付けた。
「パラシュート代わりだ! 飛び降りるぞ!!」
「無茶苦茶すぎるー!!」
【00:00】
ドドドドドォォォン!!!!
背後で爆発が弾けた。凄まじい熱風と爆風が社長室を飲み込む。
佐藤、春日、ニトロの3人は、爆風に押し出されるようにして、40階の窓から深夜の空へと飛び出した。
2. 時速100キロの空中ブランコ
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
夜空に散らばるガラスの破片と、3人の悲鳴。
直後、激しい下降気流の中で佐藤が叫ぶ。
「布を開け! 端をしっかり握れ!!」
3人はしがみついていた横断幕を必死で広げた。
バサバサバサッ! と音を立ててナイロン布が風を孕む。完全なパラシュートとはいかないものの、凄まじい空気抵抗が生まれ、落ちていく速度がわずかに殺された。
「佐藤さん! 下、隣のビルの屋上っす!!」
春日の叫んだ先には、隣に建つ20階建ての商業ビルの屋上(給水塔と大型の看板が設置されている)が迫っていた。
「着地姿勢を取れ! 転がれ!!」
バシャーン!!!
3人は横断幕を抱えたまま、商業ビル屋上に設置されていた大型のビニール製プール(イベント用の展示物)へダイブした。
盛大な水柱が上がり、夜の屋上に水がぶちまけられる。
「……ハッ……ガハッ……!」
水の中から真っ先に顔を出したのは佐藤だった。全身濡れ鼠になりながら、空を見上げる。
隣の「ネクスト・コア・タワー」の40階部分から、黒煙と炎が噴き出しているのが見えた。
「……生きてるか……?」
「……ゴホッ! ゲホッ! ……なんとか……」
続いて春日が水面から顔を出し、プールにぶかぶかと浮かんだ。
「……ウケる。マジで生き残ったんだけど……」
ニトロはプールの縁に肘をかけ、呆然と空を見上げていた。ヘッドホンはどこかへ吹き飛んでいたが、怪我はないようだ。
3. 黒幕の正体と、終わらない残業
屋上に倒れ込み、肩で息をする3人。
「……佐藤さん」
春日が濡れたスマホを持ち上げた。防水機能のおかげで、まだ画面は生きている。
「さっきの爆発の直前、ターゲットの城ヶ崎のSNSが更新されてたんすけど」
「なんだと?」
スマホの画面には、プライベートジェットの機内でシャンパン掲げる男の画像と、ひとつの投稿が表示されていた。
『協会の清掃員ども、爆破処理お疲れ様。俺の偽データに釣られてくれて助かったよ。これで俺は死亡したことになり、追っ手から逃れられる』
佐藤は目をつむり、天を仰いだ。
「……ハメられたな。城ヶ崎は自分が殺されたと見せかけるために、最初から俺たちを呼び出して爆破に巻き込むつもりだったんだ」
「待って」ニトロが立ち上がった。「ってことは、あたしたちの報酬50万は?」
「ターゲットが死んでない以上、1円も出ねえよ」佐藤は吐き捨てるように言った。
「えーっ!? あたしC4と音響弾無駄にしたんだけど! 損害賠償請求する!!」
「俺だって限定スニーカーが遠のいたっすよ! 許せないっすね城ヶ崎……!」
春日とニトロが不満を爆発させる中、佐藤のポケットで泥まみれのスマホが振動した。
画面には【協会・幹部】。
佐藤は深いため息をつき、通話ボタンを押した。
「……佐藤だ」
『佐藤君、無事だったか。城ヶ崎の手口にしてやられたな』
聞こえてきたのは、いつものオペレーターではなく、重厚な老人の声だった。
「……幹部自らの電話か。ターゲットには逃げられた。俺たちの負けだ」
『いや、そうでもない。城ヶ崎のプライベートジェットは、高飛びのために成田のプライベートポッドに待機している。離陸まであと40分だ』
「……は?」
『城ヶ崎は君たちが死んだと思っている。完全な油断だ。……これより、緊急指名依頼を発令する。ターゲット・城ヶ崎の完全消去。報酬は300万だ。やるかね?』
佐藤は隣を見た。
濡れた服を絞りながら怒りに燃える春日と、リュックから残りの予備爆薬を取り出して不敵に笑うニトロ。
「……春日、車は無事か?」
「下の駐車場に停めてあるんで無傷っすよ。ガソリンも満タンっす」
「ニトロ、成田まで40分で着く爆弾仕掛けられるか?」
「あたしの特製ニトロエンジン使えば、あの軽トラでも200キロ出せるよ?」
佐藤は口元を緩め、スマホに向かって言った。
「了解だ。……ただし、残業代と深夜手当、きっちり乗せろよ」
3人は雨上がりの夜の街へ向かって走り出した。
うだつの上がらないベテラン、生意気なZ世代、そして危険な爆弾魔。歪なトリオの「終わらない夜」は、ここから本番を迎える。
(第3話・完 / 第1期・完)
青い子
69
東雲 琴葉
2
くろぬか
3,233
コメント
1件
いやあ、第3話、めちゃくちゃカッコよかったですね!40階からの横断幕パラシュートで脱出するシーン、完全に映画のワンシーンみたいで息を呑みました。特に「消火器で窓を割れ」→「フラッシュバンでヒビを入れる」連携プレーが最高にクール。3人のキャラの違いが光ってて、ニトロの「無駄にしたC4の損害賠償請求」と春日と佐藤の掛け合いも笑えた。城ヶ崎に完全にやられたと思ったら、40分で成田まで追う展開に「おおっ!」と声が出ました。第1期完ってことで、続きが待ち遠しいです!