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「お世話になりました!!」
「絶対また来ますー!!」
ウィンベル王国東の海岸から―――
一斉に二百隻以上の船団が出航する。
そして船上で大声で別れを惜しむ集団。
こちら側で『保護』していた、ランドルフ帝国の
軍人たちだ。
同盟そのものは結ばれたが、公表はまだであり、
政治的な思惑も相まって彼らの帰国と同時に
行う運びで、
四千人以上の軍人たちは船で次々と、
祖国へ向かって出発していく。
「じゃーシン、そろそろ私たちも」
「行くとしようかの」
「ピュイッ!」
私はメル・アルテリーゼ・ラッチに促される
ようにして、船に乗り込む。
もちろん、ランドルフ帝国の軍船に、だ。
そこへティエラ王女様がやって来て、
「シン殿に護衛して頂けるとは、光栄です!」
すると彼女の背後からさらに二人―――
「ティエラ様、準備は出来ております」
「鬼人族たちも先に乗り込んでますから」
カバーンさんとセオレムさんも続いて来た。
私たち家族とティエラ様一行、そして鬼人族と
奴隷商人に捕まっていた亜人たちも一緒の船に
乗り込む予定で、
さらに各国の大使館に常駐する人員も、同じ船に
乗り込んでいる。
どうしてこうなったのかというと……
表向きは、彼らの護衛を務めるという理由が
あるのだが、
パチャママさんたちの故郷まで、鬼人族たちを
送り届ける、という事情もあった。
パチャママさんを拉致したドラセナ連邦と、
ランドルフ帝国の間に同盟関係は無いものの、
交易はそれなりに盛んであり、
帝国の手で彼女たちを故郷まで送り届ける、
というのもまた微妙な状況で―――
そこでいわば第三者の立場である……
ウィンベル王国に、白羽の矢が立ったのである。
確かにランドルフ帝国とは同盟関係にあるが、
ドラセナ連邦と王国は同盟も交易も結んで
いない。
それに帝国とは、相互内政不干渉という
制約がある。
そんなウィンベル王国が、鬼人族を送り届けるに
あたって、何ら制限を受けるいわれはない―――
という理屈だ。
また時期的にも今回の出航を逃せば、本格的に
冬に突入し……
海が荒れて船が出せない、という理由もあった。
と、延々と説明して来たが、
「かつお節に小豆、もち米……
それにまだ見ぬ食材が私たちを
待っている……!」
「いわばシンの故郷の本場。
楽しみじゃのう」
「ピュウ~♪」
家族がうきうきしながら、船へと足を進める。
鬼人族のツバキさんに、公都『ヤマト』で
料理指導を頼んだのだが―――
その影響はすさまじく、
魚のおろし方、さばき方……
米を炊くタイミング、出汁の取り方など、
やはり生まれた時から身近にあった環境のためか
彼女に一日の長があり、
味の向上が大幅になされ、そんな鬼人族が持つ
新たな食材に大いに期待が集まる事となって、
私たち一家が代表として出向く事に
なったのである。
「まあゲートがあるから帰りは楽だけど……」
「でも『正式』に帰る時は船に乗らなきゃねー」
「それだけが面倒だのう」
「ピュウ~」
今回、各国は大使館職員として―――
二・三十名ずつほど派遣している。
なので人の出入りも多くなり、数人の増減が
あったところでそれほど怪しまれないだろう。
そして私たちは船に乗り込み、しばしの船旅を
楽しむ事にした。
「おーシン、ここにいたんか。
しかし聞いていたけど、帝国の船って
でっかいんやなあ」
「ル、ルクレセント様っ」
甲板で家族と一緒に海を眺めていると―――
銀のロングヘアーに切れ長の目をした女性と、
やや褐色肌の、犬耳に巻き毛のしっぽをした
黒髪の獣人族の少年が近付いてきた。
ルクレさんとティーダ君だ。
「あ、ティーダ君。どう、船は大丈夫?」
「ルクレセントもティーダも、帝国は初めてで
あったの」
「ピュイッ」
家族も二人に挨拶を返す。
ランドルフ帝国と同盟締結が成された事で―――
今回、チエゴ国から顔見せとしてフェンリルの
ルクレさんと、その婚約者であるティーダ君が
同行する事となった。
前回、国家クラスで使者を帝国へ出したのは、
ウィンベル王国・新生『アノーミア』連邦、
そして魔族領の三ヶ国だけだったので、
国交が開かれた今、本腰を入れて真剣な姿勢を
見せつけておくつもりなのだろう。
「あ! シン様!
ここにいたのですか」
「パチャママさん。
他の方々は?」
鬼人族の、十歳前後に見える男の子のような
少女が、手を振って合流する。
「ツバキは料理を作るのを手伝っています。
クロウとシシマルは力仕事を。
……ところで、そちらの方は?」
「ウチはフェンリルのルクレセントや!
よろしくな!」
「獣人族のティーダです。初めまして」
そこで鬼人族の少女は首を傾げ、
「ふぇん……りる?」
その疑問に答えるように、ルクレさんは
『元の姿』になる。
「ここ、これは……神犬? いや神狼!?」
真っ白な毛並みの狼を巨大化させたような
その姿は、神々しく潮風に吹かれ―――
「まあどう呼ばれてもいいけどな。
取り敢えずウチはこういう者や」
驚くパチャママさんと、また同じ甲板にいた
人たちもザワザワと騒がしくなり……
するとアルテリーゼがチョップでルクレさんを
急襲し、
「あだっ!」
「軽々しく変身するでないわ!
周りが驚いておろうが」
彼女は頭を押さえ、慌てて人間の姿に戻る。
「久しぶりに見るけど、やっぱりインパクト
強いねー」
「ピュウゥ」
メルとラッチも、それを見て仕方ないと
いうように感想を口にする。
「シン殿!
お食事の用意が出来ましたぞ!」
「船内の上級士官の食堂までお出でください」
その時、遠くからカバーンさんとセオレムさんの
声が聞こえ、私たちはそれに従う事にした。
「予定通りであれば、あと6日間ほどで
帝国に到着する予定ですので―――
しばらくのご辛抱をお願いします」
食事をとりながら、ティエラ王女様が今後の
予定などについて語る。
「まあ、これだけの船団となりますと……
時間もかかるでしょう」
私が擁護するように言葉を続けると、
カバーンさんとセオレムさんが苦笑し、
「いや、その気になりゃもっと早く動ける
はずですよ。仮にも軍船ですし」
「ただ、まあ―――
荷物が多過ぎて」
……??
確かに、軍船というからにはあの誘導飛翔体や、
軍事物資も満載しており……
それらを最初に無効化したため、ほとんど
残っている事は知っているけど。
だけど普通はそれを計算に入れて動いている
はずじゃないのか? と思っていると、
「兵士たちが買ったお土産の量が、予想以上
でして……
一応制限は付けたのですが、みんな限界
ギリギリまで買い込むものですから」
ティエラ王女様が顔を赤らめながら答える。
「たいていのモンはもう、帝国にもあるぞって
伝えたんですがねぇ」
「特にあのトイレを持ち帰ろうとする兵士が
多くて多くて。
あっちでの生活に慣れたら―――
無理もありませんが」
王女様の従者二人が続けて補足する。
「そういえば我が国でも、帰国を前にお土産を
買い込む兵士たちで混雑していました」
「ウチではお酒が人気でしたね。
それと料理を覚えていく人も多かったです」
各国から派遣された大使館職員が、それぞれ
自国の事情を語る。
「あれ? そういえば……
兵士たちはお金なんて持っていたんですか?」
中には働いて対価を得た人もいるかも
知れないけど、と思っていると、
「わたくしがランドルフ帝国代表として―――
そして帝国兵の帰還手続きに来た際、滞在費や
謝礼金として財貨を持ってきておりました。
それを各国に受け取って頂いた後、残りを
こちらの大陸の金貨銀貨に交換してもらい、
兵士たちに渡しております」
ティエラ王女様が私の疑問に返す。
「しかし、また見た事の無い料理がありますね」
「甘い芋と米の組み合わせ……
いくらでも腹に入ります」
食卓に上がっていたのは、新しく出来た芋や
栗ご飯、それに梅干しなども追加され、
「それらは鬼人族の方に作って頂きました。
出来れば彼らの里まで行き、新たな食材や
料理を教えてもらえればと思っています」
そう話すと、やや遠い位置に座っていた
パチャママさん他鬼人族の面々が頭を下げる。
「まだまだ、学ぶ気があるという事ですか……
みながシン殿のような他者に教えを請う
姿勢であれば、争いなど起きないでしょうに」
ティエラ様がしみじみと言葉を口にすると、
妻たちが、
「そーいえばティエラ様。
パチャママちゃんって、ドラセナ連邦とやらに
拉致されたんですよね?」
「その連邦というのはどういう国なのか?」
「ピュ~」
そこで彼女は軽くフゥ、と息を吐くと、
「交易関係にありますが、実はそこまで詳しくは
ありません。
以前にもお話しした事がありますが、元は
海賊集団が前身と言われていて……
周辺国を武力で支配、その勢力を広げていった
国だと思われます。
あまり帝国と大差はありませんが―――」
言いづらそうになってきたので、私は咳払いし、
「帰国する際、シルヴァという提督と
遭遇しましたが……
確かにあの人も海賊っぽかったですけど。
でも商売のために帝国へ向かう途中だったん
ですよね?
ドラセナ連邦では、軍人が商売もするんで
しょうか」
それを聞いたカバーンさんとセオレムさんが、
「どうなんでしょうねぇ。
海賊であり軍人であり商人でもある―――
といったところでしょうか」
「ていうかアイツら、その区別がついているか
どうかも怪しいですけどね」
二人の返答に、こちら側の大陸の使者たちは
『何だそりゃ』という表情になるが……
船での移動になるのであれば、海賊や軍並みに
戦闘能力があった方が安全だ。
それに商品もさばく能力があれば、むしろ
合理的だといえる。
「同盟は組んでいないんですよね?
過去、帝国と何かあったとか?」
「う~ん……そんな話は聞いておりません。
小競り合い程度ならあったとは思いますが。
何せ国と国との距離が離れ過ぎているので、
少なくとも大規模な戦闘は無かったかと」
ティエラ様の後にまた従者の二人が続いて、
「それについちゃ、軍に聞いた方が早いんじゃ
ないですかい?」
「シン殿はアルヘン帝国武力省将軍や、
ロンバート魔戦団総司令とも交流を持ったと
聞いてますので、彼らにたずねた方が」
そういえば半ばなし崩しにだけど、軍のトップ
二人と伝手があるんだよな。
「それなら、わたくしの方から二人に聞いて
みますわ。
別に機密とかではないでしょうし。
ただ交易をしているだけの関係ですので、
詳しい情報が手に入るかどうかはわかりません
けれど……」
「いえ、別にドラセナ連邦と事を構える気は
無いですし―――
どんな情報でも頂ければありがたいです。
よろしくお願いします」
王女様の申し出に、私は頭を下げる。
「シン、話は変わるけどさー。
獣人族の人たちはどうしたの?
ここに来る前、王都で何やらやって
いたよね?」
私はメルの問いに食べる手を止めて、
「ああ、あの人たちは『神前戦闘』の選手だよ。
映像記録用の魔導具が手に入ったから、
ちょっと協力してもらう事があって」
「?? また妙な組み合わせだのう。
何ぞ関係があるのか?」
「ピュウ?」
私の答えに、アルテリーゼとラッチが揃って
首を傾げる。
「まあこれは見てもらった方が早いかな。
食事が終わったら、みんなで見てみよう」
こうしてみんなは食事を再開した。
「おお、シン殿!
久しぶりだな!!」
「何か聞きたい事があるんだって?
いーよー、機密とかそういうんじゃないなら
何でも答えちゃう」
ランドルフ帝国帝都・グランドール……
帝国武力省司令室。
そこで私は知己の人間二人と再会していた。
一人は鎧に身を包んだ長身の、黒の短髪に
眠たそうな半開きの目をした男性―――
ロッソ・アルヘン帝国武力省将軍と、
もう一人は黄色に近いブロンドの長髪の女性、
メリッサ・ロンバート魔戦団総司令である。
「お久しぶりです、お二人とも。
あ、これお土産ですので―――」
「納豆は? 納豆はあるか!?」
ブロンド美女が真っ先にそこへ食いつく。
確か王都・フォルロワに来て以来、納豆に
はまってしまったんだっけ……
(■177話 はじめての しゅっこう
(らんどるふていこく)参照)
「ロンバート魔戦団総司令―――
納豆ならすでに、帝国でも生産しているで
しょうに」
同行したティエラ王女様が呆れながら話す。
ちなみに、帝国に到着した途端メルと
アルテリーゼは王宮の厨房へと連れ去られ、
そこで料理指導を行っており、
またルクレさんや他国の使者は、皇帝陛下との
謁見日程の調整に忙しく、
この司令室にいるのは私とこの三名のみである。
「ず、ずいぶんと納豆を気に入られたようで
何より……
それより今日は、ドラセナ連邦について
お聞きしたく来ました」
そこで私は本題を切り出し、二人から情報を
聞き出す事になった。
「では正直なところ、どうしてその連邦が
周辺国を従えられたかわからない、と?」
「うむ。例えば私は武器広範囲化魔法を持ち、
『一人の軍隊』という異名まである。
魔戦団総司令も同様、『隕石落とし』という
魔法があり、『星を降らせる者』という
二つ名があるが―――
それに匹敵する者はあの連邦にはいないのだ」
アルヘン将軍が両腕を組みながら語り、
「一応、この大陸北側の国・大ライラック国と、
東側の国・モンステラ聖皇国と並んで……
仮想敵国として検証もしているんだけどね。
さっき将軍が言った通り、取り分け強大な
魔法使いがいるわけでもない。
なのに周辺国を次々と平らげた。
ある意味厄介なんだよねぇ、こういう手の内が
わからない相手って」
ロンバート魔戦団総司令も片眉をつり上げながら
引き継ぐ。
確かにこの世界、一人の人間が戦況を決めて
しまう、という事はよくあるのだろう。
それだけ魔法の戦力差というのは絶対的だ。
「切り札として隠してあるとか……」
ティエラ様が疑問を呈するが、
「それも考えられなくはありませんが―――
彼らは元海賊集団の末裔。
そして国家運営にもあたっている。
抑止力として使える『名』を、そうまで
ひた隠しにして、果たして彼らに利益が
あるのかどうか」
将軍の意見に私も考え込む。
抑止力と言っても、それは防衛にだけ使われる
ものでもない。
これから攻め込むぞ、という時にも有効だ。
特に周辺国を切り従えてきたというのであれば、
そこで活躍した魔法使いの名前が、有名になって
いないのもまた不自然……
「どうですかねぇ?
『ソンシの兵法』の著者、シン殿の見解と
しては?」
「んむぐっ!?」
急に魔戦団総司令から話を振られ、食べていた
お茶菓子をのどにつまらせる。
「だ、大丈夫ですか?」
ティエラ王女様が飲み物をくれ、落ち着いた
私は改めて、
「いや、ですから『ソンシの兵法』は私が
考えたわけじゃ―――
ですがまあ、考えられる事はあります」
そこで三人がこちらをジッと見つめる。
プレッシャーを感じつつ私は口を開き、
「一つは、単純に強い事。
『一人の軍隊』、『星を降らせる者』と
並び称されるほどの者はいないのかも
知れません。
ですが全体的に見て兵士一人一人の魔法や質が
高ければ……
それで強いという事は十分考えられます」
冒険者で例えればゴールドクラスはいないが、
シルバークラスを主力に出来るほどの戦力が
ある、という事。
それならたいていの事には対応出来るだろう。
「もう一つは―――
何らかの『戦い方』を確立している場合です。
魔法による戦力差を覆すほどの、
技術や手段を持っている。
あるいは魔導具かも……
どちらにしろ憶測の域を出ませんが―――」
そう言うとアルヘン様もロンバート様も、
そしてティエラ様も、視線と落として黙り込む。
「あの……」
私が呼びかけると、三人ともハッとなって
顔を上げ、
「あ、ああ。すまなかった」
「確かに連中、海賊上がりだし―――
やり方はいろいろあると考えても不思議は
無いねぇ」
「さっそく陛下に上申して、シン殿の言う事に
基づいた検証を進めるよう、働きかけますわ」
そ、そんなに真剣に受け止められても……
とは言えるはずもなく。
まあ検証程度ならいいか―――
という事で自分を納得させ、ドラセナ連邦の
情報収集を終えた。
「あ、相変わらず慣れないというか……
信じられません!」
「王都に行く時も乗りましたが―――
一生、いや末代まで自慢出来ますぞ!」
「ふわあ、こんなに高いところを……
やっぱりすごいです!」
クロウさん、シシマルさん、ツバキさんの
鬼人族三人組が、窓の外を見ながら驚きの
声を上げる。
翌日、私たちはアルテリーゼの『乗客箱』に
乗って、飛行していた。
今回は公式な訪問でもあるので、大っぴらに
このような移動手段も使え、
一路、鬼人族の里へ向かう事になったのである。
「あちきが鬼人族で一番最初に乗ったのだー!」
「ほほう、自分で飛ばずに空を移動するのは、
なかなか快適なものだな」
パチャママさんの後に、フィリシュタさんが
続く。
彼女は帝都グランドールの大使館内にある、
『ゲート』を通じて来てもらった。
鬼人族の里に、新たに『ゲート』を作って
もらうためである。
『ゲート』を新しく設置するためには、
魔界にその担当であるミッチーさんが
いる事と―――
彼女が地上で感知出来る人がいなければ
ならない、という条件があった。
以前はそれが魔王・マギア様だったのだが、
今回はフィリシュタさんに代わってもらい、
彼女に同行してもらっている。
「しかし村? 里?
よっぽどそこが気に入ったのかね。
まあ新たな食材があると聞いたから、
私も協力してあげる事にしたけどムグムグ」
そう言いながらプラチナの長髪に長い耳の、
エルフのような外見の彼女は栗やサツマイモを
頬張る。
「ドラセナ連邦の件もあるからね。
避難する手段としても、作っておくのは
悪くないと思うし」
「あちき、両親に頼んで絶対作ってもらうから!
そうすればいつでも向こうの大陸に遊びに
行けるしー」
鬼人族の長の娘である彼女から頼もしい声が
聞こえ、
「まあ取引きするのであれば、あった方が
いいのは確かだろうねー」
『帝国を仲介するとしても、いろいろ面倒
そうじゃしのう』
「ピュイ~」
メルと、伝声管を通じてアルテリーゼも
会話に加わり……
鬼人族の里へと飛行を続けた。
「シン殿! そろそろです―――」
クロウさんから報告を受け、窓の外に目をやる。
「このまま行っても大丈夫でしょうか?」
「問題ありません。
この事はすでに『カワラバト』によって、
昨日のうちに通達済みでありますれば」
シシマルさんが答え、そういえば彼らには
伝書鳩という手段があったな、
と思い出す。
すると、一本の白い煙が上がってくるのが見え、
「里の狼煙です。
ドラゴン様、そちらへ向かい―――
適当な場所に着陸してくださいませ」
『わかったぞ』
ツバキさんの指示に従い、『乗客箱』は
高度を落としていった。
「ほ、本当にドラゴン様が……!」
「しかも人の姿になれるなんて」
「この大陸の者ではないという話だったが」
広場に着陸した私たちは、さっそく鬼人族たちの
野次馬に囲まれる事となった。
事前連絡があったからか敵意は感じないものの、
驚きと困惑が見て取れる。
すると、突然地響きが起こり―――
「な、何だ? 地震か?」
「あ、お父さん!!」
パチャママさんが駆けだし、その先にいる人物に
飛びつく。
彼女がお父さんと呼んだその人は、おそらく
二メートル半ほどの巨人で、
二本の角に真っ赤な顔……いや、顔と言わず
露出している肌が赤く、和風な衣装をのぞけば
昔話に出てくる『鬼』そのものだった。
「長!!」
「救出が遅れ申し訳ございません!」
「ここにいるシン殿の助けを借りて、
パチャママ様を何とか取り戻す事に
成功しました……!」
彼女を肩に乗せた長と呼ばれる人物の前で、
鬼人族三人組が跪く。
しかしこうして見ると、周囲にはチラホラ
身長二メートル超の鬼人族もおり―――
彼らの背丈は普通なのだな、と思う。
そこは隠密やスパイになるための制約も
あると思うが。
「……お主が、手紙にあったシン殿か。
ドラゴンを妻とし、さらに人間の妻も
いるという―――」
「は、はい」
頭上から威圧的な声をかけられ、思わず
緊張する。
「そう、か。ならば……
娘が欲しくば、ワシを倒してからだ」
「え?」
私の理解と分析が終わらないうちに、彼は
娘を肩から下ろし、巨大な、自分の身長と
同じくらいの大きさの金棒を持ち上げ―――
「お、お父さん!? 何するの!!」
「長!? いったい何を……!」
パチャママさんやクロウさんたちが止めに
入るも、
「人、ドラゴンときて―――
鬼人族の嫁も手に入れるつもりであろう。
ワシのパチャママちゃんは確かに可愛い。
大陸一可愛い!
しかし、そうやすやすと嫁に出来るとは
思うなあ!!」
いや、こっちはただ奴隷として売り飛ばされ
そうになっていた彼女を助けただけで―――
と言おうとしたところ、風圧を感じ、
「うわわっ!?」
目の前に巨大な金棒が叩きつけられ、思わず
姿勢を崩す。
「あー、こりゃダメかな。
シンー、ちゃっちゃとやっちゃって」
「我はメルとラッチと共に離れておるでの」
「ピュイ」
と、家族は『後は任せた』と言わんばかりに
離れていき、
「まあシンなら大丈夫でしょ?
さっさと終わらせるのだ」
フィリシュタさんも、事も無げに家族と一緒に
後方に下がる。
また周囲の鬼人族も遠巻きに距離を取り、
私とパチャママさんのお父さんの、一騎打ちの
ような状態になった。
しかしどうしたものか……
確かに無効化でどうにでもなるとは思うが、
彼はパチャママさんの身内。
魔物とかに使うように、その四肢では体は
支えられない―――
という条件だと、足を骨折させてしまう。
それに自分の能力はトップシークレット。
使ってもいいが、バレるわけにはいかない。
かなり制約が厳しくなるな……
そこで私は何とか脳をフル回転させ、
「……お? 何だぁ?」
私は彼が地面に突き立てた金棒に近付くと、
「自分の身長と同じくらいで、かつ自分の
体重の倍はあるであろう金棒を振り回す
『鬼の怪力』など―――
・・・・・
あり得ない」
そう小声でつぶやきながら金棒に片手をそえる。
『鬼の怪力』と限定すると周囲を巻き込みそう
なので……
そこに金棒の条件を付け足し、それを扱う事
前提の怪力を無効化させた。
そしてその結果は―――
「……ぬ? ぬぬっ!? こ、これは?」
恐らく、持ち上がらなくなっているのだろう。
地面からは持ち上がらないが、先端が軸になって
ぐらぐらと金棒は動く。
やがてそれは彼に覆いかぶさるように倒れ、
「ぬわあぁあああっ!!」
さすがに潰れる事はないが、パチャママさんの
お父さんは、金棒の下敷きになった。
後はこれで大人しく話を聞いてもられば、
と思って彼に近付くと、
「あんたあぁあああ!!」
女性の叫ぶ声が聞こえ、その姿がグングン視界内で
大きくなる。
マズい、今度はパチャママさんのお母さんか?
どうやってこの誤解を解こうかと身構えると、
お母さんらしき人はジャンプで宙に舞い上がり、
着地点は仰向けになったお父さんのボディで……
「ぐはぁあっ!?」
両足から落ちた彼女のダメージを彼はまともに
くらい、
「お客様に何しているのよ!!
パチャママを助けてくれた方って、手紙に
あったでしょーが!!」
その奥さんも身長二メートルほどで、
ショートヘアーから二本の角が突き出て
いて―――
旦那さんに乗っかったままこちらへ
振り向くと、
「ウチの宿六が大変失礼しましたなぁ。
歓迎しますぇ?」
微笑みながら、ペコリと頭を下げた。