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(何処から攻撃が?)
結界魔法を張っていないのだから何処かから攻撃がとんできてもおかしくないのだが、あまりにも不覚をつかれた攻撃だったので、一瞬反応が遅れてしまった。当たっていたら、どうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい。
ブライトは、ファウダーを守るようにして後ろにとんだ。私達の間には、黒い炎の矢が刺さっている。黒いといえば、以前そんな魔法を見たことがあったけれど、炎から感じられるのは、闇魔法だった。ということは、ヘウンデウン教の可能性も……いや、それしか考えられないだろうと、私は目を見開いた。近くにかすかに魔力は感じるし、そこから攻撃を仕掛けてきたのだろう。
バッと、ブライトの方を見れば、私に不信の目を向けてきていた。もしかして、これを狙っていたんじゃ……とでも言いたげな顔。
(だから違うんだって!)
あまりにも、タイミングが悪すぎるというか、狙っているとしか思えなかった。けれど、私達を狙う理由なんてあるのだろうか。若しくは、ファウダーを。
『ファウダーいまのって?』
『ヘウンデウン教だと思う。分かんないけど……狙っていたのは、多分、ぼく……』
『そう……じゃあ、今のうちに逃げなきゃ』
『ステラはどうするの?』
テレパシーは凄く活用出来た。ブライトに気づかれないほどの少量の魔力で繋がる事が出来るから、ブライトは私に目を向けつつも、私達が会話していることには気づいていないようだった。
ファウダーは、自分を狙っているといった。顔を見れば、少し不安げに眉を曲げている。小さい子供だからこそ、そんなかおをされると胸が痛くなる。どうにかして、二人を逃がす隙を作らなければと思った。
(けど、ブライトがいる状況でそれをやって大丈夫なわけ?)
ブライトがいる今、私が魔法を使ったら、本当に疑われかねない。ヘウンデウン教と対立しているのだから、敵とは思われないだろうけれど、印象が悪くなる。そもそも、魔力を持っているとバレている時点でつんでいるのだが。
そんなことを考えていると、二発目、三発目と、矢が飛んできた。私はそれを避けつつ、ブライトたちの方を見る。ブライトは、ファウダーを抱きかかえながら動いているためもの凄く動きが鈍い。このままでは、当たってしまう。それなりに、防御魔法を張っているようだったが、彼もいきなりのことで、頭が追いついていないようにも思えた。
(考えている暇なんてないじゃん。ここは、私がやるしか)
ブライトが、普通に戦える状況だったらいいのだが、そうはいかない。それに、ファウダーをもしここで誘拐されればどうなるか分かったもんじゃない。ヘウンデウン教があまりにも凶悪な教団だって分かっているからこそ、ここでファウダーが誘拐されるのだけは、阻止しなければと。
考えている暇などなかった。相手は、二人ぐらい。ブライトたちを庇わなければ、多分腕は鈍っていないだろうし戦える。この二人を逃がすことぐらい、この身体なら大丈夫だと。私は、ブライトの方を見た。
「私が、引きつけるから、二人は逃げて」
「で、ですが、レディは」
「私のことは気にしないで。てか、アンタ私が魔力あるって気づいているじゃん」
「……信用しろと」
「まだ、いう?」
この期に及んでそんなことを言うのは、ブライトぐらいだろうと突っ込みたかったが、そんな余裕もなく、闇の矢が飛んでくる。当たったら、全身大やけどだろう。喋りながらじゃ、私も集中できない。魔力感知があるからこそ、何処にとんでくるのか分かるけれど、気が散ったら誤差が生れるかも知れない。兎に角、ここから逃げることだけを考えて欲しい、とブライトを見る。
「お兄ちゃん、逃げる。逃げる」
「ファウ」
「信じて大丈夫。あの人のこと信じてあげて」
ファウダーがそう言うと、ブライトはもう一度私の方を見た。私の言葉が届かないのは仕方ないと思いつつ、弟の言葉は信じてあげて欲しいと思った。許せないのかも知れないけれど、混沌だけれど。それでも、アンタの弟だろうと。
私は、再度、いって! と叫ぶ。ブライトは、コクリと頷いて「気をつけて下さい」と言い残し去って行く。風魔法を使ったのだろうか、やけに彼らの身体は軽々と舞、消えていった。どんな魔法を使ったかは、この際どうでもよかった。
ひゅんと、私の足下に飛んでくる矢。単調な攻撃だと思っていれば、地面に突き刺さったはずのそれが、四散し、頬をかすめる。熱さと、鈍い痛みが頬を走る。
「……っ」
攻撃を変えてきた。手練れなのかも知れない。相手は二人。余裕だと思っていたが、もしかしたらそうじゃないかも知れないと、今更不安になってきた。これまで戦ってきたのは、人間というよりも、動きが鈍い肉塊とか、魔物とか、知性をギリギリ感じるような奴らだった。けれど、人間相手は慣れていない。それに、一応の情があるから、殺してしまうかも知れないとストップがかかってしまう。
けれど、そんなこと思った方が負けで、それにつけ込まれたら、殺される。ヘウンデウン教はそれすら利用する集団だと私は分かっているから。
「いい加減出てきなさい!卑怯じゃない!」
私がそう叫ぶと、攻撃が一旦止み、シュパッと黒衣の男が二人私の前に姿を現した。如何にもっていう感じの暗殺者。いや、ヘウンデウン教の信者なのだろう……感じる魔力も、そこら辺の魔道士とは違う。そして、闇魔法の気配も感じる。
(ひぃー逃がしたけど、やっぱり怖い!怖くなってきた!)
顔がよく見えないのもあっって、何を考えているのか読み取るのは不可能に近かった。顔から感情を読み取ったところで、何になるといわれればその通りで、助けて欲しい。
見栄張って彼らを逃がすんじゃなかった……いや、逃がさないと、どうなっていた考えるほうが末恐ろしいし、ファウダーのこともあったけれど。
でも、こうして行動したことで、何かしら好感度は上がったんじゃないかと思った。そんなこと考えても仕方ないし、こしゃくだと思うんだけど。
黒衣の男たちが私を睨み付けていることはよく分かった。獲物を捕られて、逃がしてしまって、それに対する八つ当たりでもしてきそうな男たちに、私は震えるしかなかった。けれど、弱みをみせれば、怯えていると悟られれば、勝てると彼らに自信を与えてしまうかも知れない。だから、私は見栄を張るしかなかった。
「アンタ達の存在には気づいていたわよ。こそこそと卑怯な人達ね」
「誰だ、お前は」
「ブライト・ブリリアントと何の関係がある」
「関係……ただの通りすがりの、善人よ」
何て返せば良いか分からなかったから、咄嗟に意味の分からない言葉が出てきた。悪人だけを殺す紅蓮の暗殺者みたいだ、なんて自分で思いながら、やはり、狙いはファウダーだったのだと気づく。逃がしていなければどうなっていたのだろう。というか、あの二人は何処まで逃げることが出来たのだろうか。彼らが追えていない所を見ると、もうこの場から離脱してしまったらしい。
黒衣の男は、顔をしかめる。不愉快だと言わんばかりに、周りに魔力をピリつかせる。
「アンタ達、ヘウンデウン教の信者でしょ?」
「だったら何だ」
「貴様が邪魔しなければ、今頃ファウダー・ブリリアントを……」
おい、それをいうなと、背中を叩く。いや、もう分かっていたことだし、コントにしか見えないけれど。と、私は彼らから視線を外さずに見つめる。
私とファウダーが二人きりだったことを、彼らは気づいていたのか。けれど、ファウダーは感知できないように魔法をかけていたはず。でも、彼の魔法は不安定だといっていたし、そこから漏れたのかも知れない。混沌の気配ぐらい、ヘウンデウン教の奴らはかぎわけることが出来るのだろう。
問題はまあ、そこじゃないけれど。
「我々の邪魔になる存在であれば、今ここで殺す」
「お嬢さん一人で、俺達なんて相手できないだろう。協力者になるか、若しくは――いや、ここで殺す」
そう言うと、黒衣の男たちは自分の影から真っ黒な狂犬を出現させた。