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「なんだい、そりゃ、さっぱり、な、話ばかりじゃねぇーか」
「おお、そうじゃのお、姫君の腹が腫れるとは、なんじゃ?」
「そもそも、どこから、そんな話が?」
新《あらた》、髭モジャ、橘が、話が見えないと、ポカンとしている。
「おいおい、今は、それどころじゃねえーだろ?」
新が、まよいごとは、いい加減にしてくれと、常春《つぬはる》、紗奈《さな》、そして、タマを見た。
「あー、まいご、の話じゃなくって、本当の噂なんですよ!おじさん!!嘘じゃないんですからっ!!」
タマは、牙を向き、新へ飛びかかった。
と、すぽんと、そのま新の腕の中に収まって、あやされてしまう。
「おー、こりゃー、立派は、犬歯でございますなぁ。大きくなったら、良い番犬になるぞぉー」
「へへ、タマは、今でも、ちゃんとした、けんし、ですよ!太刀だって使えるんですから」
タマは、新の腕の中で、何故か甘えている。
「で、これ、この犬なんなんだよ」
扱いに困ったと、新は、タマを抱いたまま、常春《つねはる》に言った。
「いや、なんなんでしょうか。私にも、若干、わからない部分がありまして。ただですね、新殿。内大臣家の姫君の噂、これは、本当の事だと思います。私と紗奈は、秋時《あきとき》経由で、聞いておりますし、御屋敷の猫、までが、言っているというのは、少なくとも、姫君は、いる、ということかと」
「兄様、ですが、秋時、ですよ!私達は、秋時に、聞かされ……タマまでが……?あれ?どうゆうことでしょう?」
「……猫が語った話は、本当でしょう」
橘が、ポツリと言う。
人よりも、安易に盗み見できるのが、猫、ではないか、そして、渦中の姫君の猫が、言うことならば、やはり、内大臣家には、姫君が存在するのではと、続けた。
「そして、姫君は、家司《しつじほさ》の子を身籠っている。それが、腹が腫れる奇異な話として、広まったのでは、ないでしょうか?」
常春が言う。
「成る程なぁ。姫君は、今は、いる、ってことか」
「……新よ、それは、もしかして……」
「おお、髭モジャよ、ご落胤ってやつか?嫁に出す為に、急に姫が増えるってのは、よくある話だろ」
「新よ、そりゃ、ちいと違うぞ。昔の過ちが、わかって、慌てて、引き取る。またはじゃ、北の方に、バレたくないと、他所で育てて、年頃になったところで、引き取る。そして、縁組させるのじゃ。その、屋敷の都合の良い所とな。つまりは、道具として使われる。姫君、と、呼ばれてちやほやされるのは、一瞬じゃ。後は、嫁ぎ先に任せると、なんとも、酷な話よ」
へぇー、大変な話だねぇーと、タマの頭をなでながら、新は、どこか上の空だった。
言っている事はわかるが、所詮は、住む世界が異なる。新には、どうしても、どこか、他人事にしか聞こえなかった。
「だ、だけどね、女房は、いるわけで、あーーー!!入内が決まってるって!!」
「そうだったなあ、秋時が、そんなことを。そして、夜這をかけてきた、ふらち者を、家司が、捕らえたと!」
「はい、その、家司が、姫君のお相手のようですよ、わん!」
おいおい、お前、急に犬に戻るなよ。と、言いながら、新は、タマを、高い高いーとか、持ち上げ
あやしている。
「……新、お前、犬好きじゃったのか?」
「髭モジャの、牛好きより、いいだろ?」
言い合いは、続く──。
「では、常春様、私達だけで、続けましょう。あの方々は、もう、いいでしょう」
橘が、クスクス笑ながら、常春へ言った。
「あの、橘様、入内の為に、養女を取るのは、確かに、よくある話。ですが、屋敷に引き取った時、身籠っていたと、分からなかったのでしょうか?」
「女房達もグルなら?」
「あー!そうか!所詮は、形だけの姫。内大臣様も、女房経由でしか、様子を知るしかありませんよね。そして、身籠っているなら、余計、女房達も、姫君を会わせようとはしないだろうし……」
「ああ、そうだな。紗奈。内大臣様も、姫の相手どころではない。根回しに忙しいはずだ。しかし、解せないのは、相手が、家司ということ。屋敷で、知り合ったはずだから……。屋敷に入った時、身籠っていた、とは、あり得ない。しかし、入内が決まっている姫に、家令《しつじ》ではなく、家司《ほさ》が、近付けるものだろうか?」
「兄様、おかしいですね。それと、姫君の、腹が腫れたなんて、どうして、妙な、噂が広まったのでしょう?隠していた事が、どうして?」
「……紗奈、確か、琵琶の音が、どうのと、秋時が、言っていたな。琵琶法師が、姫君の所に出入りしていたとしたら……」
「おいおい!そこでも、琵琶法師かよ!」
行き詰まる常春達に、新が、問いただした。