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「星埜ー勉強めんどい。ずる休みしようぜ」
「ずる休みって明言するな。つか、ちゃんと授業ぐらい受けろ。寝てて、ずる休みも何もないだろう」
お堅い。と、朔蒔は馬鹿にするようにいうと、俺の椅子をぐいぐいと引っ張る。俺は、机に捕まって動かないようにと抵抗するが、その机さえもずるずると引きずられていってしまう。それを、クラスメイト達は、止める術もない、といった感じで傍観している。
まあ、それはそうだろう。何て言ったって、琥珀朔蒔が、一番このクラスで頼りにされている……(と自分で言うのも何だし、そう思っているというよりかは、そう思われている……いわれている)俺に突っかかってきているのだから。他の生徒に朔蒔が絡んだら、俺が止めるが、俺が絡まれたら誰もとめられないのだ。
だから、傍観。それが、一番最善なのだ。
「おい、床に傷がつくからやめろ」
「だったら、星埜が抵抗しなきゃいい話じゃん。ねー星埜俺とずる休みして、保健室行こーよー」
「保健室って具合悪いのかよ」
「うわっ、鈍感。俺と星埜で保健室といえば、あれしかないじゃん」
「あれって……うわ、だから、そういうのやめろって」
「あ、意識した? 分かった? じゃあ、決まりじゃん。ね、星埜保健室~」
このやりとりが、ぐだぐだと何週間も続いている。季節は巡って梅雨になった。
朔蒔は、俺が学校を休まないから(という言い方は普通なら可笑しいのだが)、毎日律儀に来てるし、授業も寝ているとは言え一応は出席している。数週間も経てば、俺への興味は薄れる物だと思っていたが、そんなことは全くなくて、寧ろ、もっと彼奴の興味を引く存在になってしまったのかも知れない。どれだけ、絡んでも無視されない、面白い奴。と彼奴の中で認識しているのかもと。
それに、あれからも朔蒔に強引に襲われては犯されているし……それが、当たり前になりつつある。皮肉なことに、最悪なことに。
それでも、俺が朔蒔を振りほどけないのが原因であり、彼を拒めない俺もまた、朔蒔が絡んでくるという日常が当たり前になりつつあるのかも知れない。
朔蒔のテンションとは真逆の空模様。明日は晴れるといっているが、今は分厚い雲に覆われていて太陽なんか出てくる気配はない。それはもうお金のかかっている進学校であるからか、梅雨の湿気に対しても耐性があって教室中がじめじめするとか、廊下が滑りやすいとかはないのがありがたい。だが、毎日のように雨が降っている物だから、何というか、気分は上がらない。
朔蒔を除いて。
「なーなー、星埜~」
「あーもう、鬱陶しいな。お前は蚊か!?蚊取り線香でも焚いてやろうか!?」
「え、俺、蚊と同等なの?星埜酷くない?」
珍しく、驚いた表情でいうので、調子が狂う。
でも、実際、蚊見たいに、鬱陶しい。叩いたと思っても、叩けていないみたいな……そんな感覚で、本当に嫌になる。
そして、今日もいつも通り朔蒔は、俺を無理やり保健室に連れ込もうとしていた。
俺の腕を引っ張って、ずるずると引きずりながら、階段を下りていく。このままだと、朔蒔と本気でずる休みして保健室でセックスする事になってしまう。
「やめろ、馬鹿力。次の授業始まるだろうが」
「大丈夫だって。今日は、星埜の大好きな小テストもないし~1時間休んだところで、星埜の学力ならカバーできるだろ」
「そういう問題じゃないんだって。おい、こら、朔蒔、聞け!」
「聞えませ~ん」
「うっわ、ウザ」
いつもの事。そうやって、流せない事だってある。ずる休みだけはしたくない。それも、休む理由がせ……するからとか、考えられない。
朔蒔の脳を一度覗いて、どんな風になってるのか見たいぐらいだ。いや、矢っ張り見たくない。
そう思いながら、どう切り抜けようかと思った時、朔蒔の足がピタリと止った。俺は、いきなり止られたため、朔蒔の背中に鼻をぶつけてしまう。
「授業始まるんだけど。何処に行くの」
「お邪魔虫参上~」
「か、楓音」
そこに現われたのは、俺の癒やし、楓音だった。彼は、頬を膨らませて、通せんぼうと両手を横に広げていた。
「星埜くん、嫌がってるし。保健室なら1人でいきなよ」
「星埜も用事があるからいくんだって、邪魔すんなよ。お邪魔虫」
「お邪魔虫じゃないし、楓音だし」
朔蒔にとって、俺は特別かも知れないが、朔蒔にとって楓音はお邪魔虫としか思っていないようだ。
俺の友達に対して、お邪魔虫なんて言い方はして欲しくないし、未だに俺の中の優先順位は楓音>朔蒔だ。朔蒔とは成り行き、流されこうなっているだけで、俺は別に一緒にいたいとは思っていない。ただ、此奴の機嫌を損ねたらどうなるか分からない、また暴力に走るんじゃないかという不安要素があるから一緒にいるだけで。
(俺にとって朔蒔は……)
「いいから、教室戻る! 前に、星埜くんいってたじゃん。一緒に進級したいって。僕は、別に一緒じゃなくても良いけど、星埜くんの願いは叶えてあげたいと思ってるの。僕は、星埜くんの友達だから」
「ふーん、友達ねえ」
と、朔蒔は見下すように呟くと、俺の方を見た。
お前はどう思ってるの? と、問うような目に、俺はピクリと眉が動くのを感じていた。