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ベルの発した声に、何事かと振り向いた葉月の目に入ったのは、少しばかり懐かしく感じる自室の光景。最後に見た時は夜だったが、まだ外は明るいから昼過ぎくらいだろうか。カーテンを開けて確認し、窓からの見慣れた景色に力が抜けていく。


「帰って、来れた……」


ふぅっと息を吐きながらベッドに座り込もうとして、自分が館に居たままの恰好だということに気付く。慌ててブーツを脱いで、玄関に持っていこうと部屋のドアへと手を伸ばす。

ドアノブを引いた瞬間に現れたのは、驚いた顔の母だった。


「は、葉月⁈ あなた、今までどこに行ってたのよ!」

「あ、お母さん……」

「いいえ、どこに行ってたとか、もういいわ。帰って来たのなら、良かったわ」


父の単身赴任先についていったはずの母は、学校からの連絡を受けて飛んで帰って来たらしい。もう少しで捜索願を出すところだったわ、と小言を言われたものの、あまり深くは追及しないでくれた。

ただ顔に少し疲れが見えているのは、間違いなく葉月が心配をかけたせいだろう。


「あの、学校はどうなってる? やっぱ、退学か留年?」

「それは大丈夫じゃない? 向こうで急な法事が出来たってことにしてあるから」


海外での法事……復学した後に話を合わせるのが難しそうだが、母なりに考えて誤魔化してくれていたようだ。


「学校から国際電話とか、ほんとビックリしたわよ! 適当に嘘ついて電話切った後、急いで帰ってきたら葉月もくーちゃんも居ないし」

「ごめんなさい……」

「ううん、無事に帰って来たのなら、別にいいのよ。――で、何なの、その子?」

「え?」


母の指さす方に視線を送り、葉月は言葉を失った。


「どこで拾って来たのよ、まだ親離れしてないでしょう?」


葉月の後ろには完全に翼を隠した、以前と同じ姿の白黒の愛猫。そして、その隣にはくーの尻尾にじゃれついて遊んでいる三毛の子猫の姿。


「え⁈」

「え、じゃないわよ。勝手に猫を増やさないの!」


――付いて来ちゃった⁈


最後に聞こえた、ベルの「あ!」という声の意味が分かり、葉月は困ったように頭を掻いた。早い内に里親を探しなさいと言う親に、どう説明しようか迷っていると、近付いて片手で子猫を持ち上げた母が驚きの声を上げた。


「ちょ、ちょっと、この子、三毛なのにオスじゃない!」

「そうなの。だから、飼っていいでしょ? よそに渡すと、転売されちゃうかもしれないし」

「……売られるのは可哀そうねぇ」


数千万円で売買されることもあるという三毛猫のオス。どんな人に買われるかも分からないし、何よりもこの子は正真正銘の聖獣の子だ。この先、成長と共に翼が出てしまったら大騒ぎになる可能性もある。


納得してくれた母により、三毛も正式に高峰家の飼い猫ということになった。名前は母のごり押しで「みーくん」に決まった。三毛だから? 名付けセンスはマーサといい勝負かもしれない。


「お母さん、明日には帰るから。ちゃんと学校へは行きなさい。3週間も欠席したんだから、もう十分でしょ」


――3週間? 向こうでは2か月は過ごしたはずなのに。


机の上で充電しっぱなしになっていたスマホを手に取ると、表示されている日付はあの日から20日しか経っていない。

考えてみれば、くーが古代竜との戦い後から戻るまでに、向こうでは30年が過ぎていた。でも、こちらの世界での葉月との生活は10年ほど。


つまり、ベル達の世界と葉月の世界とでは時間の進み方が違うということなのだろう。要は、逆の浦島太郎現象が起きている。


空白の時間が三分の一で済んだことにホッとしつつ、スマホに溜まりまくったメッセージに目を通す。

前触れなく3週間近くも学校を休んだから、事故か事件か病気かと様々な方面から心配させてしまっていた。

その一つ一つに返信している間、遊び疲れた子猫とくーはカーペットの上で身体を寄せ合って眠っていた。まだベッドに登れない三毛の為に低めの寝床を用意しないといけない。子猫用のミルクも買いに行かなきゃ、予防接種の予約も入れなきゃと、帰って早々の慌ただしさが、沸き上がる空虚感を紛らわしてくれた。


少しずつ取り戻し始めた日常の中、2か月過ごした異世界でのことをふいに思い出す。水道の蛇口を捻る時、ガスに火を点ける時、一瞬だけ「あれ?」と思ってしまうことがあった。いつの間にか葉月の中で魔法が当たり前になり始めていた。


以前とは違って自己魔力が十分にある状態なのだろう、くーはたまに翼を広げている時がある。子猫のみーにはまだ翼が生える気配はないし、大人になれば出てくるのか、それとも魔素の無い世界では生えないままなのか。


異世界のことを思い出す度、葉月はケヴィンの本を手に取った。読めない単語も多かったが、それがここにあるだけで、あれも実在する世界だったと再確認できた。そして必ず思うのが、ずぼらだった魔法の師のこと。


彼女に買い揃えて貰った洋服は、帰ってからすぐに洗濯してちゃんと保管していた。クローゼットから取り出して久しぶりに袖を通すと、玄関へブーツを取りに行く。お行儀は悪いが二階の自室でブーツを履いてから、愛猫達へと声を掛けた。


「じゃ、行こっか」

「みゃーん」

「みー」


部屋の中で揺らめく光の塊へと、一人と二匹は飛び込んだ。

眩しさに瞑った目を開いた先は、森の館の広いホールの中。大きなソファーに座っているのは、栗色の少し癖のある髪の魔女。その傍らにはふくよかな世話係の姿もあった。


「ベルさん! マーサさん!」

「葉月⁈」「葉月様⁈」


声を重ね、驚きで目を丸くしている二人に、葉月は迷わず駆け寄った。


「夏休みに入ったので、遊びに来ちゃいました!」


猫達もそれぞれに鼻を摺り寄せ合い、匂いを嗅ぎ合って互いを確認している。時間経過にズレがある為、こちらに残っていた4匹は随分と大きくなっていて驚いた。


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