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もうバレてるうん完全に ああぁただもう続きが楽しみすぎる
保健室の扉が、控えめにノックされた。
「……失礼します」
入ってきたのは、赫の学年主任だった。
その姿を見た瞬間、赫の肩がびくっと跳ねる。
黄も、はっと顔を上げた。
(この先生……)
昨日。
赫がひとりで職員室に行って、
「証拠を出してくれた人を知りたい」
そう頼みに行った、あの人だ。
学年主任は、ベッドの翠を一目見て、表情を強く曇らせた。
「……ここまで、来てしまったか……」
低い、重たい声だった。
赫は、堪えきれず一歩前に出る。
「先生」
呼び止める声は、思ったより震えていなかった。
「俺……昨日も聞きましたよね。
証拠、誰が出したのか」
学年主任は、すぐには答えなかった。
視線を、黄、赫、そして眠る翠へと順に向ける。
「……昨日、赫に話したように
君たちが、もう探し始めているのは知っている」
その言葉に、赫は唇を噛んだ。
「だって、おかしいんです」
一気に、言葉が溢れる。
「俺がいじめられてたって話、
“証拠が足りない”って、ずっと言われてた」
「なのに、急に退学処分になった」
「しかも……俺がやられてた時期じゃない映像が決定打だったって聞いて」
赫の視線が、翠へ向かう。
「……それで、俺……思ったんです」
黄も、静かに続ける。
「……映像に、
赫っちゃんが映ってないんですよね」
学年主任の指が、わずかに強く握られた。
沈黙。
それだけで———
二人の中の“疑問”が、確信に変わり始める。
「先生」
赫が、まっすぐに言った。
「俺たち、知る権利ありますよね」
「守られた側として」
「……誰が、代わりに傷ついたのか」
その言葉は、強かった。
でも、責める色はなかった。
学年主任は、深く息を吸い、ゆっくり吐いた。
「……昨日」
「君が“誰か教えてくれ”と来たとき」
赫と、黄は身構える。
「私は、答えなかった」
「それは……本人から、“家族にも言わないでほしい”と強く頼まれていたからだ」
黄の胸が、嫌な音を立てた。
(……家族にも……?)
赫の声が、かすれる。
「……それ、誰ですか」
学年主任は、翠を見つめたまま、言った。
「……今は、名前を出せない」
「だが」
そこで、はっきりと二人を見る。
「君たちが想像している人物と、
大きくは違わない」
保健室の空気が、凍った。
赫の指先が、震える。
「……先生」
「俺、昨日も言いましたよね」
「“もし、その人が今も苦しんでるなら、
俺は知らないふりなんてできない”って」
学年主任は、静かに頷いた。
「覚えている」
「だからこそ、今日は来た」
そう言って、一歩近づく。
「……君たちには、近いうちに、すべてを話す必要がある」
「ただし———」
視線が、再び翠に落ちる。
「それは、彼が意識を取り戻し、
自分で“話してもいい”と言ったときだ」
その瞬間。
ベッドの上で、
翠の喉が、小さく鳴った。
黄が、息を呑む。
「……翠君……?」
まぶたが、ほんの少しだけ震える。
まだ、戻らない。
でも———
確かに、“聞いている”反応だった。
なつは、ぎゅっと拳を握りしめた。
(……やっぱり)
(全部……)
(翠にぃに、集中してる)
灯台下暗し。
一番近くにいて、
一番優しくて、
一番我慢していた存在に———
ようやく、光が当たり始めていた。