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きなこもち
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#サレ妻
都築七美
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第23話、読ませていただきました。榊さんの登場で、物語に新しい風が吹いた感じがしましたね。外観と中身のギャップが効いていて、デジタルフォレンジックという専門的な切り口にワクワクしました。「疑ってるだけならまだ思い込み」という榊さんの言葉がすごく印象的で、一花さんの不安に寄り添いながらも冷静に事実を追おうとするスタンスにほっとしました。何より、神崎さんにこんな気の置けない友人がいたことに一花さんが自然な笑顔を見せた場面が、じんわり来ました🌸
神崎に連れられてやって来たのは、駅から少し離れた場所に建つ古びた雑居ビルだった。
入口脇には、小さなプレートが掲げられている。
『榊デジタルリサーチ』
(ここ……?)
名前から勝手に想像していたものとの違いに、一花は思わず建物を見上げた。
神崎は慣れた様子で階段を上り、三階の扉を開ける。
「榊、いるか」
「へーい」
奥から、気の抜けた返事が返ってきた。
中へ足を踏み入れた瞬間、一花は思わず目を見開く。
壁際には大型モニターが並び、その下には何台ものパソコン。奥にはサーバーラックまで置かれていて、古びた外観とはまるで別世界だった。
デスクの前に座っていた男が、椅子をくるりと回して振り返る。
「いらっしゃい」
男は立ち上がると、一花の前まで歩いてきた。
「初めまして。榊明です」
「桜井一花です」
一花は帽子を取り、軽く頭を下げた。
けれど、マスクだけは外せなかった。
「すみません……まだ、お見せできるような状態じゃなくて」
そう言って、無意識にマスクの端へ指を添える。
「大丈夫ですよ」
榊はそれ以上、何も聞かなかった。
「神崎から、事情はざっくり聞いてます」
「……そうなんですね」
「はい。だから、そのあたりは無理に説明しなくて大丈夫ですよ」
榊はそう言ってから、ふっと口元を緩めた。
「それにしても、蓮が誰かと一緒にいるの、珍しいな」
榊はそう言うと、「こいつね」と神崎を指さした。
「見ての通り、すっげぇ無愛想だから。友達も少ないんです」
神崎がわずかに眉を寄せる。
「余計なことを言うな」
「いや、本当だろ」
いつも落ち着いていて隙のない神崎にも、こんなふうに遠慮なく話せる相手がいるのだ。
そのことが妙におかしくて、一花は久しぶりに自然な笑みをこぼした。
榊はデスクの上から名刺を一枚取り、一花へ差し出した。
『榊デジタルリサーチ 代表 榊 明』
「デジタルリサーチ……」
「仕事としては、デジタルフォレンジックが中心です」
「デジタルフォレンジック?」
「簡単に言えば、デジタルに残った証拠を調べる仕事ですね」
榊は自分の席へ戻り、モニターの一つを立ち上げた。
「スマホやパソコンの解析、削除データの復元、映像や公開情報の調査。まあ、今回は人の端末に勝手に入ったりする話じゃないですけど」
「榊は元県警です。サイバー犯罪や調査に関わっていました」
神崎が補足する。
「今は独立して、この事務所を経営しています」
榊は一花へ視線を戻した。
「それで、今回の放火事件。親友さんが関わっているかもしれない。でも、今のところ証拠はない」
「……はい」
「なら、最初からその人を犯人扱いするのはなし」
あまりにもあっさり言われ、一花は顔を上げた。
「疑ってるだけなら、まだ思い込みの域を出ない」
榊はモニターへ向き直る。
「だから、事実だけを拾う」
「事実……」
「水野翼が事件前に誰と接触していたのか。その中に、一花さんのことを詳しく知る人間がいたのか。そこから見ます」
榊の指がキーボードの上を滑っていく。
「親友さんのSNSも、公開されてる範囲だけ確認します。行った場所や日時が分かる投稿があれば、事件前後の動きに気になるところがないか見てみましょう」