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「いない……?」
「その子らだけ?」
「まさか、さらわれたのではあるまいな」
新生『アノーミア』連邦、マシリア―――
かつてハイ・ローキュストの大群の防衛最前線と
なっていた町に、公都『ヤマト』へ孤児たちを
迎えるためにやって来たのだが、
五才から十才ほどの子供たちが数名、行方不明に
なっていると聞かされた。
「も、申し訳ありません」
「私たちがついていながら……」
中性的な顔立ちの、淡いパープルの短髪を持つ
青年と、
その横にいた、真っ赤な長髪と燃えるような
赤い瞳を持つ女性が、夫婦のようにそろって
頭を下げる。
すでにクローザーさんとナッシュさん、
それにミヌエート様は自兵を率いて帰還した
らしいが……
それでもエンレイン王子様の護衛の元、
百単位の兵は残っている。
「拉致・誘拐は考えられるけど……
エンレイン王子様がいる中でやるかなあ」
私が頭をかきながら、私見を述べると、
「ヒミコ様だっているんだしね」
「防衛戦での活躍を知っておれば―――
自殺行為以外の何物でもあるまい」
アジアンチックな黒髪セミロングの妻と、
長身の黒髪黒目だが、西洋人がコスプレでも
したかのような外見の妻が、互いに顔を
見合わせる。
そこへ少年・少女の二人組が来て、
「す、すいません。
もしかしたら、ですけど」
「多分あの子たち―――
お墓に行ったんじゃないかと」
「……誰?」
私の疑問にヒミコ様が、
「おお、この子たちは―――」
そこで、彼らの話を詳しく聞く事になった。
「僕はレルクと言います。
この町の孤児院で育って、そのまま孤児院の
職員になりました」
「私はルーナです。
レルクと同じ、この孤児院で育って職員に」
二人とも十六才だというが……
その外見はまだ中学生程度にしか見えない。
茶色の短髪に、少し頬がやせている感じの少年が
レルク君で、
ルーナさんの方はボーイッシュというか、
髪はブロンドだが首までの長さのショートで、
ソバカスが目立つ。
あと目つきがちょっとキツいような……
気弱そうなレルク君とは対照的だ。
「お二人とも、孤児院の職員という事でしたが……
その、若過ぎるような?
それに以前、他の職員の方々もいらっしゃった
ような気がするのですが」
その質問に、二人は目を伏せるようにして、
「去年までは、院長先生がいらっしゃったの
ですが……
病気で死んでしまって。
ここの職員は、院長先生だけでしたから」
「だから私たちが職員になって引き継ぎました。
あと多分、以前見た職員の方々というのは、
時々孤児院を手伝ってくださる方がいるので、
その人たちの事ではないかと」
こちらの勘違いだという事を、言葉を選んで
伝えてくる。
しかしまた重い事情だなあ……
「話を元に戻しますが―――
子供たちはお墓参りに行ったとの事ですが、
それはどこに?」
女性と見紛うような細面と長髪の薬師が、
優しく彼らにたずねる。
今回は『乗客箱』『病院箱』両方を使って
子供たちを移送するため、パック夫妻にも
来てもらっていた。
「そういう事情ならいくらでも待ちますが……
そこは安全なのでしょうか」
夫と同じかそれより白いロングの銀髪を持つ、
キャリアウーマンといった感じの妻が、
屈んで彼らと視線を合わせる。
「町の外、北側に少し離れた場所では
ありますけど―――」
「で、でもレルク。
そういえば、ちょっと時間がかかり過ぎて
いるような気もするんだけど」
彼女の方から不安そうになるのは意外だが、
情報は確認しておかなければ。
「その子たちがいなくなって―――
どれくらい時間が経ってますか?」
レルク君とルーナさんは顔を見合わせ、
「確か、ドラゴン様のお迎えが来てから
すぐいなくなりましたから……」
「急いでお墓参りに行ったとすると」
この町に到着してから、支援用の物資やら何やら
運んで―――
エンレイン王子様や町の責任者と話し……
一時間くらいか?
「場所は北側ですね?
ドラゴンならどんな脅威も対処出来ます。
一応、確認してきますので―――
あなた方は他の子供たちを見ていてください」
そして私は妻二人に振り返ると、
「りょー!」
「心得ておる!」
「ピュ!」
なぜかラッチも元気よく答える。
いや君はお願いだから留守番してて。
今度はパック夫妻の方へ視線を送り、
「パックさんとシャンタルさんも、
同行お願いします」
「治療が必要な可能性もありますしね」
「それでは、すぐに」
ドラゴンの二人は元の姿に戻り、
翼を広げると、
「ヒミコ殿。
ラッチを頼む」
「レムちゃんもお願いします。
町の防衛も……!」
こうして、私とメルはアルテリーゼに、
パックさんはシャンタルさんに乗り―――
町の北側へ飛び立った。
「墓は―――」
「アレじゃないですか、アルテリーゼ」
町から飛行して一分もしないうちに、
目的地らしき場所が見えて来た。
この世界―――
人が住めるように開拓されたところ以外は、
基本的に大自然、
逆に言えば、人が手を入れた場所はすぐに
わかる。
町の北側、五百メートルほど離れた場所に
『それ』はあった。
「子供たちの姿は……」
「待って、シン。
あそこにいるのは」
メルの言葉に目を凝らすと、子供たちが
数人、身を寄せて固まっているのが見えた。
そしてその側で、土砂が巻き上げられ―――
「……何だ!?」
異変があった場所に視線を移すと、そこには
地球でいうところのアルマジロのような生物の
姿があった。
しかし、その大きさたるや―――
体高だけでも二メートル近くはあるだろう。
まるで戦車だ。
「鎧モグラか!」
「私たちが相手してもいいですが……!」
確認するように、ドラゴンの二人が私の方へ
首を向ける。
「子供たちがおりますし―――
私が行きましょう。
アルテリーゼ、近場へ下ろしてくれ」
「わかったぞ!」
そのまま急降下し、私とメルが着地すると、
アーマード・モールは再び地面に潜ったのか
姿が見えなくなった。
「では、我は上で待機する」
それを確認すると、ドラゴンの妻はまた
上空へと羽ばたく。
彼女がいると相手に逃げられるか、
戦いになった場合、被害がかなりの範囲に
及ぶ可能性があるからだ。
この世界でもトップクラスの強さを誇るドラゴンの
扱いというのは、意外と難しいのである。
それに今後の事もある。
今のうちに子供たちを助けて引き上げる事は
可能だろうが、それだと脅威が残ったままだ。
ここでカタをつけておくに、越したことはない。
「んじゃーシン、頼むよ。
万一の時は私がぶっ飛ばすから」
「うん、その時は頼む」
メルが片腕をグルグルと回して臨戦態勢になる。
すると―――
「!」
自分たちから距離にして五メートルほど離れた
場所で、土砂が巻き上げられ……
『相手』が姿を現した。
二本足で立ち上がったその大きさは、およそ
三メートルほどにもなるだろうか。
その視線は明らかにこちらに向けられており、
ひとまずホッとする。
本能に沿って動く動物のパターンは―――
男と女がいれば女から襲う。
大人と子供がいれば子供から襲う。
非情とか卑怯とか汚いとかいう話ではない。
ただシンプルに無駄なく、リスクの低い選択を
取るだけの話なのだ。
そういう意味で、子供たちではなく……
こちらに狙いを定めてくれたのは有難かった。
子供たちはいつ襲おうが問題にはならないし、
一応こちらを先に倒してから……
という考えかも知れないが。
しかし、鎧モグラと言っていたが……
私の知識の中では、やはりどう見ても
アルマジロだ。
そしてそれは、体を丸めたかと思うと―――
球体へと変化し、ますますアルマジロのような
動作を取り始める。
「おー、回ってる回ってる。
ねーシン、あなたの故郷にもこういうのって
いた?」
「少なくとも、その場で回転するのは見た事が
ないなあ」
まるでバイクのタイヤを空回りさせるかの
ように、回転数を上げ続ける。
当然、こちらへ突撃する予備動作だろうが―――
それまで待ってあげる理由は無い。
多分子供たちは恐怖で固まっているだろうし、
こちらの声など聞こえてもいないだろう。
その場回転する事もさる事ながら……
鎧ともいえるウロコを有し、素早く動く。
私も動画でアルマジロを見た事があるが、
小さな手足をチョコチョコと動かしながら
思いの他素早く動いていたものだ。
だが、結局はその巨体で……
そのサイズ比で―――
「自重を支える事など、
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやいた瞬間、
「フグオォオッ!?」
回転していた球体はその形状を解除し―――
その勢いのまま、四肢を地面へと叩きつけ、
前方へ前転するようにして、仰向けに転がった。
手足は折れなかったものの……
重力に押さえつけられるようにして、
だらんと下がる。
「苦しませちゃかわいそうだ。
メル、トドメを頼む」
「りょー!
……ってどうやったらトドメさせるかなー。
まあ、体の中心を貫けば大丈夫か」
私が子供たちが固まっている方へ向かうと、
そこにはすでにパック夫妻が到着しており、
「シンさん。みんな無事です」
そのパックさんの隣りには、子供たちに
抱き着かれるシャンタルさんがおり、
「おおよしよし、怖かったですね。
レムちゃんもラッチも待っているから、
町へいったん帰りましょうね」
こうして、子供たちの救出に成功した私たちは、
まずアルテリーゼに『乗客箱』を持ってくるよう
頼み、
他は彼女が戻ってくるまで、鎧モグラの見張りを
しながら、子供たちの側にいる事になった。
それから、時間にして10分後―――
鎧モグラを携え、私たちは町へと帰還した。
(シャンタルさんが運搬を担当した)
「あの、これは……」
持ち帰った獲物を見て、王子様の護衛に
当たっていた兵士たちが、言葉に詰まり―――
「ハイ・ローキュストの大群を察して、地中に
隠れていたのではないかと」
「危険が完全に去ったから、出てきたという
感じですか」
パックさんと私がその死体を前に説明し、
「もらってくれぬかのう。
第一、これから公都に戻るのに荷物になる」
「前に氷室をいくつか作りましたよね?
保存に問題は無いと思いますが」
アルテリーゼとシャンタルさんが、後始末を
お願いする。
ざわつく兵士たちを前に、町の責任者らしき
チョビひげの男が出てきて、
「ええと、では―――
町への寄進という事でよろしいでしょうか。
何か、そちらからの希望とかは」
すると、人間の姿になったドラゴン二人が、
それぞれの夫の方へと振り向き、意見を促す。
「う~ん……
復興費の足しにでもしてください。
あと出来れば―――
孤児や身寄りの無い人が出た時の、
対策費として頂ければ」
「そうですね。
病人やケガ人が出た時の、薬代としても
お願いします」
そこへレルク君とルーナさんも戻って来て、
「あ、ありがとうございましたっ」
「あなたたちは―――
あの子たちの命の恩人です!」
二人が頭をペコペコと下げていると、メルが
手をパン! と叩いて、
「じゃー2人とも早く乗り込んで。
もうエンレイン王子様もヒミコ様も、
全員乗り込んでいるから」
ヒミコ様はワイバーンの姿となって、王子様を
乗せて飛ぶ事が出来るが……
子供たちの面倒を見て欲しいという事で、
『病院箱』に乗ってもらった。
ちなみにそちらにはレムちゃんが―――
『乗客箱』にはラッチが乗り、どちらに乗るかで
子供たちの人気は半々に分かれた。
こうして私たちはようやく―――
孤児たちを連れて、公都『ヤマト』へと
飛び立った。
「……式典?」
「は、はい。
父である、マルズ国現国王トニトルス様が、
感謝の意を直接伝えたいとの事で」
マルズ国・某所にて―――
首都・サルバルを魔力収奪装置から救った事と、
今回のハイ・ローキュストの大群を退けた事を
受けて、
その感謝の証として……
『式典』が開かれる運びとなったらしい。
「しかし、いきなりそんな事を言われましても。
マルズに立ち寄ったのは、ただの休憩に
過ぎませんので……」
そもそもマルズに降りたのは、公都『ヤマト』への
行程は二日がかりになるので―――
子供たちの野宿を避けるためのもの。
マルズ国王の申し出は完全な想定外であり、
こちらとしても公式な行事に対する用意は
何もしておらず……
さりとて断るのも問題だと頭を悩ませていたが、
「シン殿、そう難しく考える必要はないかと。
『式典』も、国王とわずかな側近だけで
行うと言っておるゆえ―――」
ヒミコ様が補足するように説明する。
「なになに、どったの?」
「何があったのじゃ?」
そこに妻二人がやって来て―――
「あれ? ラッチは?」
「レムちゃんと一緒に子供たちのところに。
それよりどうしました?」
「何か問題でも―――」
パック夫妻も続けて入って来て、
ひとまずみんなで情報共有する事になった。
「なるほど……
式典、ですか」
「多分、こちらもそれなりに動いていたのだと
内外に示したいのでしょう。
あとウィンベル王国への心証を良くしたいと
いうのもあるかと……
身内でありながら、大変あつかましいお願いだと
思うのですが―――」
パックさんの言葉に、エンレイン様は
拝むようにして頭を下げる。
「彼が悪いのではない。
とはいえ、彼の顔を立ててもらえぬか?」
ヒミコ様が恋人である王子をかばう。
ていうか、彼の顔を立ててと言う事は即ち、
王家の顔を立てるという事なので……
うかつな事をすればTHE・国際問題まっしぐら
である。
どうにか波風を立てずに出来ないかと悩んで
いると、
「別にいいんじゃない?
こんな立派な施設も提供してもらったんだし。
代表として、ラッチかレムちゃんに
出てもらえば」
と、メルが提案。
ここは王家か貴族専用の施設であり―――
エンレイン王子も同行しているという事で、
特別に私たちも利用させてもらったのだ。
子供たちが大勢いるし、警備としては最高クラス
なので、お願いしたのである。
「そうじゃのう。施設を貸してもらった
義理もある。
それに子供なら多少の事は許されるであろう」
「お褒めの言葉を頂く程度って聞いているし、
それならレムちゃんでも……」
と、アルテリーゼとシャンタルさん―――
保護者組は乗り気になり、
「……じゃあ、パックさん。
それで大丈夫でしょうか」
「どうせなら―――
ラッチとレムちゃん両方に、代表やって
もらいますか」
男性陣もそれで納得し、『式典』に臨むことに
なった―――
「―――では、ウィンベル王国を代表して……
え? え?
ドラゴンの……ラッチ殿?
ゴーレムの……レム殿?
お、王の御前へ」
赤い絨毯の上を、60cmほどの小さな
ぬいぐるみのようなドラゴンが、二本足で
とてとてと歩き、
その隣りを、三歳くらいの背丈の―――
球体関節人形のような小さなゴーレムが、
女の子のようにフリルトリムの衣装をつけ、
スカートをはいてぽてぽてと歩くのを、
司会進行役であろう男性が、目を丸くして
見守っていた。
やがて二人が、国王と王妃の御前にまで進むと、
「新生『アノーミア』連邦―――
そしてマルズを代表して、ここにそなたらの
貢献を称える。
見事であった」
一段高い、文字通り玉座に座るマルズ国王、
トニトルスの言葉に、
「ピュイッ!!」
ラッチは元気よく答えるように声を上げ、
「…………」
レムちゃんはお姫様のように、スカートの端を
両手でつまむようにして会釈した。
「大儀であった」
厳かにマルズ国王が告げる一方で、
王の隣りの王妃様始め、周囲の年齢高めの
側近たちは―――
孫を見るかのような目で口元が緩んでおり、
『式典』はのどかな雰囲気に包まれた。
「終わったかな……」
「そだねー」
「ウム」
それを側面から遠目で見ていた私と―――
メルとアルテリーゼ、妻二人がホッと一息つく。
「レム、もういいよ」
「戻っておいで」
ゴーレムの保護者である夫婦―――
パックさんが手招きし、シャンタルさんは
屈んで両手を広げ……
そこへレムちゃんはてってって、と走って来た。
そしてラッチも母親であるアルテリーゼの
胸に抱かれ、ここで失礼して戻ろうかとした時、
「あ、あの」
年齢にして三十そこそこに見える、王妃様が
こちらを呼び止め、
「ラ、ラッチというドラゴンの子供はその、
男の子? 女の子? どちらか?」
突然の質問に、私とメルとアルテリーゼは
顔を見合わせるが、
「幼少期の頃のドラゴンは、母である我にも
性別はわからぬのだ。
もう少し育てばわかると思うがの」
「そ、そうか」
次いで国王も口を開き、
「レムと申したか。
そのゴーレムは女の子でよいのか?」
今度はパック夫妻が少し考え、
「性別はありませんが、自我はありますので」
「人間と一緒に生活しているうちに、馴染んで
こうなったのだと思われます」
それからすぐ近くにいた側近の一人が、
こちらへ歩み寄り、
「レム殿は数万のハイ・ローキュストの群れを
撃退したという話だが……
今、危険は無いのか?」
すると夫妻は微笑んで、
「あると思いますよ。
三歳児くらいの危険は」
「人間でもこのくらいの子供は―――
何をしでかすかわかりませんので」
それを見ていたトニトルス国王夫妻は、
何やらこちらへ手を伸ばしたりしていたが、
同席していたエンレイン王子が、その淡い
パープルの短髪をかきあげて、
「……よろしいでしょうか」
そう言って彼は、ラッチとレムちゃんを
私たちに断って抱きかかえ、
「陛下、王妃様―――
たまにはそこから降りていらっしゃい。
自身の手で実際に触れる以上に、
確かな事はありません」
エンレイン王子の横にいた、真っ赤な長髪と
燃えるような赤い瞳を持つヒミコ様も、
「彼の言う通りだと思います。
お義父さま、王妃さま」
そこで彼女はレムを―――
彼はラッチを抱いて両陛下の前まで近付く。
国王と王妃は玉座から立ち上がり、
二人の前まで降りていくと、
夫はレムちゃんを、妻はラッチを受け取り、
それぞれを胸に抱く。
「おお……!
こ、これがゴーレムか。ちと重いか?」
「あなた!
女の子に向かって重いとは何です!」
王妃様が怒ると、王様に抱かれていたレムちゃんも
抗議のためかぽてぽてと腕を振って叩く。
「ははは、すまんすまん」
王妃様はそんな夫を見つつ、ドラゴンの子供を
赤ちゃんのように優しく抱く。
「ラッチちゃん、柔らかいのね。
ドラゴンというから、もっとウロコとか
固いと思っていたのに。
子供はみんな同じなのね」
そんな光景を、周囲の側近たちも暖かい目で
見守っており―――
「あの、彼らもよろしいでしょうか?」
私たちとパック夫妻にエンレイン王子様が
視線を向け……
こちらはただ首を縦に振る。
その後、ラッチとレムちゃんは初孫を祝うかの
ような扱いで、彼らに可愛がられまくり―――
この時『式典』に参加していた国王と王妃、
そして側近たちは、強烈な亜人・他種族
容認派となる。
また、マルズ国及び新生『アノーミア』連邦は、
ウィンベル王国との外交交渉の際、ラッチと
レムちゃんを是非にと要求してくるように
なるのだが―――
それはまた別の話である。
そして翌日……
私たちは公都『ヤマト』へ帰還し―――
報告のため、私はギルド支部へと向かった。
「おう、マシリアから来たチビたちの様子は?」
いかにもな昔かたぎの頑固おやじといった風情の、
アラフィフの男が私に問いかける。
「今のところ、健康状態も良好との事で……
メルとアルテリーゼに、児童預り所へ一緒に
行ってもらうよう頼みました。
まあ、慣れるまでしばらく時間はかかる
でしょうが」
ちなみにレルク君とルーナさんは、児童預り所の
職員になってもらう予定だ。
当人たちの希望も確認するけど。
「しっかし、鎧モグラに王族の式典ッスか。
お疲れ様ッス」
褐色肌で、ちょっとアウトサイダーっぽい感じの
長身の青年が労いの言葉を話す。
そんな夫を見て、タヌキ顔タイプの丸眼鏡の
妻が続き、
「それで、エンレイン王子様は?」
「ヒミコ様と共に、そのままマルズに。
さすがに王家も―――
もう彼を罰する事は無いでしょうから」
そこで私は、この場所にいた王族がいない事に
気付き、
「ライさんは?
どこかに出かけているんですか?」
「アイツなら王都に戻ったよ。
サシャやジェミエルに引きずられるように
してな」
あの二人が?
まあ秘書的な役割だし、そう動いても
おかしくはないけど……
「何か、緊急事態が起きたとか」
私の言葉にレイド君が反応し、
「それは無いッス。
もしそうなら、ワイバーンで王都まで
行くはずッスから」
「お酒とか調味料とか―――
お迎えの馬車にいっぱい乗せてましたし」
ミリアさんの説明に、思わず苦笑する。
「あ、それと王家直属の開発部門からまた
いろいろと来たから、後で確認しておいてくれ。
あと、大型の風を出す魔導具か?
あれはさっそくギルド支部と児童預り所、
それにガッコウに設置しておいたからよ」
ジャンさんが言っているのは多分、大型の
扇風機タイプの魔導具の事だろう。
プロペラで風を起こすのは、空調服を作成した時に
実証済み。
ただ作業用の空調服とは違い―――
それなりの規模の風を起こすのは、風魔法使いの
仕事を奪ってしまうとの事で、手を出さないで
おいたのだが……
大きな建造物ならともかく、部屋の換気などで
あれば、あちこちに自由に動ける人間の方が
便利であり、
また今のウィンベル王国では、少しでも風魔法の
素養があれば―――
ブーメランを使う事が出来る(という設定)ので、
それは遠距離攻撃魔法を使えるに等しく―――
仕事でも競合する割合が低いとされ、開発に
踏み切ったのである。
「そうですか。
まあ、リーベンさん始め風魔法使いの方々は、
この公都では『施設整備班』として、そして
ブーメラン部隊としての仕事もありますし……
多分問題は無いでしょう」
その扇風機タイプの魔導具の他に、何を
持ってきたのだろうか―――
私が想像していると、
「そういや、マルズ国で『式典』に招待されたって
話だが―――
ウィンベル王国からも、今回の件で報奨が
来てるぜ。
取り敢えず金貨3万枚だ」
突然のギルド長の言葉に、思わず吹き出す。
「え? は?
いや待ってくださいそんな」
確かヒュドラの討伐でも出たのは金貨一万二千枚
だったはず―――
その倍以上、という事か……!?
「王都防衛、それに新生『アノーミア』連邦での
ハイ・ローキュストの撃退……
どちらも王国の安全に深く関わる事態だった。
妥当な報酬だろう」
「しかし、私一人でやったわけでもないのに……」
なおも私が難色を示すと、ジャンさんが先回り
するように、
「具体的な方針と対策を示した事が、評価されたん
だろうよ。
あと他の、パック夫妻や魔族、ワイバーン、
魔狼や獣人族、ラミア族についても別途出るから
そこは気にするな」
「あとッスね。
報奨は冒険者ギルド所属としてって事に
なっているッスから」
「メルさんとアルテリーゼさんもまとめて、
その金額になっています。
私たちもレイド・ミリア夫婦として
それなりに出ていますし」
なるほど。
個別に冒険者一家に対して、報酬が出ているのか。
レイド夫妻の言葉に、一応納得する。
「まっ、これはウィンベル王国内だけの
話だし―――
どうせ後で新生『アノーミア』連邦から、
いろいろとむしり取るだろうからよ。
遠慮なくもらっておけ」
意地悪そうに笑うギルド長を前に、
私はため息をついて―――
「しかし多過ぎですよ。
ただでさえ金の使い道に苦労していますのに」
「そう言わんと頼むぜ。
雇用でも施設でも何でもいいから―――
こっちも協力するから」
アラフォーとアラフィフの男の会話を見ていた、
二十代の男女は、
「お金のもらい過ぎで不満を言うの、シンさん
くらいッスよ」
「冒険者としても商人としても―――
次元が違うって感じです」
そりゃまあ、異世界人でもあるけれど……
こうまで扱うお金が多くなるなんて、想定して
いなかったし。
「……まあ、ちょうどいい機会ですから。
以前からやろうとしていた事を―――
今回やってみますか」
私の言葉に、同じ室内の三人が注目した。
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