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「私も久しぶりに出来の悪い後輩を生んでしまった事を後悔してるわ、相変わらず仕事が出来ないのね、琴音《ことね》さん」
琴音が作ったグラスを黒川のコースターに置く……
「何ですってぇ!! こう見えて私は今この店のNo,3です。楓姐さんの陳腐な店とは格が違うんですよ? 精々《せいぜい》場末で頑張ってくださいな」
楓はハァと溜息を付くと両手を広げて見せる―――
「タツ坊。今、琴音さんが黒川さんにお出ししたグラスを下げて新しいグラスをこちらに。これ以上黒川さんに失礼があっては申し訳ありません」
「なんっ――― 」
「かしこまりました」
黒川は黙ったまま事の顛末《てんまつ》を、その口角を少しだけ上げて楽しむ。
「指名を頂いて居る以上、況《ま》してや貴女は本指名を頂いて居る身で有りながら、お客様の好みすら覚えていない。黒川さんは毎回一杯目から濃いめをご所望ですよ? 教えたはずです、初めに「お酒の濃さ」を確認する事を」
「―――――!! 」
「そして貴女は大変な失礼をしましたね? 気付いてないのでしょうけど。安キャバならばいざ知らず、クラブや高級キャバでは有るまじき行為です。忘れたんですか? マドラーで混ぜるときは「左回り」が鉄則です」
時計回りで混ぜる事は、時計の秒針を早く指で回すのと同義。則《すなわ》ち時間を早く進めると云う意味を指す。つまらない時間を終わらせたい、早く時間が過ぎて欲しいという行為にあたり、この業界の御法度とされる。
「このお店に相応しくないのは貴女の方です。貴女には今迄の素養が一切備わっていない。外見だけを磨く事ばかりに浮かれ、大事な物を忘れてしまったようですね? 一から出直してきなさい」
「―――――⁉ 」
「勝負あったな。今日はこのテーブルに置いておくのは酷だろう、君ぃ、琴音君を他のテーブルへ」
悔しがる琴音を他所に、黒川が黒服に告げた……