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どう思ってる? そんなの、大切な友達に思っている。
それ以上でもそれ以下でもない。
そう、はっきり言ってやれば良いのに、何故か口が開かなかった。以前、楓音に、恋人候補に入れて欲しい、とか言われたことが原因だろうか。
目の前では、楓音が、答えを出さない俺に不安そうな瞳を向けている。そんなかおをさせたくないのに、と俺は首を横に振った。
「友達だ。大切な友達」
「じゃあ、俺は?」
「は?お前?」
間髪入れずに次の質問を聞いてくるあたり、初めからそれが目的だっただろうと、俺は朔蒔を睨み付けた。朔蒔の手は俺の腕を握ったまま。返答次第で、折るぞという脅しだろうか。
さすがに、腕1本折られるのは嫌だ。こんな質問で。
でも、朔蒔にとっては、この質問は大きな意味があるようにも思えた。最速はしないが、その目がちゃんと答えろよ。といっているようにも思えてしまう。
(俺にとって朔蒔は……)
先ほども考えたことだ。
俺にとって朔蒔とは何だと。友達でも無いような気がする。友達とはセックスしないだろうし、かといって恋人では無い気がする。クラスメイト……悪友……どれもしっくりこないような気がした。言葉を探せば探すほど、違うような気がして、俺達の関係に名前なんて付けられないんじゃないかとすら思った。
それとも、まだ俺は朔蒔のことをどう思っているか分からないかも知れないと。
「星埜?」
「じゃあ、お前は俺の事どう思ってるんだよ」
こうなったら、質問返しをしてやる。と、俺ばかり質問されるのは笏なので、そう返せば、朔蒔は簡単だといわんばかりに、口元を歪めた。それはもう、綺麗な三日月型に。
「運命」
「は?」
「だから、俺とお前は運命だって。俺と星埜は運命って関係」
「いや、それ関係じゃないだろう」
「じゃあ、どんな名前がつくんだよ。友人でもなければ、恋人でもないし?ただのクラスメイトって訳じゃないだろ?」
朔蒔のいうとおりだ。
そこは、頷けてしまった。朔蒔もそう認識しているのだと、自分の認識はズレていなかったのだと分かった。だが、分かったところで何だ。
(運命って、何だよ。それは、俺達を表す関係じゃないだろう)
運命なんて大げさな。そんな曖昧な関係で良いのかと。いいや、運命の時点で曖昧ではないのだろうが、関係性を聞かれて運命と答える奴は初めて見た。
けど、本当にしゃくに障るが、その通りな気がした。
(運命……しっくりくるな)
言い返す余地もない。俺も、そうかも知れないと、頷いてしまいそうになった。それを察してか、朔蒔は「運命、運命だよな!」と肩を組んでくる。ずしりと体重がかかって息苦しい。嬉しそうに笑って、運命、運命、叫ばれて、こっちはどんなかおをすれば良いのか分からなかった。いや、反応するだけ無駄かも知れないが。
(そんな、軽い言葉じゃないだろ……運命なんて)
お前にとって運命って、そこら辺に落ちてる何か触り心地の良い丸い石みたいな物なのかと、ツッコミを入れたくなった。見つけようと思えば、一定の確率で見つかってしまう物みたいな。そんな風に捉えられてしまう。俺はそんな風に、朔蒔のことを見たことは無いし、俺が頷いた『運命』という関係は、もっと重くて、全神経にびりびりって電流が走るようなそんな物で……
(つか、重い……!)
「朔蒔、おも……重い……」
思わず、そう呟けば、朔蒔は素直に従った。
そうしてやっと解放されたと思ったら、朔蒔が今度は楓音の方を向いた。
「つーことで、お前のはいる隙間はねェの。お邪魔虫」
「だから、お邪魔虫じゃないし……でも、僕は」
と、楓音はまだ負けていないというように俺と朔蒔の方を見る。
「僕の方が、星埜くんの事好きだもん!」
そう、楓音は顔を真っ赤にして叫んだ。
好きだもん……好きだもん……と声が廊下にこだまする。
俺も朔蒔も、いきなりのカミングアウトというか、告白に言葉を失っていた。そして、互いの顔を見合わせた後に、何故か息を切らしている楓音を見る。
(か、楓音……)
嬉しいような、恥ずかしいような気持ちで一杯だった。俺も、顔が赤くなっているんじゃ無いかと思って、顔に手を当てれば、その隙を突いて朔蒔が楓音の方へ歩いて行く。まさか、殴るんじゃと手を伸ばしたが、その心配は無かった。
――――「その心配」はだが。
「はァ?何言ってんの?俺の方が、星埜のこと『大』好きなんだけど?」
(は?いや、待て……張り合うのそこじゃねえだろ)
朔蒔の真剣な顔、そして、楓音の真剣な表情を見て、俺が割って入る気は無いと俺は、この時思ってしまった。
凄く恥ずかしくて、もう少しで次の授業のチャイムが鳴るというのに、誰もいない廊下で愛の告白合戦なんて、俺は聞いていないのだ。やめて欲しい。
そんな願いは叶いそうになく、2人は、バチバチに視線を向けて、一歩も譲らないというようにお互いを睨み付けていた。