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2度も浮気されちゃうなんて悲しすぎる😭
せつない🥲
イッている、のだと思う。
膣内が慌ただしく収縮し、俺を締め付ける。
円を描くように腰を回しながら最奥を突くと、蜜が飛沫を上げ、俺の太腿を濡らした。
腰を打ちつけるたびに、ぴちゃぴちゃと軽い音が鳴る。
満月は既に手をついていられなくて、枕に顔を埋める格好で腰だけを高く上げている。
尻の穴までひくついて見えるあたり、相当感じているのがわかる。
「好きだっ――!」
彼女の反応を見るのが怖くて、俺は背中に愛を告げた。何度も。
彼女の口から同じ言葉は聞けなかった。
それでも、俺が好きだと言う度に身体を震わせて締め付けられるのだから、まんざらでもないと自惚れた。
「いい加減にして」
それまでの熱が妄想の産物だったのかと思うほど冷ややかに言い放たれたのは、俺がさすがにこれ以上は一滴も絞り出せないのではと思うのと同じころだった。
「明日は腰痛と筋肉痛が確定だな」と、俺は茶化した。
正直、俺もヤバい。
「私の年になると、三日後に症状が出るのよ。しかも、治るまでにあなたの三倍はかかるの」
筋肉痛はともかく、彼女の声帯は既に症状が表れていた。
それを自覚した満月は、喉に手を当ててため息をつく。
俺は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを二本取り出して、キャップを緩め、一本を満月に差し出した。自分はもう一本を一気に飲み干す。彼女も半分ほどを喉に流し込んだ。
「シャワー、浴びるだろ?」
「ええ」
俺は自分のバッグから分厚い白封筒を取り出し、彼女に差し出した。躊躇する細い手に、強引に握らせる。
「借りてた金」
「……」
満月に返してもらう気がなかったのはわかっていたが、この金を返さずに俺たちの関係は進まない。進められない。
満月は中を確認することなく、封筒をベッドサイドに置いた。
俺はベッドヘッドに枕を置いて、背を預けて座った。そして、彼女を抱き寄せる。布団を引き上げて、彼女の身体を包んだ。
余程疲れたのか、満月は抵抗しなかった。
彼女の身体はまだ汗が引いておらず、俺の身体にしっとりと吸い付いた。
「お金が欲しかったわけじゃないの」と、彼女はポツリと言った。
「私ね、バツ二なの。二十五で結婚して二十八で離婚して、それから十年、男には関わらず、仕事に生きてきた。そんな私に、俊哉は『きみが甘えられるような男になるから』ってプロポーズしてくれたの。誠実な|男性《ひと》だと思ったわ。前の旦那のように若い女と浮気して妊娠させるような男じゃないと思った」
俺は満月を抱き締める腕に力を込めた。
確かに、俊哉は誠実そうに見えた。
見えた、だけだが。
「復讐……だった?」
「そうね。復讐……ね」
声が掠れているせいで、満月が泣きそうなんじゃないかと感じた。
確かめたかったけれど、そうしてしまったら彼女は口を閉ざしてしまう気がして出来なかった。
「二度も男に裏切られて、慰謝料でも奪い取らなきゃ惨め過ぎて。でも、あの日、あのお金を受け取った時が、一番惨めだった」
満月は、ふふっと笑ったけれど、それが心からの思いでないことは確かめるまでもない。
カーテンの隙間から朝陽が差し込み、俺たちの足元を照らした。
「俊哉が全額負担すると思ってたの。口座の全額でも足りないのはわかっていたから、借金をしたんじゃないかとも思ったけど、そうじゃなかった」
「それも、調査会社?」
「ええ」
「俺が可哀想で、会いに来た?」
「いいえ。謝りたかったの。私が慰謝料なんか請求しなければ、あなたの奥さんは追い詰められて無断で離婚届を提出するなんてこと、しなかったはず。それどころか、あなたは何も知らないまま幸せでいられたかもしれない。私のくだらないプライドのせいで、あなたまで――」
「――どこがくだらないんだよ」
彼女の肩が震える。
泣いているのか。泣くのを我慢しているのか。
俺は彼女の肩に額を押し付けた。
「満月は、あの男の妻として、当然の権利を主張しただけだ。俺だって、そうだ。俺は! 裏切られていたことも知らずに幸せでいたかったなんて思わない」
「……」
「あんたに出会わなければなんて、思えない」
「…………」
「俺たちは、間違ってない!」
わかって、欲しかった。
普通じゃない始まり方だったけれど、それでも、俺たちは始まった。
俺は、それを後悔なんてしない――!
「会社は、法人化した方がいいわ」
「え?」
「代表取締役、なんて格好いいじゃない」
そう言いながら、満月はベッドを出てバスルームに向かう。一糸纏わぬ姿で。
「きっと、奥さんが悔しがるわ」
「元、だ」
「そう、ね」
バスルームのドアが閉まり、シャワーの音が聞こえ始める。
俺はベッドサイドのメモパッドを見た。じっと。
いつもなら、この隙に、次も会えるように言葉を記し、彼女のバッグに押し込む。
だが、今は、記す言葉が浮かばない。
満月は、終わりにしようとしている。
もとから、俺がネックレスを預からなければ、メモを残さなければ終わっていたはずの関係。
凍えるだの諦めないだのと、駄々っ子みたいなことを言って呼出し、なのにホテルに連れ込むなんて子供らしからぬことをした。
いくら弱っていたとはいえ、満月と出会ってからの俺は、自分でも驚くほどそれまでの自分とは違う。
これが本当の俺なのかな……。
そうだといい、と思う。
これまでの人生も、それなりに自由に、思うままに生きてきた。大したことはしていないが、それでも、『あの時こうしていれば』と思うようなこともない。
だが、|現在《いま》ほど充実して、必死になったことがあったか。
満月が欲しい――!
満月がバスルームから出てくる残りほんの数分で、俺は考えた。
考えて、考えて、考えて。
バスルームから出て来た満月にネックレスを返した。
彼女は何も言わずに受け取った。
別れ、の代わりだと思われたかもしれない。
そのまま、シャワーを浴びた。
いつもより、長く。
シャワーを終えても満月がいてくれたら、いいと思う。
けれど、彼女はいなかった。
テーブルの上には、少し厚みが減った封筒と、メモパッドが置かれていた。
『これは、あなたのお金だから。
私を憎んで、私を忘れて。
さようなら 満月』
髪から滴った一滴が、『さようなら』の文字を滲ませた。
ベッドには、まだ、満月の香りが残っていた。